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夢の狭間
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コンコン、とノックの音がした。私は声をかけて扉が開く。
「シメオン兄さん、どうしたの?」
シメオン兄さんはしっと唇に指を当てると耳に口を寄せて言った。
「お前に会わせたい人がいるんだ。今、私の部屋に来ているから、適当な服に着替えてなるべくヴァレールに気が付かれないように来れるかい?」
悪戯っぽい笑顔で笑う。私に会わせたい人? 首を傾げる私に微笑むとそっと扉を閉めた。
支度を済ませてシメオン兄さんの扉を叩き、呼ぶ声に扉を開ける。
「……兄さん、」
私は思わず、口に手を当てて目を見開いた。
マティアス? 金髪碧眼の美丈夫がティーカップを片手に私に微笑んだ。
違う。似ている人だ。彼よりすこし老けているし、髪が長い。肩まである髪を黒いリボンで縛っている。
「メロディ、こちらはグランデ伯爵家の次男、アベル・グランデだ。私の学園時代の同級生だよ」
「はじめまして。シメオンにこんなに美しい妹が居るとは知らなかったな。慌てて婚約するんじゃなかったよ」
茶目っ気を出して笑う。当たり前だけど、兄弟だからマティアスによく似ている。次男ということは彼のすぐ上のお兄様なんだわ。
「はじめまして、メロディ・クルーガーです。弟さんにはこの前命を救われました」
私の言葉に軽く顔を傾けて微笑む。
「どちらの弟かな、マティアスか、エヴァンか。2人居るものでね」
「マティアス様です……暴漢に攫われそうになったところ川に落ちてしまったのですが追いかけて助けていただきました」
「そうか、あいつもたまには役に立つことをするんだな。迷惑かけることに関しては一人前の弟だ。君が助かって良かったよ」
「……そして、ここからが君に来てもらった本題なんだが」
シメオン兄さんは言いにくそうに切り出した。アベル様は笑いながら頷いた。
「俺は君と親交を温めるために呼ばれたと思っていたが? 美しい妹殿、我が弟に何か用があるのかい?」
私は一度口を結ぶと意を決してアベル様にあるお願い、をした。
私はメイド服に身を包み、深夜グランデ家の使用人口を滑るように入りこんだ。胸の動悸が止まらない。
アベル様から指示された通り、マティアスの部屋の前に忍び込み、事前に教えてもらった通り、扉を開けて忍び込む。
「はあっ」
ため息をつく、緊張した。もしも誰かに見つかった時にはアベル様の名前を出して良いと言われていたけれど、それでも。
「……誰かいるのか?」
マティアスの声だ。左側の寝室だろう所から聞こえた。
「マティアス様」
声を掛けながら、進む。息を呑む気配がする。
「……メロディ? そんなはずはない。夢か……」
マティアスはベッドの上で金色の頭を振りながら、私を切なげに見つめた。なんだか、この前に見た時より、痩せた気がする。
「マティアス様、この前はヴァレールが……兄が、ごめんなさい。私どうしても会ってお礼が言いたくて」
マティアスは眉を寄せて、私に手を伸ばした。
「君が謝ることなんて何もない。……おいで、メロディ」
戸惑いながら、私が手を伸ばすとぎゅっと胸に抱きしめられる。なんだか懐かしい匂いがする。マティアスの匂いだ。
「メロディ、会いたかった」
ぽつり、呟くように囁かれ、私もちいさな声で言葉を返す。
「私も会いたかった」
「随分と都合の良い夢だな。メロディがこんなこと言うはずない」
自嘲するように言うとマティアスは私をベッドの方へと押し倒した。キスをしようとしているのか顔を近づけてくる。
「待って、マティアス。聞きたいことがあるの」
私は慌てて彼の口元に手を当てる。マティアスは愛おしそうにその手を取って頬に当てた。
「何?」
「何で悪魔と契約したの?」
マティアスは綺麗な青い目を見開いた。
「……メロディ? まさか、本物?」
「そうよ、マティアス、様。どうしてもそれが聞きたかったの」
マティアスは私の上からゆっくりと体を起こすと、ベッドに腰掛けた。
「……ごめん。言えない」
「どうして」
「ダメだ。これだけは」
「……どうしても言って欲しいの。もうあんな想いはしたくない」
私の強い視線にマティアスは何故か寂しそうに微笑んだ。
「僕は、君を絶対に失いたくない。絶対に」
「シメオン兄さん、どうしたの?」
シメオン兄さんはしっと唇に指を当てると耳に口を寄せて言った。
「お前に会わせたい人がいるんだ。今、私の部屋に来ているから、適当な服に着替えてなるべくヴァレールに気が付かれないように来れるかい?」
悪戯っぽい笑顔で笑う。私に会わせたい人? 首を傾げる私に微笑むとそっと扉を閉めた。
支度を済ませてシメオン兄さんの扉を叩き、呼ぶ声に扉を開ける。
「……兄さん、」
私は思わず、口に手を当てて目を見開いた。
マティアス? 金髪碧眼の美丈夫がティーカップを片手に私に微笑んだ。
違う。似ている人だ。彼よりすこし老けているし、髪が長い。肩まである髪を黒いリボンで縛っている。
「メロディ、こちらはグランデ伯爵家の次男、アベル・グランデだ。私の学園時代の同級生だよ」
「はじめまして。シメオンにこんなに美しい妹が居るとは知らなかったな。慌てて婚約するんじゃなかったよ」
茶目っ気を出して笑う。当たり前だけど、兄弟だからマティアスによく似ている。次男ということは彼のすぐ上のお兄様なんだわ。
「はじめまして、メロディ・クルーガーです。弟さんにはこの前命を救われました」
私の言葉に軽く顔を傾けて微笑む。
「どちらの弟かな、マティアスか、エヴァンか。2人居るものでね」
「マティアス様です……暴漢に攫われそうになったところ川に落ちてしまったのですが追いかけて助けていただきました」
「そうか、あいつもたまには役に立つことをするんだな。迷惑かけることに関しては一人前の弟だ。君が助かって良かったよ」
「……そして、ここからが君に来てもらった本題なんだが」
シメオン兄さんは言いにくそうに切り出した。アベル様は笑いながら頷いた。
「俺は君と親交を温めるために呼ばれたと思っていたが? 美しい妹殿、我が弟に何か用があるのかい?」
私は一度口を結ぶと意を決してアベル様にあるお願い、をした。
私はメイド服に身を包み、深夜グランデ家の使用人口を滑るように入りこんだ。胸の動悸が止まらない。
アベル様から指示された通り、マティアスの部屋の前に忍び込み、事前に教えてもらった通り、扉を開けて忍び込む。
「はあっ」
ため息をつく、緊張した。もしも誰かに見つかった時にはアベル様の名前を出して良いと言われていたけれど、それでも。
「……誰かいるのか?」
マティアスの声だ。左側の寝室だろう所から聞こえた。
「マティアス様」
声を掛けながら、進む。息を呑む気配がする。
「……メロディ? そんなはずはない。夢か……」
マティアスはベッドの上で金色の頭を振りながら、私を切なげに見つめた。なんだか、この前に見た時より、痩せた気がする。
「マティアス様、この前はヴァレールが……兄が、ごめんなさい。私どうしても会ってお礼が言いたくて」
マティアスは眉を寄せて、私に手を伸ばした。
「君が謝ることなんて何もない。……おいで、メロディ」
戸惑いながら、私が手を伸ばすとぎゅっと胸に抱きしめられる。なんだか懐かしい匂いがする。マティアスの匂いだ。
「メロディ、会いたかった」
ぽつり、呟くように囁かれ、私もちいさな声で言葉を返す。
「私も会いたかった」
「随分と都合の良い夢だな。メロディがこんなこと言うはずない」
自嘲するように言うとマティアスは私をベッドの方へと押し倒した。キスをしようとしているのか顔を近づけてくる。
「待って、マティアス。聞きたいことがあるの」
私は慌てて彼の口元に手を当てる。マティアスは愛おしそうにその手を取って頬に当てた。
「何?」
「何で悪魔と契約したの?」
マティアスは綺麗な青い目を見開いた。
「……メロディ? まさか、本物?」
「そうよ、マティアス、様。どうしてもそれが聞きたかったの」
マティアスは私の上からゆっくりと体を起こすと、ベッドに腰掛けた。
「……ごめん。言えない」
「どうして」
「ダメだ。これだけは」
「……どうしても言って欲しいの。もうあんな想いはしたくない」
私の強い視線にマティアスは何故か寂しそうに微笑んだ。
「僕は、君を絶対に失いたくない。絶対に」
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