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「あら! 別に、何も心配しなくて良いのよ。お姉さまが上手く大金持ちの勇者様を騙してくれたおかげで、私は誰もが驚くような持参金を持って裕福なコナー家に嫁ぐ事が出来るもの……ほんと。テオフィルスも、最初からそうしてくれたらよかったのに。確かにお姉さまは金髪碧眼で外見は綺麗だけど、頭が回らないし、グズだから気の利いた言葉も返せない。とてもそんな調子では、潤沢な財産を持ち方々と社交しなければならないコナー男爵夫人は、無理だもの。私もこの前に社交界デビューしたばかりだけど、あのテオフィルスなら。爵位は低いけど、容姿も良いしお金持ちだから」

(また、バカにするのね。自分は両親に愛されているからと思って……負けたくない。もう絶対に)

 コーデリアは幼い頃からずっと続いている関係性のままに、ミルドレッドが堪らずに涙をこぼすのを待っている。つんとした表情のままの彼女は、そうなれば高笑いする準備は万端だろう。

 ミルドレッドは、手をぎゅっと握り締めて、目に力を込めた。今日別れてしまえば、妹のコーデリアと会う機会もそうはないだろう。言いたい事を言うなら、今しかない。

「そんな風に、言わないで。私は……」

 父から可愛がられたコーデリアが血が繋がっているにも関わらずに愛されなかったミルドレッドを頭からバカにするのは、いつもの事だ。それはもう、今日で終わりにしたい。

 コーデリアとテオフィルスの二人は、似ている。自分は愛されているという圧倒的自信を持ち、それを持たない者を嘲笑う。ミルドレッドは幼い頃から、それがとても辛く惨めだった。

 懸命に言い返そうとする姉が意外で気に障ったのか、コーデリアは顎を上げてなおも言い募った。

「あら。本当の事でしょう。今も、そうじゃない。情けないわね。自分の意見もまともに言えないなんて、成人しているとは思えないわ……本当にこの人の何が、良かったのかしら。お姉さまに世話になったからと、勇者様がお姉さまとテオフィルスの婚約解消のため支払った違約金の額を知ると驚くわよ。そして、勇者様からお姉さまに世話になったからとカーライル家にもっとお金が届いたの。そしてお父様が神殿に行くなら使っても良いって言うから、私は近くの街まで転移陣で来ることが出来たのよ。森を抜けるだけだったから、そう時間も掛からずに、今ここにこうして居るという訳。けれどテオフィルスは、既にお姉さまとの結婚式の準備をかなり進めていたし、もし、誰かと結婚するなら気心の知れた私が良いと言い出したのよ」

 どうやらロミオはミルドレッドのために、両家に対してかなりの金額を払ったようだった。我儘放題のテオフィルスと、要らない娘を高く売りたかったミルドレッドの父親が何も言わずに引き下がるくらいだ。庶民なら、途方もない数字に違いない。

(どうして。そこまで、してくれるの……私には、そんな価値なんてないのに)

 ミルドレッドは俯き、ロミオの優しさを思うと胸が痛んだ。

「……そう」

「どうか、心配しないでね。お姉さまの代わりに、立派に貴族の彼を支えてみせるわ。それを伝えに来たの。それに、お父さまはお姉さまにもう用はないと言っていたから」

「……お父さまが?」

 父親の信じられない言葉に、愕然としたミルドレッドににっこりと笑って、コーデリアは言った。

「そうよ。嫌な女の娘が残されて本当に迷惑だったが、あれも最後に役に立ったと笑っていたわ」

 良く研がれた鋭い刃のような言葉が心に突き刺さり、温かな涙が頬を伝うのを感じた。
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