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『水無瀬 初音』

 その名前が今見ている間にも新着の通知に押され下の方へと移動していくのを見て、どうしてもイラついてしまう気持ちが抑えられない。

 まだ付き合って間もない彼女の水無瀬さんは、俺に対して何故か必要最低限の連絡事項以外の連絡をしない。だから、メッセージアプリの画面を開くと、彼女の名前がどんどん新着の通知に埋もれて行ってしまう。

 この前にも水無瀬さんがエアコンの修理業者が来るから自宅に帰るという、連絡を貰ったのに埋もれ過ぎて見失ってた。もっと早くに気がついていられたら、修理業者が居る間、密室で危ないから俺も時間を調整して一緒に居たのに。

 このメッセージアプリは必要なものは空いた時に確認すれば良いかと思い、これまでは通知はしない設定にしている。つまり、今は水無瀬さんからの連絡が来ても、俺にはすぐにはわからない。

 俺の家に必要あって居候していた時は、まだ良かった。家に帰れば彼女に会えたし、俺に向けられる好意は会えばその空気感で伝わって来たからだ。だから切羽詰まった様子のゼミの皆にも悪いと思いつつ、隙あらば帰ることをやめられなかった。

 前に付き合っていた人と水無瀬さんを比べてしまうのはいけないことだと分かってはいるが、こんなにも向こうから連絡を貰えないとなると、自分はそこまで彼女に好かれていないのかと多少不安にもなってくる。

 一日中やりとりのラリーの続くような……朝晩の挨拶をしろとまでは求めてはないけど、一日一通くらいは向こうから送って来てくれても、別に良くないか?

 自分開始の短めのやりとりをザッと眺めてから、息をつく。とにかく俺との会話を早く終わらせたいと言わんばかりの、彼女の素っ気ない対応。こういう性格の子も居るんだろうと、そう思いつつも、会っている時の彼女の様子とは全く真逆で納得はいかない。

 いや、水無瀬さんは俺のことが……好きなはずだ。そこの前提が崩れてしまえば、今までのすべてが説明できない。

「芹沢。お疲れ。何、眉間に皺寄せて、スマホの画面睨み付けてんだよ。怖いぞ」

「……お疲れ。佐久間。ちょっと、これ……どうにかならない?」

 友人の佐久間が声を掛けつつ前の席に座り、やっとこの問題を解決出来る奴が現れたとそう思った。

 俺が大学のテラスの机の上に置いていたスマホの画面を奴の方へと向ければ、佐久間は不思議そうな顔をした。そして、水無瀬さんの名前を人差し指で示せば、にやっと笑った。

「はは……彼女出来たって、まじなんだー。お前の珍しい自発的な発言は一応は見てたけど、今の今まで半信半疑だった。水無瀬さん。すげえ。大学一めんどくさい男を、落としたんだ。金星じゃん。まぁ、確かに可愛いけど。お前は、あんな感じがタイプだったんだな。なんて、呼んでるの? みーちゃん? はっちゃん? 可愛い名前だね」

「……いや、この前に付き合ったばっかりだし。普通に、水無瀬さん」

 俺の話を聞いて、佐久間は面白そうに眉を上げた。流行の服を着て、片耳に何個かピアスを付けているが、どれもこれも、こいつの趣味ではないことは近い関係にある者以外は知らない。
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