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お茶会
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私はメイヴィス様に招待状を貰い、クロムウェル邸でのお茶会に出席していた。ほとんとがデビューしているかしていないか、という若い女の子達だ。皆が皆、流行りの柄のドレスに身を包み、お茶をしながら益体もない話に花を咲かせている。
メイヴィス様は今回主催なのでまだあまり話すチャンスを持てていない。最初会場入りした時に挨拶しただけだ。もしかしたらもう、ラウル殿下の恋の記憶がないかもしれない。
「……メロディ様?」
私ははっとして隣の席に座る子爵令嬢の顔を見た。いけない。また思いにふけってしまっていたみたいだ。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ」
「こちらのお菓子が美味しいわよって言っただけなの。気にしないで」
くすり、と微笑み合う。公爵家でのお茶会はやはり身分が高い人達が多く、私たちは遠縁で選ばれたというだけだろう。いくつかのテーブルに別れているけれど、身分の近い者同士で固まっている場合が多い。
「ごめんなさい、すこし席を外すわ」
「ええ。お気をつけて」
私は勝手知ったるクロムウェル邸を散策することにした。庭園は広く、招待客も多い。私がすこしくらい席を外したからと言って大丈夫だろう。
「あら! 成金の匂いがするわ」
私が一人の令嬢と擦れ違おうとした時に彼女はいきなり私に向かって言った。いきなりの罵声に面を食らうが、そんなことでは貴族と言えない。
「ミレイユ様、ごきげんよう」
にっこり笑い、ドレスの裾を持って正式な挨拶をする。彼女は王妃の姪に当たり、王太子フェルディナンド様とは従妹になる。今を時めく、モルガン侯爵の一人娘、ミレイユ・モルガン嬢だ。社交界の華と言われている、真っすぐの銀髪と緑色の目を持つ、美しい令嬢。
「クルーガー男爵の娘がここで何をしているの?」
見てわからないのかしら? 内心すこしイラっとしながらも、答えを返す。
「お茶会に出席しています」
「まあ、そうなの。どんなコネを使ったのかは知らないけど、身の程知らずなこと」
「申し訳ございません」
私は笑顔を貫く。こういうことは良くあるのだ。いきなり次男の事業の成功で成り上がったクルーガー男爵家、社交界ではその見方が強い。
ミレイユ様は面白くなさそうに扇で手をぽんぽんと叩き、にいっと笑った。
「……ところで、私の種馬とのデートはどうだった?」
私は笑顔が凍ったのが自分でもわかった。種馬?
「……なんのことでしょう?」
「見目の良い種馬よ。私の所に婿に来る予定なの」
もしかして……ミレイユ様がマティアスの縁談の相手?
「あんなところを婚約寸前の相手に見られたのに破談にならなかったなんてすごく不思議。すごく不愉快だわ」
ヒュっと喉の奥が鳴った。私たち以外にあの状況を知っているのはそれを仕掛けた人だけだ。
「もしかして……貴方が?」
「だからどうしたって言うの? 私を騎士団に突き出す? 誘拐の証拠が残っていたら良いわねえ」
もう一度美しい顔を歪めてにいっと笑う。
「なんであんなことをしたんですか」
私はぎゅっと両手を握り締めた。ドレスの糊のきいたレースが当たって痛い。
「クルーガーの娘如きが、美形の近衛騎士2人も手玉に取って良い気なものね」
「そんなこと……」
「だから、あの二人との関係が何もかも壊れれば良いと思ったの。それに、あの種馬はもうすぐ死ぬし、私に一人子供が出来たら用無しなんだもの。いなくなったら未亡人として存分に遊ぶわ」
大きな衝撃を受けて私は言葉を失った。
マティアスが死ぬ?
「あら、知らなかったのかしら? 何も知らないって本当に可哀想だわ」
くすくすと笑いながら固まったままの私の隣を通り過ぎる。
「可哀想な成金の娘、今に思い知ると良いわ」
メイヴィス様は今回主催なのでまだあまり話すチャンスを持てていない。最初会場入りした時に挨拶しただけだ。もしかしたらもう、ラウル殿下の恋の記憶がないかもしれない。
「……メロディ様?」
私ははっとして隣の席に座る子爵令嬢の顔を見た。いけない。また思いにふけってしまっていたみたいだ。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ」
「こちらのお菓子が美味しいわよって言っただけなの。気にしないで」
くすり、と微笑み合う。公爵家でのお茶会はやはり身分が高い人達が多く、私たちは遠縁で選ばれたというだけだろう。いくつかのテーブルに別れているけれど、身分の近い者同士で固まっている場合が多い。
「ごめんなさい、すこし席を外すわ」
「ええ。お気をつけて」
私は勝手知ったるクロムウェル邸を散策することにした。庭園は広く、招待客も多い。私がすこしくらい席を外したからと言って大丈夫だろう。
「あら! 成金の匂いがするわ」
私が一人の令嬢と擦れ違おうとした時に彼女はいきなり私に向かって言った。いきなりの罵声に面を食らうが、そんなことでは貴族と言えない。
「ミレイユ様、ごきげんよう」
にっこり笑い、ドレスの裾を持って正式な挨拶をする。彼女は王妃の姪に当たり、王太子フェルディナンド様とは従妹になる。今を時めく、モルガン侯爵の一人娘、ミレイユ・モルガン嬢だ。社交界の華と言われている、真っすぐの銀髪と緑色の目を持つ、美しい令嬢。
「クルーガー男爵の娘がここで何をしているの?」
見てわからないのかしら? 内心すこしイラっとしながらも、答えを返す。
「お茶会に出席しています」
「まあ、そうなの。どんなコネを使ったのかは知らないけど、身の程知らずなこと」
「申し訳ございません」
私は笑顔を貫く。こういうことは良くあるのだ。いきなり次男の事業の成功で成り上がったクルーガー男爵家、社交界ではその見方が強い。
ミレイユ様は面白くなさそうに扇で手をぽんぽんと叩き、にいっと笑った。
「……ところで、私の種馬とのデートはどうだった?」
私は笑顔が凍ったのが自分でもわかった。種馬?
「……なんのことでしょう?」
「見目の良い種馬よ。私の所に婿に来る予定なの」
もしかして……ミレイユ様がマティアスの縁談の相手?
「あんなところを婚約寸前の相手に見られたのに破談にならなかったなんてすごく不思議。すごく不愉快だわ」
ヒュっと喉の奥が鳴った。私たち以外にあの状況を知っているのはそれを仕掛けた人だけだ。
「もしかして……貴方が?」
「だからどうしたって言うの? 私を騎士団に突き出す? 誘拐の証拠が残っていたら良いわねえ」
もう一度美しい顔を歪めてにいっと笑う。
「なんであんなことをしたんですか」
私はぎゅっと両手を握り締めた。ドレスの糊のきいたレースが当たって痛い。
「クルーガーの娘如きが、美形の近衛騎士2人も手玉に取って良い気なものね」
「そんなこと……」
「だから、あの二人との関係が何もかも壊れれば良いと思ったの。それに、あの種馬はもうすぐ死ぬし、私に一人子供が出来たら用無しなんだもの。いなくなったら未亡人として存分に遊ぶわ」
大きな衝撃を受けて私は言葉を失った。
マティアスが死ぬ?
「あら、知らなかったのかしら? 何も知らないって本当に可哀想だわ」
くすくすと笑いながら固まったままの私の隣を通り過ぎる。
「可哀想な成金の娘、今に思い知ると良いわ」
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