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結局その日に、どれだけ目を凝らして探しても、夜鳴草は見つからなかった。
三人が折り返しとした地点から神殿へと帰る道中も、話し上手で知識豊富なアランは物を知らないミルドレッドに珍しい薬草や茸について詳細に説明してくれた。役に立つ他の薬草などは採取したりもしたのだが淡く光を放つという夜鳴草は、見つけることが出来なかった。
魔法を使う時に消費する魔力を全回復した上に状態異常も解除もしてくれるらしく、そもそもの数が少なく珍しい上に、効能が効く時間が短期間のために市場では目の飛び出るような価格で取引されるというから、一日を使って探しても一本も見つからないという事態は、特に驚くようなことでもないらしい。
ロミオとアランの二人も想定内だったらしく、一日を無駄にしたようなものなのに特に気にした様子もない。また時間がある時に、森の中をゆっくりと歩いて探そうと言われた。
神殿にまで帰りつけば、もう辺りは赤い夕焼けに包まれ夕刻の食事時は迫っていた。
「ミルドレッド! 探したわ。貴女にお客様よ」
自室にていつも通りの聖女である身分を表す服に着替えを済ませ、ロミオの部屋に戻ろうと廊下を歩いていたミルドレッドは、先輩聖女のクリスティーナに声を掛けられ慌てた。
聖女で身分の高い彼女ほどの人が、まさか自分を探すようなそんな事をするなんてと驚いたからだ。
「クリスティーナ様……! 本日は外出許可を頂いて、森に行っておりました。お手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
「ふふっ。そんなに、畏まらなくても大丈夫よ。さっき、もっぱらの噂になっている元に戻った勇者様と剣聖様にもお会いしたわ。お二人とも、凄く素敵な人たちね。とっても、役得だったわ。ありがとう。さ。ご家族が待っているわ」
頭を下げて恐縮した様子のミルドレッドに悪戯っぽく微笑んだクリスティーナは、親族などの面会用に用意されている部屋がある入り口の方向を指差した。
「それでは、失礼します。本当に、ありがとうございます」
ミルドレッドは彼女にもう一度頭を下げて、失礼にならない程度に距離をあけてクリスティーナの近くを通り過ぎた。
(……家族? やはり、お父様なのかしら。カーライル家がコナー家から借りているお金については、ロミオ様がどうにかしてくれるとは言っていたけれど、その事?)
走りたい気持ちを抑えて早足で進みながらも、もしこの神殿に訪問するのであれば手紙の先触れもなく父の訪れがあるのはおかしいとは思った。父が居る王都から、この神殿へはかなりの距離がある。長い旅路を進んでいる間に、一通の手紙を出せない訳がない。
ロミオはミルドレッドに「何も心配は要らない」と言ってくれていたけれど、彼に全てを任せっ放しという訳にもいかない。
そして、愛は貰えなかったとしても父は血の繋がった親で、自分を幼い頃から育ててくれたことには間違いなかった。もうこれから、縁を切って実家へは帰らないとしても、挨拶くらいはしておくべきだろう。
「あら。お姉さま! とっても、待ったわ。久しぶりね」
ミルドレッドの予想を裏切り、狭い小さな面会室に居たのは、継母の連れ子で妹のコーデリアだった。赤銅色の髪は、いつも通り流行の形に結い上げられて、スカートの膨らんだ可愛らしい檸檬色のドレスに身を包んでいた。
自信満々の笑顔の中にある、嘲るような光を持つ茶色の瞳。ミルドレッドは幼い頃からの癖で、それを見る度に身が竦んでしまう。
「……コーデリア? どうして、貴女がここに居るの?」
ついこの間、テオフィルスが神殿に来ていたが、あれからそんなに時間は経っていない。
まだ彼も、帰りの馬車に揺られているくらいなのではないだろうか。それに、ミルドレッドと血の繋がりのある父なら、ここを仕方なく訪れる理由はわかるのだが、ミルドレッドの事をずっと嫌っていたコーデリアがここに居る理由が思い浮かばずに眉を寄せ当惑した。
三人が折り返しとした地点から神殿へと帰る道中も、話し上手で知識豊富なアランは物を知らないミルドレッドに珍しい薬草や茸について詳細に説明してくれた。役に立つ他の薬草などは採取したりもしたのだが淡く光を放つという夜鳴草は、見つけることが出来なかった。
魔法を使う時に消費する魔力を全回復した上に状態異常も解除もしてくれるらしく、そもそもの数が少なく珍しい上に、効能が効く時間が短期間のために市場では目の飛び出るような価格で取引されるというから、一日を使って探しても一本も見つからないという事態は、特に驚くようなことでもないらしい。
ロミオとアランの二人も想定内だったらしく、一日を無駄にしたようなものなのに特に気にした様子もない。また時間がある時に、森の中をゆっくりと歩いて探そうと言われた。
神殿にまで帰りつけば、もう辺りは赤い夕焼けに包まれ夕刻の食事時は迫っていた。
「ミルドレッド! 探したわ。貴女にお客様よ」
自室にていつも通りの聖女である身分を表す服に着替えを済ませ、ロミオの部屋に戻ろうと廊下を歩いていたミルドレッドは、先輩聖女のクリスティーナに声を掛けられ慌てた。
聖女で身分の高い彼女ほどの人が、まさか自分を探すようなそんな事をするなんてと驚いたからだ。
「クリスティーナ様……! 本日は外出許可を頂いて、森に行っておりました。お手を煩わせてしまって、申し訳ありません」
「ふふっ。そんなに、畏まらなくても大丈夫よ。さっき、もっぱらの噂になっている元に戻った勇者様と剣聖様にもお会いしたわ。お二人とも、凄く素敵な人たちね。とっても、役得だったわ。ありがとう。さ。ご家族が待っているわ」
頭を下げて恐縮した様子のミルドレッドに悪戯っぽく微笑んだクリスティーナは、親族などの面会用に用意されている部屋がある入り口の方向を指差した。
「それでは、失礼します。本当に、ありがとうございます」
ミルドレッドは彼女にもう一度頭を下げて、失礼にならない程度に距離をあけてクリスティーナの近くを通り過ぎた。
(……家族? やはり、お父様なのかしら。カーライル家がコナー家から借りているお金については、ロミオ様がどうにかしてくれるとは言っていたけれど、その事?)
走りたい気持ちを抑えて早足で進みながらも、もしこの神殿に訪問するのであれば手紙の先触れもなく父の訪れがあるのはおかしいとは思った。父が居る王都から、この神殿へはかなりの距離がある。長い旅路を進んでいる間に、一通の手紙を出せない訳がない。
ロミオはミルドレッドに「何も心配は要らない」と言ってくれていたけれど、彼に全てを任せっ放しという訳にもいかない。
そして、愛は貰えなかったとしても父は血の繋がった親で、自分を幼い頃から育ててくれたことには間違いなかった。もうこれから、縁を切って実家へは帰らないとしても、挨拶くらいはしておくべきだろう。
「あら。お姉さま! とっても、待ったわ。久しぶりね」
ミルドレッドの予想を裏切り、狭い小さな面会室に居たのは、継母の連れ子で妹のコーデリアだった。赤銅色の髪は、いつも通り流行の形に結い上げられて、スカートの膨らんだ可愛らしい檸檬色のドレスに身を包んでいた。
自信満々の笑顔の中にある、嘲るような光を持つ茶色の瞳。ミルドレッドは幼い頃からの癖で、それを見る度に身が竦んでしまう。
「……コーデリア? どうして、貴女がここに居るの?」
ついこの間、テオフィルスが神殿に来ていたが、あれからそんなに時間は経っていない。
まだ彼も、帰りの馬車に揺られているくらいなのではないだろうか。それに、ミルドレッドと血の繋がりのある父なら、ここを仕方なく訪れる理由はわかるのだが、ミルドレッドの事をずっと嫌っていたコーデリアがここに居る理由が思い浮かばずに眉を寄せ当惑した。
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