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04 可能性
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◇◆◇
なんて。
もしかしたら、季節の変わり目に良くある風邪かなんかで、ジークは体調が悪くなったのかなって、私がそんな風に呑気に構えて居られたのは、ジークの様子が突然おかしくなった日から、三日後までのことだった。
「……え? 今日も、ジークは体調悪いんですか?」
いつも通り、結婚式や新居のことなんかを話し合うために、私は婚約者のジークを訪ねてマックール邸までやって来た。
また空振りで帰るしかなくなってしまった私の応対をしてくれるためにわざわざ出て来た様子のエルネストお義兄様は、いつも豪快な性格の彼らしくなく歯切れ悪い口調で質問をした。
「そう、なんだが……俺も、婚約している男女二人の間のことに、余り口を挟みたくない。だが……もしかして、うちの弟とレティシアは、最近何かあったかい?」
エルネストお義兄様は、慎重に言葉を選ぶようにして言った。
最近、何かあったかと言われても……普段の私たちと何か変わったことがあったかと言われたら、お茶会の途中で、急に席を立ってしまったジークに驚いたことくらいしかない。
「……えっ? ジークと私の間に……? いいえ。全く何も。体調を崩す三日前まで、新居や結婚式のことを順調に相談していましたし……本当に、何もありません」
あまり顔色も良くないエルネストお義兄様に対して、彼は何を誤解しているのだろうと不思議になりつつも、私は胸を張ってそう言った。
もし、二人の関係に何か不満や不安があったとしたら、誰よりも先に当事者の私に対してきちんと伝えてくれるはずだ。
私の婚約者のジークは誠実で、そういう人だもの。
こうして、二人の間にあったことなんて、何も知らない兄を伝言係にするなんて……考えられない。
「うーん。そうか……おかしいな。俺から見ていても、君と弟の仲は非常に上手くいっていると思って居たんだが……この前に、あいつはいきなり……俺と父に今から君と婚約解消出来ないかと、相談して来てね」
「え!?」
エルネストお兄様の唐突な話に、目を見開いた私は信じ難い思いで心の中は一杯だった。
体調を悪くしたと思えば、私との婚約解消を急に言い出したって……何も事情が繋がらないし、彼がそうした理由も……全く見当もつかない。
「……もちろん。ここまでの長い年月を、アヴェルラーク侯爵家の大事なご令嬢と婚約していた訳だからね。二人の気持ちが離れたからとか、そういった理由だけでは済まされない。貴族社会の中での、両家の体面だってある。それに、レティシアには全く非がないと言う。それは、婚約して十年経っている今になっては、とても無理だと俺は言ったんだが……弟は、どうにもそれを聞いてから、酷く辛そうな様子でね。君に何の心当たりもないとすると……何か、妙な誤解があるのかな……」
思案顔のエルネストお義兄様の心配は、もっともだ。
上手くいっている仲と思っていた大事な弟と弟の婚約者の間に挟まれてしまい、彼も複雑な心境になっていたことだろう。
「……ジークは、今何処にいますか?」
「レティシアなら、これを聞けば真っ先にそう言うと思っていたよ。弟なら三日前から食事もろくに食べずに、あいつの自室に篭もったままだ……既に人払いも、済ませてある」
「感謝します」
私はそう言ってエルネストお義兄様に正式な貴族の礼を取ってから、ジークの部屋の方向へと向かって歩き始めた。
エルネストお義兄様は、次期マックール侯爵となられるだけあって、先読みも出来る有能な人だ。あまり広まって欲しくない展開になるかもしれない痴話喧嘩が広まってもいけないと、使用人の人払いだって前もってしてくれていたのだろう。
ジークが婚約解消をしたがっていると聞かされた私はというと、この事態が本当に信じられないし、頭が良く理解も出来ない。というか、理解したくなんてない。
とにかく……ジークに会って直接話をするまでは、悪い可能性の何ひとつだって、考えたくもない。
なんて。
もしかしたら、季節の変わり目に良くある風邪かなんかで、ジークは体調が悪くなったのかなって、私がそんな風に呑気に構えて居られたのは、ジークの様子が突然おかしくなった日から、三日後までのことだった。
「……え? 今日も、ジークは体調悪いんですか?」
いつも通り、結婚式や新居のことなんかを話し合うために、私は婚約者のジークを訪ねてマックール邸までやって来た。
また空振りで帰るしかなくなってしまった私の応対をしてくれるためにわざわざ出て来た様子のエルネストお義兄様は、いつも豪快な性格の彼らしくなく歯切れ悪い口調で質問をした。
「そう、なんだが……俺も、婚約している男女二人の間のことに、余り口を挟みたくない。だが……もしかして、うちの弟とレティシアは、最近何かあったかい?」
エルネストお義兄様は、慎重に言葉を選ぶようにして言った。
最近、何かあったかと言われても……普段の私たちと何か変わったことがあったかと言われたら、お茶会の途中で、急に席を立ってしまったジークに驚いたことくらいしかない。
「……えっ? ジークと私の間に……? いいえ。全く何も。体調を崩す三日前まで、新居や結婚式のことを順調に相談していましたし……本当に、何もありません」
あまり顔色も良くないエルネストお義兄様に対して、彼は何を誤解しているのだろうと不思議になりつつも、私は胸を張ってそう言った。
もし、二人の関係に何か不満や不安があったとしたら、誰よりも先に当事者の私に対してきちんと伝えてくれるはずだ。
私の婚約者のジークは誠実で、そういう人だもの。
こうして、二人の間にあったことなんて、何も知らない兄を伝言係にするなんて……考えられない。
「うーん。そうか……おかしいな。俺から見ていても、君と弟の仲は非常に上手くいっていると思って居たんだが……この前に、あいつはいきなり……俺と父に今から君と婚約解消出来ないかと、相談して来てね」
「え!?」
エルネストお兄様の唐突な話に、目を見開いた私は信じ難い思いで心の中は一杯だった。
体調を悪くしたと思えば、私との婚約解消を急に言い出したって……何も事情が繋がらないし、彼がそうした理由も……全く見当もつかない。
「……もちろん。ここまでの長い年月を、アヴェルラーク侯爵家の大事なご令嬢と婚約していた訳だからね。二人の気持ちが離れたからとか、そういった理由だけでは済まされない。貴族社会の中での、両家の体面だってある。それに、レティシアには全く非がないと言う。それは、婚約して十年経っている今になっては、とても無理だと俺は言ったんだが……弟は、どうにもそれを聞いてから、酷く辛そうな様子でね。君に何の心当たりもないとすると……何か、妙な誤解があるのかな……」
思案顔のエルネストお義兄様の心配は、もっともだ。
上手くいっている仲と思っていた大事な弟と弟の婚約者の間に挟まれてしまい、彼も複雑な心境になっていたことだろう。
「……ジークは、今何処にいますか?」
「レティシアなら、これを聞けば真っ先にそう言うと思っていたよ。弟なら三日前から食事もろくに食べずに、あいつの自室に篭もったままだ……既に人払いも、済ませてある」
「感謝します」
私はそう言ってエルネストお義兄様に正式な貴族の礼を取ってから、ジークの部屋の方向へと向かって歩き始めた。
エルネストお義兄様は、次期マックール侯爵となられるだけあって、先読みも出来る有能な人だ。あまり広まって欲しくない展開になるかもしれない痴話喧嘩が広まってもいけないと、使用人の人払いだって前もってしてくれていたのだろう。
ジークが婚約解消をしたがっていると聞かされた私はというと、この事態が本当に信じられないし、頭が良く理解も出来ない。というか、理解したくなんてない。
とにかく……ジークに会って直接話をするまでは、悪い可能性の何ひとつだって、考えたくもない。
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