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66 疑惑
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薄暗いバーのようなところで撮影されたらしい写真に載っていた男性は、腕と時計しか映ってなかった。
けど、それなのに芹沢くんだと私がわかってしまうのは、彼のパーツを見るだけで本人だとわかってしまう私の、彼が好き過ぎてしまうゆえの習性のせい。
「これって……時間経つと消える仕様の写真だから。だから、もう雪華のSNSでは今はもう掲載されてない。なんか、やたら匂わせっぽい文言言ってるじゃん? 想い再燃。みたいな。芸能人って、こういうことを良くして叩かれてる。このスクショはもうばら撒かれて、雪華のファンの間でも匂わせじゃないかって騒いでる……元彼。どっかの俳優と、また付き合い始めたんじゃないかって。けど、俺は先に姉ちゃんの話を聞いていたから、ピンと来た。もしかしたらってね」
「……私と付き合う前の……昔に撮った写真かも、しれないし……」
銀河は顔色をなくした私が言った苦しい予想に、大きく溜め息をついた。
「姉ちゃん。それ、本気で言ってんの? 男の方はどうかわからないけど、この文字を見たら雪華はそのつもりじゃない? この写真の撮影場所のバーって調べてみたら、まだオープンしたばっかりの会員制のバーだった。いわゆる、芸能人御用達の……個室もあるところ。だから、確実に姉ちゃんと付き合ってからも、二人は会ってるんじゃないかって……俺は、思ったんだよ。だから、ちゃんと話しなきゃって……」
「……銀河……ごめん。私もう帰る」
呆然とした私は財布から千円を出して机に置いて立ち上がり、鞄を手にした。そこまで過剰な反応を見せると思っていなかったのか、銀河は慌てて私の手を取った。
「ちょっと! 待ってよ。姉ちゃん。俺は、心配してるだけだよ。そんな風に、傷付けるつもりじゃなかった。ごめん……泣かないでよ」
そう言った銀河の手を取って、ある人が私の傍までやって来た。
「水無瀬さんから、手を離せ」
「っえ? 芹沢くん?」
そこに居たのは私が今まで見たこともないくらいに、めちゃくちゃ怒った目をした芹沢くんだった。確か今日は私は大学の帰りに渋谷で人と会って来ると、彼には連絡していた。
「……来て。目立ってるから。店に迷惑になる」
カフェの人たちの視線は、修羅場っぽい雰囲気を見せる私たちに、なんだなんだと集中していた。私が涙を流しているということも、もちろん原因のひとつだと思う。
黙ったまま伝票を取った芹沢くんは何か言い訳をしようとした銀河を無視して、私の手を引いて出口へと歩き出した。
そして、自分の分と私たちの分の会計をさっと済ませカフェを出ると、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いてくれた。
「っ……芹沢くん……どうして、ここに居たの?」
私の素朴な疑問に答えることなく、芹沢くんは真剣な目をして私に言った。
「……あのさ。俺は別に水無瀬さんの過去に、拘っている訳でもないんだけど……現状を把握したいから、聞いて置きたいんだけど……元彼って、何人いるの?」
彼の言葉を聞いて芹沢くんがあらぬ誤解をしていると理解した私は、さっき自分が聞いた疑問を無視されたのも忘れて慌てて言った。
「この前の、一人だけだよ! あれは、私の弟なの」
「あー……あの、バンドTシャツの弟?」
初めて会った時に着ていたバンドTを思い出したのか納得した顔の芹沢くんに、私は何度か頷いた。
「そうだよ。二つ年下の銀河だよ。芹沢くんがそんなこと言うから、びっくりしちゃった」
「……なんで、揉めてたの?」
それは、貴方の元カノについての情報と、今も会っているんじゃないかという疑惑を聞いていました。
元カノの雪華のことを知ってしまった今、私は世界で誰よりも信じていた人であったはずの芹沢くんに、弟から聞いたことを、どう聞いて良いのかわからなくなった。
「なっ……なんでもないよ。姉弟だから、色々あるんだよ」
私が無理をしてから微笑んだことは、芹沢くんにはすぐにわかったはずだ。何故だか、すごく苦しそうな表情を見せたから。
けど、それなのに芹沢くんだと私がわかってしまうのは、彼のパーツを見るだけで本人だとわかってしまう私の、彼が好き過ぎてしまうゆえの習性のせい。
「これって……時間経つと消える仕様の写真だから。だから、もう雪華のSNSでは今はもう掲載されてない。なんか、やたら匂わせっぽい文言言ってるじゃん? 想い再燃。みたいな。芸能人って、こういうことを良くして叩かれてる。このスクショはもうばら撒かれて、雪華のファンの間でも匂わせじゃないかって騒いでる……元彼。どっかの俳優と、また付き合い始めたんじゃないかって。けど、俺は先に姉ちゃんの話を聞いていたから、ピンと来た。もしかしたらってね」
「……私と付き合う前の……昔に撮った写真かも、しれないし……」
銀河は顔色をなくした私が言った苦しい予想に、大きく溜め息をついた。
「姉ちゃん。それ、本気で言ってんの? 男の方はどうかわからないけど、この文字を見たら雪華はそのつもりじゃない? この写真の撮影場所のバーって調べてみたら、まだオープンしたばっかりの会員制のバーだった。いわゆる、芸能人御用達の……個室もあるところ。だから、確実に姉ちゃんと付き合ってからも、二人は会ってるんじゃないかって……俺は、思ったんだよ。だから、ちゃんと話しなきゃって……」
「……銀河……ごめん。私もう帰る」
呆然とした私は財布から千円を出して机に置いて立ち上がり、鞄を手にした。そこまで過剰な反応を見せると思っていなかったのか、銀河は慌てて私の手を取った。
「ちょっと! 待ってよ。姉ちゃん。俺は、心配してるだけだよ。そんな風に、傷付けるつもりじゃなかった。ごめん……泣かないでよ」
そう言った銀河の手を取って、ある人が私の傍までやって来た。
「水無瀬さんから、手を離せ」
「っえ? 芹沢くん?」
そこに居たのは私が今まで見たこともないくらいに、めちゃくちゃ怒った目をした芹沢くんだった。確か今日は私は大学の帰りに渋谷で人と会って来ると、彼には連絡していた。
「……来て。目立ってるから。店に迷惑になる」
カフェの人たちの視線は、修羅場っぽい雰囲気を見せる私たちに、なんだなんだと集中していた。私が涙を流しているということも、もちろん原因のひとつだと思う。
黙ったまま伝票を取った芹沢くんは何か言い訳をしようとした銀河を無視して、私の手を引いて出口へと歩き出した。
そして、自分の分と私たちの分の会計をさっと済ませカフェを出ると、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いてくれた。
「っ……芹沢くん……どうして、ここに居たの?」
私の素朴な疑問に答えることなく、芹沢くんは真剣な目をして私に言った。
「……あのさ。俺は別に水無瀬さんの過去に、拘っている訳でもないんだけど……現状を把握したいから、聞いて置きたいんだけど……元彼って、何人いるの?」
彼の言葉を聞いて芹沢くんがあらぬ誤解をしていると理解した私は、さっき自分が聞いた疑問を無視されたのも忘れて慌てて言った。
「この前の、一人だけだよ! あれは、私の弟なの」
「あー……あの、バンドTシャツの弟?」
初めて会った時に着ていたバンドTを思い出したのか納得した顔の芹沢くんに、私は何度か頷いた。
「そうだよ。二つ年下の銀河だよ。芹沢くんがそんなこと言うから、びっくりしちゃった」
「……なんで、揉めてたの?」
それは、貴方の元カノについての情報と、今も会っているんじゃないかという疑惑を聞いていました。
元カノの雪華のことを知ってしまった今、私は世界で誰よりも信じていた人であったはずの芹沢くんに、弟から聞いたことを、どう聞いて良いのかわからなくなった。
「なっ……なんでもないよ。姉弟だから、色々あるんだよ」
私が無理をしてから微笑んだことは、芹沢くんにはすぐにわかったはずだ。何故だか、すごく苦しそうな表情を見せたから。
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