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32 初回デート
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せっかく念願の芹沢くんとの、待ち合わせた初回デート中。私はどうしたものかと、ぐるぐると頭を悩ませていた。
ちなみにデート相手の芹沢くんは、何もしてないし何も悪くない。
彼の顔身体仕草声などなどすべてが私を虜としてしまうという点では、確かに悪い男なのかもしれない。でも、そこはもう完全にこちらの勝手な言い分ではあるんだけど。
なんで、推しとのデート中で幸せ一杯のはずの今、何を思い悩んでいるのかというと、バイト先のケーキ屋さんにかっちゃんが現れるようになってしまったからだ。
けど、彼はあくまで自分はお客さんであるという姿勢を崩さない。けど、昨日の今日で朝昼晩の一日三回も来ているとなれば、正直こわい。
ちなみにバイト先のケーキ屋さんは、彼の通う大学からもそこそこ離れている。だから、住んでいる場所も離れているはずなのに、その間の時間は何をしてるんだろうっていう素朴な疑問だってある。
これは、ストーカー案件なのではと思ったりもするけど、今のところは何の実害もない。
商品であるケーキは確かに買っていくし、私が多少気持ち悪さを我慢すれば良い問題なので、優しい店長にはそのことはまだ言えてないまま。
一応、私のバイトは来週の金曜日までの予定だし……後、数日。そこまでだから。また来られても、若干の気持ち悪さを我慢したら良いだけだし。
「瀬さん……水無瀬さん。どうしたの?」
「うっ……ううん! なんでもないよ。大丈夫。ここのおでん、美味しいね」
私は考え事をしたまま黙々とお箸でつついていた味の沁み込んだ大根を、ようやく口の中に入れた。
昨夜、飲み会で酔った勢いでゆうくんが口を滑らせてしまい、芹沢くんは彼の誕生日のためにせっせと私がバイトを頑張っていることを知ってしまったらしい。
ゆうくん。サプライズしたら、きっと喜ぶよって自分が言ったくせに……明るい彼は特に悪びれる事もなくうっかりしてたからごめんねーってさらっと謝ったので、こっちも良いよ良いよって流れるように許してしまった。
社交術のレベルが天元突破した陽キャの対応、まったく何も間違ってない。謝られる相手の私も、明るく言われたので別に悪い気はしなかった。
あれもこれもすべてが計算済みの行動なのかな、コミュ力がカンストしている陽キャのゆうくん恐るべし。
そんなこんなで、私は既に入っているバイトのシフトなんかを芹沢くんに洗いざらい吐かされた。そして、現在バイト終わりの金曜の夜に、彼チョイスのおでん屋さんにまで来ている。
提灯のある昭和っぽい店内も不思議と懐かしい感じがして雰囲気あるし、何より長年継ぎ足ししているという出汁で煮られたほくほくのおでんが美味しい。
まだ夏と言える季節なんだけど、残暑だからこその久しぶりに食べたおでん最高。
「俺に……また、内緒のこと?」
カウンターの隣の席に座っている私の顔を覗き込み、芹沢くんは苦笑した。
これは、彼に内緒にするべきことなのではないかもしれない。この前のサプライズプレゼントの件だって『嬉しいけど。正直言って、水無瀬さんの謎の行動が多くて不安だった』と、愛しい推しに言わせてしまったのだ。
そして、私ももし付き合っている芹沢くんがこういう事になっていたら、多分すぐに知りたいと思うし……うん。言い難いけど、元彼のかっちゃんのことを言うしかない。
「あの……バイト先に、元彼が……来てて……」
「……え? 何それ? どういうこと?」
まさかそんな話になると思っていなかった様子の芹沢くんは、当たり前だけど驚き顔で寝耳に水な様子だ。
「最初会ったのは、本当に偶然だったみたいなんだけど。昨日いきなり復縁したいって言われて、今は付き合っている人が居るからって断ったの。けど、今日朝昼晩の三回、来店してて……それはあくまでお客さんとしてだし、プライベートな話もその時にされてはいないから。ただ一日三回来てるだけで、普通のお客さんだし……」
芹沢くんは眉根を寄せて、見る間に渋い表情になった。
「確かに。店に一日三回客として来るだけでは、何も言えないね……そいつって、どんな奴?」
ちなみにデート相手の芹沢くんは、何もしてないし何も悪くない。
彼の顔身体仕草声などなどすべてが私を虜としてしまうという点では、確かに悪い男なのかもしれない。でも、そこはもう完全にこちらの勝手な言い分ではあるんだけど。
なんで、推しとのデート中で幸せ一杯のはずの今、何を思い悩んでいるのかというと、バイト先のケーキ屋さんにかっちゃんが現れるようになってしまったからだ。
けど、彼はあくまで自分はお客さんであるという姿勢を崩さない。けど、昨日の今日で朝昼晩の一日三回も来ているとなれば、正直こわい。
ちなみにバイト先のケーキ屋さんは、彼の通う大学からもそこそこ離れている。だから、住んでいる場所も離れているはずなのに、その間の時間は何をしてるんだろうっていう素朴な疑問だってある。
これは、ストーカー案件なのではと思ったりもするけど、今のところは何の実害もない。
商品であるケーキは確かに買っていくし、私が多少気持ち悪さを我慢すれば良い問題なので、優しい店長にはそのことはまだ言えてないまま。
一応、私のバイトは来週の金曜日までの予定だし……後、数日。そこまでだから。また来られても、若干の気持ち悪さを我慢したら良いだけだし。
「瀬さん……水無瀬さん。どうしたの?」
「うっ……ううん! なんでもないよ。大丈夫。ここのおでん、美味しいね」
私は考え事をしたまま黙々とお箸でつついていた味の沁み込んだ大根を、ようやく口の中に入れた。
昨夜、飲み会で酔った勢いでゆうくんが口を滑らせてしまい、芹沢くんは彼の誕生日のためにせっせと私がバイトを頑張っていることを知ってしまったらしい。
ゆうくん。サプライズしたら、きっと喜ぶよって自分が言ったくせに……明るい彼は特に悪びれる事もなくうっかりしてたからごめんねーってさらっと謝ったので、こっちも良いよ良いよって流れるように許してしまった。
社交術のレベルが天元突破した陽キャの対応、まったく何も間違ってない。謝られる相手の私も、明るく言われたので別に悪い気はしなかった。
あれもこれもすべてが計算済みの行動なのかな、コミュ力がカンストしている陽キャのゆうくん恐るべし。
そんなこんなで、私は既に入っているバイトのシフトなんかを芹沢くんに洗いざらい吐かされた。そして、現在バイト終わりの金曜の夜に、彼チョイスのおでん屋さんにまで来ている。
提灯のある昭和っぽい店内も不思議と懐かしい感じがして雰囲気あるし、何より長年継ぎ足ししているという出汁で煮られたほくほくのおでんが美味しい。
まだ夏と言える季節なんだけど、残暑だからこその久しぶりに食べたおでん最高。
「俺に……また、内緒のこと?」
カウンターの隣の席に座っている私の顔を覗き込み、芹沢くんは苦笑した。
これは、彼に内緒にするべきことなのではないかもしれない。この前のサプライズプレゼントの件だって『嬉しいけど。正直言って、水無瀬さんの謎の行動が多くて不安だった』と、愛しい推しに言わせてしまったのだ。
そして、私ももし付き合っている芹沢くんがこういう事になっていたら、多分すぐに知りたいと思うし……うん。言い難いけど、元彼のかっちゃんのことを言うしかない。
「あの……バイト先に、元彼が……来てて……」
「……え? 何それ? どういうこと?」
まさかそんな話になると思っていなかった様子の芹沢くんは、当たり前だけど驚き顔で寝耳に水な様子だ。
「最初会ったのは、本当に偶然だったみたいなんだけど。昨日いきなり復縁したいって言われて、今は付き合っている人が居るからって断ったの。けど、今日朝昼晩の三回、来店してて……それはあくまでお客さんとしてだし、プライベートな話もその時にされてはいないから。ただ一日三回来てるだけで、普通のお客さんだし……」
芹沢くんは眉根を寄せて、見る間に渋い表情になった。
「確かに。店に一日三回客として来るだけでは、何も言えないね……そいつって、どんな奴?」
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