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40 聞きたくない
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「うん。むしろ、俺は資本主義の国なのに、投資しない人が多いのが、不思議なんだけど。そもそも資本主義って、投資することが前提で出来ている。将来性のある優良企業にお金が集まるようにして、企業投資してから全体が成長をしていく構造なんだ。もちろん、投資は損をするリスクもあることだって大前提だよ。だから、俺だって投資先を分散してから、リスクヘッジはしている」
「すごい。私も投資はしたいなって思うけど、どうしても取っ付き難いし、難しいって思っちゃって。それに、貯金しているだけなら絶対に減りはしないでしょう?」
「一度投資に失敗して損をしたからといって、投資をやめていたら。その人は、一生投資で儲かることはないかもね。日本は少しでも金融を勉強した人が、そもそもの数が少ない。義務教育で教われるのは、ほんの少し。だからこそ、勝てる機会が多い。ビジネスチャンスの話で言うなら、ライバルの少ない場所を選んで勝つのは定石だ。そうでない場所より、圧倒的に難易度が低い」
「芹沢くんは簡単にいうけど、それが難しい人はいっぱい居るんだよ」
ついつい、私は頬を膨らませてしまった。
頭の良い人には、私のように彼のようなことを思いもつかない子の気持ちはわかるまい。持つ者に持たざる者の気持ちは、生涯わからないのだ。無知の知の逆。
「うん。水無瀬さんが俺と結婚してくれるなら、代わりに全部やっても良いよ」
「えっ……したい……けど、別にそれ目的じゃないからね!」
付き合い始めたばっかりだけど結婚の話が出て思わずパッと顔を輝かせてしまった私は、慌ててこほんとわざとらしく咳をした。
「水無瀬さんは、本当に可愛いね。俺だって、ちゃんとわかってるよ。もし、裁判官になれば、倫理的に海外企業への投資中心になるかもしれないけど。俺は長期投資前提で、相場師が値を吊り上げて遊ぶような銘柄には手を出さない。信用取引もしない。絶対に無茶な投資はしないから、大丈夫だよ。偉大な投資家の名言に、こんな言葉があるんだ。自分が参加しているゲームで、誰がカモだかわからない場合は、自分自身がカモだってね。その理屈で言えばわかりやすく負け確の勝負にさえ手を出さなければ、そうそう負けることはない」
「あ。その話、聞いたことある……」
慌てて迂闊な口を押さえたので、芹沢くんはとてもわかりやすい私が今誰から聞いたと言おうとしたのかをすぐに察したようだ。
その話は、確かに聞いたことがあった。もう豹変してしまったかっちゃんが、何かの折に私に言っていたからだ。
何年も前の、遠い遠い日の記憶。偶然に再会さえしなければ、まだ綺麗だったはずだった彼との思い出。
言葉をなくしたままの私へとゆっくり近づいてきた芹沢くんは、無表情で何を考えているかわからない。
「芹沢くん……?」
戸惑いながら彼の名前を呼んだ私の口の中に、彼は長い人差し指を入れて間近に顔を寄せ掠れた声で言った。
「あいつの、ことだろ? やめて。何も……聞きたくない」
「すごい。私も投資はしたいなって思うけど、どうしても取っ付き難いし、難しいって思っちゃって。それに、貯金しているだけなら絶対に減りはしないでしょう?」
「一度投資に失敗して損をしたからといって、投資をやめていたら。その人は、一生投資で儲かることはないかもね。日本は少しでも金融を勉強した人が、そもそもの数が少ない。義務教育で教われるのは、ほんの少し。だからこそ、勝てる機会が多い。ビジネスチャンスの話で言うなら、ライバルの少ない場所を選んで勝つのは定石だ。そうでない場所より、圧倒的に難易度が低い」
「芹沢くんは簡単にいうけど、それが難しい人はいっぱい居るんだよ」
ついつい、私は頬を膨らませてしまった。
頭の良い人には、私のように彼のようなことを思いもつかない子の気持ちはわかるまい。持つ者に持たざる者の気持ちは、生涯わからないのだ。無知の知の逆。
「うん。水無瀬さんが俺と結婚してくれるなら、代わりに全部やっても良いよ」
「えっ……したい……けど、別にそれ目的じゃないからね!」
付き合い始めたばっかりだけど結婚の話が出て思わずパッと顔を輝かせてしまった私は、慌ててこほんとわざとらしく咳をした。
「水無瀬さんは、本当に可愛いね。俺だって、ちゃんとわかってるよ。もし、裁判官になれば、倫理的に海外企業への投資中心になるかもしれないけど。俺は長期投資前提で、相場師が値を吊り上げて遊ぶような銘柄には手を出さない。信用取引もしない。絶対に無茶な投資はしないから、大丈夫だよ。偉大な投資家の名言に、こんな言葉があるんだ。自分が参加しているゲームで、誰がカモだかわからない場合は、自分自身がカモだってね。その理屈で言えばわかりやすく負け確の勝負にさえ手を出さなければ、そうそう負けることはない」
「あ。その話、聞いたことある……」
慌てて迂闊な口を押さえたので、芹沢くんはとてもわかりやすい私が今誰から聞いたと言おうとしたのかをすぐに察したようだ。
その話は、確かに聞いたことがあった。もう豹変してしまったかっちゃんが、何かの折に私に言っていたからだ。
何年も前の、遠い遠い日の記憶。偶然に再会さえしなければ、まだ綺麗だったはずだった彼との思い出。
言葉をなくしたままの私へとゆっくり近づいてきた芹沢くんは、無表情で何を考えているかわからない。
「芹沢くん……?」
戸惑いながら彼の名前を呼んだ私の口の中に、彼は長い人差し指を入れて間近に顔を寄せ掠れた声で言った。
「あいつの、ことだろ? やめて。何も……聞きたくない」
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