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所詮俺は影に過ぎない。
殿下の相手だというのにまともな候補が出なかったのは時期が悪かったとしかいいようがない。
そもそもまず陛下にお子がなかなか出来なかった。どの辺りに理由があるのかはそれでも殿下の存在が確認されて以降表だって触れる人はいないが。
その殿下を妃殿下が身ごもられたと判明する二年ほど前、この国には死病が流行った。
食物が理由と思われ、罹患者は圧倒的に貴族階級の女性と子供が多かった。妃殿下がお一人無事だったのは不幸中の幸いだろう、偏食でわがままだっただけだろうが。
当時原因は心当たりすら分からずじまいだったが病自体は一年でほぼ収束した。恐らく一年で収穫出来る食物で、その年だけが汚染されていたのだろうと推測がなされた。なぜ汚染されたかは未だ発表されていない。既に汚染された食物は残っていないだろうので、永遠にはっきりと解明する事はないだろう。
とにかく貴族は子供や、子を産める母や娘、それらがほぼいなくなってしまった。かろうじて生きてはいても子を望めるかは怪しい。
流行終了までに離乳食までいくかいかないかのまだ赤子と言って差し支えのない年齢の者は残っているが、その子らが育つまでの、育ってから次代を産み育てるまでがあまりにも長い。
それでも貴族の血を穢すまいと思った貴族達はこぞって政略での婚約を結び始めた。
普通ならまたあまり婚約しない年齢とはいえ赤子同士やあるいは成人前ならまだいい方で、結婚していなかった成人した男性、妻を病で失った後継のいない中年までも数少ない女児を取り合った。後続はいるが妻を亡くした男性が求めればさすがに冷たい目で見られていたが、良識に則ってではないだろう。
その傾向は上位貴族ほど顕著で、女児の婚姻はその時ほぼ決まってしまっている。
そこで判明する妃殿下の懐妊。生まれたのは本来なら喜ばれるはずの男児。
けれど婚約者になれる立場の上位貴族の女児には繰り返すがほぼ既に相手が決まっている。
次に子供がそれなりに産まれるのは早くても十年以上後だろう。貴族に死者が多かったのは出産が早かったためという因果関係の分からない噂が流れ未だ根強いため、母体を減らさないようにもっと遅れるかもしれない。
さすがに同母の妹とは結婚出来ないので、妃殿下に誰か別の相手を宛がうことまでするのはいろいろな意味で無理だし無意味だ。
そんな状態なのに即座に女児を献上出来る家は忠誠心に篤いか、野心が強いか、どこかから利用するために子供を連れてきたか辺りだろう。
忠誠心にしろ野心にしろこんな状況で短期間で婚約を円満に解消出来るとは思えない以上、将来的に問題を生むだろう。どこの子供か分からないのはいろいろな意味で論外だ。
そんな何が起こるか分からない状態で、これ以上望めない可能性もある我が子を危険な目には遭わせられないと思われた陛下は影を立てることを思いつかれた。
結果、俺が影に選ばれた。
うちの一族は常日頃から毒に耐性を付けているので女性も子供もほぼ病気にはかからなかった。
そして影にするには都合の良いことに王族に似通った特徴を持つ容姿の者も多い。
なぜなら王家の血を引いているからだ……ただし、追放、隔離先という意味で。
なのでどこまでも表に出ることが出来ない一族で、いくら女性がいようとも婚姻相手にはその辺りの庶民よりよほど候補に入らない。
それは男性も同じだった。
なので恋い焦がれようとも彼女が手に入る事はあり得ない。
残りの婚約者扱いされている者がもっと上手く誤魔化せて大丈夫と思われていたなら、今頃彼女も含めて既に本物の殿下と引き合わされていたはずだ。
消去法とはいえ残り一人になってしまった以上、もう俺に会わせてくれる事はないだろう。
そういう意味では最後に会えて僥倖だったのだろう。
部下すらまた伝染病かと疑う状況でいつからかは知らないが看病してくれたのだから、少しはうぬぼれてもいいのだろうか?
あの後、殿下には同腹の弟君がお二人生まれている。
そういう意味では年頃の女性である彼女の方が実質的に価値が高い。
殿下に媚びを命がけで売る必要はないだろう。
俺が影であることは彼女は知らないだろうが。
「最後に会えて良かったです」
「は?」
……だから。彼女は知らないはず……。
「殿下に毒を盛ったのはわたくしです」
殿下の相手だというのにまともな候補が出なかったのは時期が悪かったとしかいいようがない。
そもそもまず陛下にお子がなかなか出来なかった。どの辺りに理由があるのかはそれでも殿下の存在が確認されて以降表だって触れる人はいないが。
その殿下を妃殿下が身ごもられたと判明する二年ほど前、この国には死病が流行った。
食物が理由と思われ、罹患者は圧倒的に貴族階級の女性と子供が多かった。妃殿下がお一人無事だったのは不幸中の幸いだろう、偏食でわがままだっただけだろうが。
当時原因は心当たりすら分からずじまいだったが病自体は一年でほぼ収束した。恐らく一年で収穫出来る食物で、その年だけが汚染されていたのだろうと推測がなされた。なぜ汚染されたかは未だ発表されていない。既に汚染された食物は残っていないだろうので、永遠にはっきりと解明する事はないだろう。
とにかく貴族は子供や、子を産める母や娘、それらがほぼいなくなってしまった。かろうじて生きてはいても子を望めるかは怪しい。
流行終了までに離乳食までいくかいかないかのまだ赤子と言って差し支えのない年齢の者は残っているが、その子らが育つまでの、育ってから次代を産み育てるまでがあまりにも長い。
それでも貴族の血を穢すまいと思った貴族達はこぞって政略での婚約を結び始めた。
普通ならまたあまり婚約しない年齢とはいえ赤子同士やあるいは成人前ならまだいい方で、結婚していなかった成人した男性、妻を病で失った後継のいない中年までも数少ない女児を取り合った。後続はいるが妻を亡くした男性が求めればさすがに冷たい目で見られていたが、良識に則ってではないだろう。
その傾向は上位貴族ほど顕著で、女児の婚姻はその時ほぼ決まってしまっている。
そこで判明する妃殿下の懐妊。生まれたのは本来なら喜ばれるはずの男児。
けれど婚約者になれる立場の上位貴族の女児には繰り返すがほぼ既に相手が決まっている。
次に子供がそれなりに産まれるのは早くても十年以上後だろう。貴族に死者が多かったのは出産が早かったためという因果関係の分からない噂が流れ未だ根強いため、母体を減らさないようにもっと遅れるかもしれない。
さすがに同母の妹とは結婚出来ないので、妃殿下に誰か別の相手を宛がうことまでするのはいろいろな意味で無理だし無意味だ。
そんな状態なのに即座に女児を献上出来る家は忠誠心に篤いか、野心が強いか、どこかから利用するために子供を連れてきたか辺りだろう。
忠誠心にしろ野心にしろこんな状況で短期間で婚約を円満に解消出来るとは思えない以上、将来的に問題を生むだろう。どこの子供か分からないのはいろいろな意味で論外だ。
そんな何が起こるか分からない状態で、これ以上望めない可能性もある我が子を危険な目には遭わせられないと思われた陛下は影を立てることを思いつかれた。
結果、俺が影に選ばれた。
うちの一族は常日頃から毒に耐性を付けているので女性も子供もほぼ病気にはかからなかった。
そして影にするには都合の良いことに王族に似通った特徴を持つ容姿の者も多い。
なぜなら王家の血を引いているからだ……ただし、追放、隔離先という意味で。
なのでどこまでも表に出ることが出来ない一族で、いくら女性がいようとも婚姻相手にはその辺りの庶民よりよほど候補に入らない。
それは男性も同じだった。
なので恋い焦がれようとも彼女が手に入る事はあり得ない。
残りの婚約者扱いされている者がもっと上手く誤魔化せて大丈夫と思われていたなら、今頃彼女も含めて既に本物の殿下と引き合わされていたはずだ。
消去法とはいえ残り一人になってしまった以上、もう俺に会わせてくれる事はないだろう。
そういう意味では最後に会えて僥倖だったのだろう。
部下すらまた伝染病かと疑う状況でいつからかは知らないが看病してくれたのだから、少しはうぬぼれてもいいのだろうか?
あの後、殿下には同腹の弟君がお二人生まれている。
そういう意味では年頃の女性である彼女の方が実質的に価値が高い。
殿下に媚びを命がけで売る必要はないだろう。
俺が影であることは彼女は知らないだろうが。
「最後に会えて良かったです」
「は?」
……だから。彼女は知らないはず……。
「殿下に毒を盛ったのはわたくしです」
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