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01 靴音

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ーーーーーーコツコツコツ。

 高い靴音が、しんとした夜道に響く。今日も予想外の仕事の後始末なんかで、大分遅くなってしまった。

 確かに忙しいけど冒険者ギルドの受付の仕事を、嫌いだという訳でもない。

 どんな仕事だとしても、こういった急なアクシデントはたまに起こるだろうし、やりがいのある良い仕事だと思って難関だった受付の仕事を希望したからだ。おまけに、お給料だってそれなりに良い。

 自分の住む集合住宅に近い曲がり角を何気なく曲がったところで、いかにもな黒いローブを着用した大きな背中を発見し、私は息を呑んだ。

 背中だけでも誰だかわかってしまう彼は、若くして偉大な冒険者と知られる魔法使いで、ユーリ・マックロイ。そして、男性だというのに、やたらと美しい容姿を持っていることでも知られていた。

 これは完全に偶然なんだけど、一人暮らしをしている私は彼と偶然同じ集合住宅の同じ階にある部屋に住んでいた。運が悪いことに冒険者ギルドに勤め、職務上で彼の住所を知ることも出来る。

 彼は私の靴音を耳にしたのか、後ろを振り向き、けど何も言わずに前を向いた。

 マックロイさんは成功した冒険者で大金持ちでもあり彼の持つ金髪碧眼で王子様のような美々しい容姿もあって、人気があり女性にとてもモテる……らしい。

 なるべく足音を立てずに続く私が何を言いたいかというと、そうつまり……単に帰り道が同じだけの私が、マックロイさんに懸想していると勘違いされていることだ。

 これまでに自分の住む階にまで上がり、階段に近い部屋に入るマックロイさんが扉をパタンと閉める前に、続いて自分の部屋へと帰ろうとする私をチラッと見たことが何度かあった。

 別にそれまでも親しくもなかった間柄だけど、冒険者ギルドでの彼は目に見えてよそよそしくなった。

 私が受付に座っている窓口には絶対に来ないし、なんなら他の受付嬢の窓口が多忙で時間が掛かりそうでも、暇そうな私の窓口には絶対来ない。

 そんな風に避けているマックロイさんを見て、私は彼にどう思われているのか完全に理解した。

 あ。これ私のこと、とんでもなくヤバい女だって、誤解している。

 けれど、私は本当に偶然マックロイさんと同じ階の部屋に住んでいるだけなので、彼の誤解でしかない。

 彼にはあからさまでわざとらしいくらいに避けられているので、誤解を解く機会も与えられない。

 夜道を歩くマックロイさんは、そんな女に影響されて自分のペースを乱されることが嫌だったのか、尾けているファンだと思っている私を見ても、全く気にせずにゆっくりとした速度で歩いていた。

 彼の後に続くしかない私は、ため息をついた。
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