【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
220 / 276
第五部

14 エレナ、学園の中庭で過ごす

しおりを挟む
 それから数日、わたしはというと……
 たまに、ご令嬢たちから殿下と幼い頃に過ごした領地での話を聞かせて欲しいと囲まれてせがまれたりするくらいで、いつも通りの王立学園アカデミー生活を送っていた。
 そして殿下がわたしにべったりだったのも初日だけで、相変わらずお忙しいらしく、あまりお会いできない日が続いていた。
 殿下にチヤホヤされるのはやっぱり周りに気を使うから、むしろホッとしている節もあったのに……

 なぜかいまわたしの眼下には陽光に照らされ風にたなびく麦穂のように、キラキラと輝く金色が広がっている。

 今日の休憩時間はご令嬢の皆さんと中庭で刺繍の予定。わたしが講師になって皆さんの刺繍にアドバイスをするなんて畏れ多い役割を与えられてしまっていた。
 本当はわたし的に、毎日スピカさんの応援を兼ねて差し入れを渡しに行きたかったのだけれど。
 見学に行くと狭い訓練場なのにわたしの周りにご令嬢たちの人垣ができてしまいご迷惑になることが続き広い中庭で過ごすことが増えた。
 かりそめの婚約者でしかないわたしと親しくなっても仕方ないと思うのに……
 ため息をつきながら眼下に広がる金色を撫でる。

「あっ……。緊張でまた針をいれる場所間違えちゃったわ……」
「わたしもよ。ステッチの幅がバラバラだわ」
「もともと得意じゃないんだから、緊張しててもしてなくても、刺繍の腕はいつもと大して変わらないようにしか見えないけど」

 顔を見合わせてベリンダさんとミンディさんが呟きあっているのを殿下の護衛の一人としてついてきたブライアン様が顔をくしゃくしゃにして笑いながら茶々を入れる。

 気軽な調子に、普段は護衛騎士然としたキリリとしたブライアン様しか知らないわたしはつい声を上げて笑ってしまった。
 周りの視線を感じて慌てて首を振る。

「ごめんなさいね。ブライアン様もうちのお兄様のように妹を揶揄ったりするのだと思って、つい笑ってしまったの」
「まあ! いつも穏やかなエリオット様がエレナ様を揶揄うなんて想像つかないわ!」
「ええ、そうですわ! エリオット様はエリナ様が王立学園アカデミーに通われる前から、それはもうエレナ様のことを『可愛い妹』だなんておっしゃって大切にされてらっしゃいましたわ」
「ええ、私たちがエリオット様をパーティにお誘いしても、事あるごとに『その日はうちの可愛い妹と過ごすんだ』なんておっしゃってましたもの。エリオット様みたいなお兄様がいらっしゃるなんて羨ましいですわ」

 わたしの説明にベリンダさんが目を丸くしてそう驚くと、周りのご令嬢たちも口々にお兄様を擁護する。

 なにそれ! 
 ご令嬢たちの話す内容に、わたしは開いた口が塞がらない。

 去年の記憶が曖昧だったとしても、お兄様は領地にいるわたしに会いに来たのなんて数えるほどしかないはずだわ!
 自分が女の子に愛想振り撒くだけ振り撒いて、いざ言い寄られて面倒になったら、わたしを言い訳にして断ってたってことじゃない。

「そう。まるで『お兄様の可愛い妹』は、人の良いお兄様に甘えてわがままばかり言って振り回してるかのようだわ」

 後でお兄様を問い詰めてやる!
 わたしは強く決意した。

「……んんっ」

 慌てて視線を下す。つい苛立って金色を撫でる手が雑になってしまったらしい。膝の上で頭が動く。息漏れですら艶やかだ。
 ゆっくりと開かれた深い湖のような真っ青な瞳と視線が交じり合う。

「殿下。起こしてしまったのね。よく寝ていらしたのにすみません」

 わたしの顔をじっと見つめると、殿下はゆっくりと体を起こす。そっとこちらに右手を伸ばした。
 頬を包む大きな男らしい手は優しく温かい。
 ご令嬢たちの声にならない悲鳴が鳴り響いた。

「エレナ。どうしたの?」
「ふぇ?」

 急な問いかけに間抜けな返事しかできなかったわたしに、殿下は眉を顰める。

「ブライアン。いま何が起こったのだ。私のエレナを傷つけるような出来事があったのか?」

 冷たい声に賑やかだった周りもシーンと静まり返る。

「違うわ! 殿下の危惧するようなことは何も起きてないわ。わたしが一人お兄様に腹を立てていただけよ」

 慌てて弁明してわたしは殿下の手に自分の手を添える。頬を手に預けて見上げると、殿下は空いている左手で胸を押さえ「ぐぅっ」と苦しそうな呻き声をこぼした。

「殿下、大丈夫? って聞くだけ野暮か」
「お兄様のせいよ」

 わたしはどこからともなく現れたお兄様を睨みつけた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...