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10 指輪

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「ちょっと待って。僕が、レティシアに懸想して、あいつを裏切る? もしかして、ここジークの数日の体調不良は、その有り得ない疑いのせいなのか? 本当に申し訳ないけど、今までに一度たりとも……それは、全くもって考えたことも無い。何をどうしたらそんな勘違いをするんだ……?」

 私の話した内容に不快そうに眉を顰めたアルベールは、ジークから直接聞いた私以上に良くわからない話の流れに動揺しているようだった。私だって彼と同じ立場なので、気持ちはわかる。

 けど、私が慌ててアルベールの元にこうしてやって来た理由も、理解はして自分の目の前にあった椅子を指し示し話を聞く体勢になった。

 アルベールは私が先程ジークから聞いた彼が繰り返し起きているという悲劇の内容を詳しく説明しても、良くわからないという表情を崩さないままで呟いた。

「あいつは……ジークフリートは、誰かを騒がせたいからと、こんな良くわからない嘘をつくような人間ではない。だから、それはきっと事実なんだろう。けど、僕と君の二人が、あいつを近い将来裏切る……? 有り得ないな」

「だよね。私も、それは同じなんだよね。だって、アルベールは私の事、親友のことが好き過ぎる変な女としか、絶対思ってないし……」

「僕の中での、自分の立ち位置を正確に把握してくれていて、とても話が早くて助かるよ。けど……なんだか、君の話を聞くと……何かの良くない呪いのような、気がするね……精神を操るような。レティシア。念の為に、これから決して外さずに身に付けておいて」

 立ち上がったアルベールは、文机の引き出しの中から取り出した立派な小箱を手にして、私に渡してくれた。首を傾げつつ中を開けば、何の変哲もない飾り気もない小さな銀の指輪だ。

「え? 何これ?」

「……それは、ロナン伯爵家に伝わる、大事な家宝のひとつなんだ。魔術的な呪いを、防ぐ護符の指輪だ。僕はもうひとつ兄に受け継がれたものを借りて、それを身に付けておくことにするよ。個人で扱うにはかなり高価な指輪なんだけど、レティシアの話を聞いていると、多分……君もこれを持っておいた方が、良いと思う。僕ら二人が心を操られさえしなければ、ジークフリートが今恐れているような事態には、決してならない筈だ」

 貴重な魔除けの指輪を貸してくれるというアルベールが言いたいことは、私にも理解出来た。

 要するにアルベールは私たち二人は、何らかの呪いでもなければ、ジークを裏切るなんていうことは有り得ないと、彼だってそう思っているのだ。

「……そうよね。ジークが何度も何度も経験した人生の中では、私はアルベールに心を移したのよね? ……絶対に、有り得ないことだけど」

 そんな二人が寄り添いジークの前に姿を現す嫌な想像をして。どうしても顔を歪めてしまった私に、アルベールは微妙な表情をして頷いた。

「うん。ちょっと、まあ。そうだな。君はそう思うだろうなと、わかってはいても、そうして面と向かって言われたら、若干傷つくけど……確かにその通りだ。君は大好きなジークを裏切って、何か良い事があったかと言われたら、何ひとつとしてないだろう。きっと……誰かに、心を操られていたんだ。その相手役となった僕だって、きっとそうだろう」

「そっか……信頼していた二人が操られて、裏切るような態度を見せれば、ジークは驚き動揺してしまって、その可能性には、彼も気が付くことが出来なかった?」
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