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出会い
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……メイヴィス様に続いて応接室に入った私は引きつった笑顔を顔に貼り付けるので必死になった。
忘れていたわ。もう魔法使いのところでいくらか恋の記憶を注いできたものね。
そう、こんな出会いなんてもう忘れてしまっていた。
メイヴィス様の婚約者、薄茶色の髪と目を持つ美形のラウル王子は2人の近衛騎士を連れてきていた。金髪碧眼の女性顔負けの美しい顔を持つ騎士と黒髪黒目のすこしきつい印象の精悍で整った顔を持つ騎士だ。この、金髪碧眼の騎士こそ、私の忘れたい恋の相手、マティアス・グランデその人だ。黒髪黒目の騎士はジャンポール・ハサウェイ。彼の相棒で仲が良い騎士だ。私も何度かマティアスも交えて会ったことがある。
「やあ、メイヴィス。今日も美しい。…後ろの令嬢達は?」
ラウル王子は大きなソファから立ち上がってメイヴィス様の手の甲にキスをしながら尋ねた。
「私のお気に入りのメイドさん達なの!左がセイラで右がメロディ。とっても可愛いでしょう?」
無邪気に笑うメイヴィス様を愛おしそうに見やると私達にも視線を合わせて微笑んだ。この王子様も温厚で表向きはとても性格が良さそうだ。ただ外交関係のお仕事をされているからどんなに人当たりが良さそうでも内側はわからないけれど。
「なるほど君の言う通り可愛いね。せっかくだから僕の連れてきた近衛騎士達にも紹介しよう。……マティアス、ジャンポール」
ラウル王子はにこっと人の良い柔和な笑顔を浮かべると両脇に控えていた2人に合図をした。
「美しいお嬢様達、マティアス・グランデです。お見知りおきを」
にこりと魅力的な笑みを浮かべてマティアスは笑った。
「ジャンポール・ハサウェイです」
対照的に素っ気なく言うのはジャンポールだ。彼らしいな。私はいつも愛想のない彼を思い出してふふっと笑った。
「……あらっ、メロディ気に入った方が居るの?」
メイヴィス様が私の方を振り返って微笑んだ。可愛い笑顔に心は和むけれど私は慌てて手を振る。
「いえ、お2人とも対照的なご挨拶だなと思ってしまって。申し訳ございません」
顔を引き締めて顔を俯かせる。今着ているドレスのオレンジ色の小花柄が目に入る。私の実家では決して買えない上質な生地だ。だからかな、あの時もきっと勘違いしてしまった。彼に愛される資格など、きっと私にはないのに。
「せっかくだから、皆でお茶をしようか?」
あの時と同じようにラウル王子は提案した。メイヴィス様は手を組んで喜ぶ。私はそっとラウル王子の傍に控えているマティアスを見た。あの時と同じようにきらきらとした青い瞳で私を見つめている。
……一年後、私を捨てる癖に。
暗い思考に陥りそうな頭をふるふると振ってお茶の準備に専念する。仕事は大事。
「……ねえ、本当に格好良い方たちね」
準備をしながら興奮したようにセイラは私に小声で囁いた。
「……そうかしら?」
「まあっ。メロディったらそんなこと言って。私達が近衛騎士と出会うなんて奇跡に近いのに。……ねえ、どっちが好み?」
ピンクの小花柄のドレスを着たセイラは手早く準備をしながら微笑んだ。
「……私は黒髪のハサウェイ様かな」
「あらっ。そうなの? てっきり……」
セイラは驚いたようにするとさっとメイヴィス様の質問に答えているマティアスを見た。
「グランデ様かと思ったわ。いつも聞いているあなたの理想にぴったりじゃない」
不思議そうなセイラは何も悪くない。その通りだからだ。
胸がズキンと痛んだ。痛むはずのない胸が跳ねる。
「行きましょう。いつまでも無駄話は出来ないわ」
私はメイドでこの屋敷の使用人だ。そう言い聞かせながら、準備を終えると華やかな席に着いた。
「ねえ、メロディ。何か質問はないの? せっかくだから色々聞いてみましょうよ」
無邪気で可愛いメイヴィス様に微笑みながら私は口を開いた。
忘れていたわ。もう魔法使いのところでいくらか恋の記憶を注いできたものね。
そう、こんな出会いなんてもう忘れてしまっていた。
メイヴィス様の婚約者、薄茶色の髪と目を持つ美形のラウル王子は2人の近衛騎士を連れてきていた。金髪碧眼の女性顔負けの美しい顔を持つ騎士と黒髪黒目のすこしきつい印象の精悍で整った顔を持つ騎士だ。この、金髪碧眼の騎士こそ、私の忘れたい恋の相手、マティアス・グランデその人だ。黒髪黒目の騎士はジャンポール・ハサウェイ。彼の相棒で仲が良い騎士だ。私も何度かマティアスも交えて会ったことがある。
「やあ、メイヴィス。今日も美しい。…後ろの令嬢達は?」
ラウル王子は大きなソファから立ち上がってメイヴィス様の手の甲にキスをしながら尋ねた。
「私のお気に入りのメイドさん達なの!左がセイラで右がメロディ。とっても可愛いでしょう?」
無邪気に笑うメイヴィス様を愛おしそうに見やると私達にも視線を合わせて微笑んだ。この王子様も温厚で表向きはとても性格が良さそうだ。ただ外交関係のお仕事をされているからどんなに人当たりが良さそうでも内側はわからないけれど。
「なるほど君の言う通り可愛いね。せっかくだから僕の連れてきた近衛騎士達にも紹介しよう。……マティアス、ジャンポール」
ラウル王子はにこっと人の良い柔和な笑顔を浮かべると両脇に控えていた2人に合図をした。
「美しいお嬢様達、マティアス・グランデです。お見知りおきを」
にこりと魅力的な笑みを浮かべてマティアスは笑った。
「ジャンポール・ハサウェイです」
対照的に素っ気なく言うのはジャンポールだ。彼らしいな。私はいつも愛想のない彼を思い出してふふっと笑った。
「……あらっ、メロディ気に入った方が居るの?」
メイヴィス様が私の方を振り返って微笑んだ。可愛い笑顔に心は和むけれど私は慌てて手を振る。
「いえ、お2人とも対照的なご挨拶だなと思ってしまって。申し訳ございません」
顔を引き締めて顔を俯かせる。今着ているドレスのオレンジ色の小花柄が目に入る。私の実家では決して買えない上質な生地だ。だからかな、あの時もきっと勘違いしてしまった。彼に愛される資格など、きっと私にはないのに。
「せっかくだから、皆でお茶をしようか?」
あの時と同じようにラウル王子は提案した。メイヴィス様は手を組んで喜ぶ。私はそっとラウル王子の傍に控えているマティアスを見た。あの時と同じようにきらきらとした青い瞳で私を見つめている。
……一年後、私を捨てる癖に。
暗い思考に陥りそうな頭をふるふると振ってお茶の準備に専念する。仕事は大事。
「……ねえ、本当に格好良い方たちね」
準備をしながら興奮したようにセイラは私に小声で囁いた。
「……そうかしら?」
「まあっ。メロディったらそんなこと言って。私達が近衛騎士と出会うなんて奇跡に近いのに。……ねえ、どっちが好み?」
ピンクの小花柄のドレスを着たセイラは手早く準備をしながら微笑んだ。
「……私は黒髪のハサウェイ様かな」
「あらっ。そうなの? てっきり……」
セイラは驚いたようにするとさっとメイヴィス様の質問に答えているマティアスを見た。
「グランデ様かと思ったわ。いつも聞いているあなたの理想にぴったりじゃない」
不思議そうなセイラは何も悪くない。その通りだからだ。
胸がズキンと痛んだ。痛むはずのない胸が跳ねる。
「行きましょう。いつまでも無駄話は出来ないわ」
私はメイドでこの屋敷の使用人だ。そう言い聞かせながら、準備を終えると華やかな席に着いた。
「ねえ、メロディ。何か質問はないの? せっかくだから色々聞いてみましょうよ」
無邪気で可愛いメイヴィス様に微笑みながら私は口を開いた。
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