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53 迎え
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「……芹沢くん。ごめん。今日、もう電車止まって。私。帰れなくなっちゃって」
『え? 水無瀬さん、今どこ?』
「今日フィールドワークで行った、お寺のある山の麓。駅の近くにある、バス停に居る」
『待って。外なの? ……宿は、取れたの?』
「検索したんだけど、この辺って宿泊施設はないみたい……もう、仕方ないから、ここで電車が出る始発まで過ごそうと思ってるの」
『……ごめん。水無瀬さん。今すぐに、駅名教えて』
私が目の前にある駅の名前を読み上げると、芹沢くん側からドアを乱暴に開く音がした。
多分、彼は私のところに行こうとして、バタバタと音がしているけど、電車は止まっているしどうしようもないのに。
「芹沢くん。心配しないで。私、ここでの一晩くらい。成人してるし一人でも、大丈夫だから」
『心配、しないなんて……無理だよ』
そこまでで、芹沢くんとの電話は切れてしまった。スマホの画面を見れば真っ暗で、電源ボタンを押しても反応しない。もう、電池も残り少なかったし、それは仕方ない。
どうにかして、ここで数時間一人で耐えるしかない。夜だと言える時間は、遠慮なんてせずにやって来てどんどん視界が黒く暗くなって来た。
◇◆◇
横殴りの雨が申し訳程度しかない屋根なんか関係ないとばかりに、容赦なく降り注ぐ。
まだ、時期的に気温がそこまで低くなってなくて、良かった。服が雨に濡れてしまったとしても、身体が芯まで冷えてしまうこともない。
その時に、目の前で急に現れた車が停まって、私はまさかって信じられなかった。だって、こんな天候の中で……暗くて視界も悪い山道なんて、絶対危険なのに。そんな、まさかって。
「っ……芹沢くん!」
もうバケツをひっくり返したんじゃないかっていうくらいの、土砂降りの雨の中。バス停の中で身を縮めていた私のところまで走って来てくれたのは、遠い都内に居るはずの芹沢くんだった。
「水無瀬さん。良かった。こっち来て……こんなに、身体が冷えて。早く行こう」
彼は私が抱きしめていたリュックを取ると、ドアを開けたままにしていた車に向け、私の手を取って走り出した。浅い川のようになってしまった道路に、バシャバシャと水しぶきが上がる。
「芹沢くん……ごめんなさい。こんなことになるなんて、思ってなくて。私が道に迷ったのが、いけなかったの。教授も一緒に来た皆も、早く一緒に帰ろうって誘ってくれていたのに」
車の運転席と助手席に、落ち着いて座ることが出来て、私たちは目を合わせてから手を握り合った。
まさか、車を借りてまで、こんなところに芹沢くんが来てくれるなんて、思ってなくて。私は本当に、驚いていた。
「……水無瀬さん。良かった。俺に謝るのなんて、後で良いよ。大丈夫。こんなに雨に濡れて身体が冷えてしまって……ここに来るまで道なりに、ホテルがあったから。とりあえず、そこに行こう」
芹沢くんは何の計算もなく、ただびしょ濡れになっているだけだとしても、水も滴る良い男だった。
とても危ないくねくねとした山道を運転しているから邪魔をしてはいけないと大人しく黙っていたんだけど、どうしてもそんな彼が気になった私がチラチラと横顔を見ていたら、彼は気がついてくれたのか手を伸ばして私の手を握ってくれた。
「なんで……俺に、迎えに来て欲しいって、言ってくれなかったの?」
『え? 水無瀬さん、今どこ?』
「今日フィールドワークで行った、お寺のある山の麓。駅の近くにある、バス停に居る」
『待って。外なの? ……宿は、取れたの?』
「検索したんだけど、この辺って宿泊施設はないみたい……もう、仕方ないから、ここで電車が出る始発まで過ごそうと思ってるの」
『……ごめん。水無瀬さん。今すぐに、駅名教えて』
私が目の前にある駅の名前を読み上げると、芹沢くん側からドアを乱暴に開く音がした。
多分、彼は私のところに行こうとして、バタバタと音がしているけど、電車は止まっているしどうしようもないのに。
「芹沢くん。心配しないで。私、ここでの一晩くらい。成人してるし一人でも、大丈夫だから」
『心配、しないなんて……無理だよ』
そこまでで、芹沢くんとの電話は切れてしまった。スマホの画面を見れば真っ暗で、電源ボタンを押しても反応しない。もう、電池も残り少なかったし、それは仕方ない。
どうにかして、ここで数時間一人で耐えるしかない。夜だと言える時間は、遠慮なんてせずにやって来てどんどん視界が黒く暗くなって来た。
◇◆◇
横殴りの雨が申し訳程度しかない屋根なんか関係ないとばかりに、容赦なく降り注ぐ。
まだ、時期的に気温がそこまで低くなってなくて、良かった。服が雨に濡れてしまったとしても、身体が芯まで冷えてしまうこともない。
その時に、目の前で急に現れた車が停まって、私はまさかって信じられなかった。だって、こんな天候の中で……暗くて視界も悪い山道なんて、絶対危険なのに。そんな、まさかって。
「っ……芹沢くん!」
もうバケツをひっくり返したんじゃないかっていうくらいの、土砂降りの雨の中。バス停の中で身を縮めていた私のところまで走って来てくれたのは、遠い都内に居るはずの芹沢くんだった。
「水無瀬さん。良かった。こっち来て……こんなに、身体が冷えて。早く行こう」
彼は私が抱きしめていたリュックを取ると、ドアを開けたままにしていた車に向け、私の手を取って走り出した。浅い川のようになってしまった道路に、バシャバシャと水しぶきが上がる。
「芹沢くん……ごめんなさい。こんなことになるなんて、思ってなくて。私が道に迷ったのが、いけなかったの。教授も一緒に来た皆も、早く一緒に帰ろうって誘ってくれていたのに」
車の運転席と助手席に、落ち着いて座ることが出来て、私たちは目を合わせてから手を握り合った。
まさか、車を借りてまで、こんなところに芹沢くんが来てくれるなんて、思ってなくて。私は本当に、驚いていた。
「……水無瀬さん。良かった。俺に謝るのなんて、後で良いよ。大丈夫。こんなに雨に濡れて身体が冷えてしまって……ここに来るまで道なりに、ホテルがあったから。とりあえず、そこに行こう」
芹沢くんは何の計算もなく、ただびしょ濡れになっているだけだとしても、水も滴る良い男だった。
とても危ないくねくねとした山道を運転しているから邪魔をしてはいけないと大人しく黙っていたんだけど、どうしてもそんな彼が気になった私がチラチラと横顔を見ていたら、彼は気がついてくれたのか手を伸ばして私の手を握ってくれた。
「なんで……俺に、迎えに来て欲しいって、言ってくれなかったの?」
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