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父から愛されていないことは、良くわかっていた。けれど、そこまでだとは思っていなかったから。
悲しくてまた何も言えなくなったミルドレッドを見て獲物を見つけた肉食獣のような目を細め、侮蔑の言葉を重ねようとしたコーデリアが口を開こうとした時に、思いもしなかった彼の低い声が狭い部屋に響いた。
「どうも……初めまして。ロミオ・マーマデュークです。君が、ミルドレッドの妹?」
理由はわからないが、いきなりここに現れたロミオは、俯いていたミルドレッドの肩に手を置いて、背中にぴったりと身体を寄せた。
ミルドレッドは頼りになる彼の熱を感じて、また涙が溢れて来た。
(助けに来てくれた……この人は。この人だけは、私を守ってくれるんだ)
今までずっと親にも守られることがなかったミルドレッドに、ロミオは初めて安心感という盾をくれた。
彼と一緒に居れば、きっとどんなことでも大丈夫だと思える揺るぎない信頼だった。
「まあっ! 貴方が、世界を救って下さった勇者様ですか? 私はコーデリア・カーライルです。姉が、とてもお世話になっています」
ロミオが勇者で、そして彼が世界でも有数なほどのお金を持ち、非常に裕福なことをコーデリアはもう既に知っている。
媚びるような甘えた声がして、握手を求めて近寄ろうとしたコーデリアを、ロミオは手を翳して動きを制した。
「ミルドレッドは、俺と結婚するんだ。だから、義理の妹になるね。よろしく。コーデリア」
背中をすっぽりと覆う大きな身体の彼の言葉は、ミルドレッドにとって全く現実感が湧くものではなかった。
(きっと……私を、庇うための嘘)
「お姉さまと……? 勇者様が……」
一瞬、呆気に取られた表情をした後に、自分では制御出来ぬほどの燃えるような悔しさが湧き上がってきたのか。コーデリアは顔を真っ赤にさせた。
「そうだよ。君も結婚式には是非、来て欲しい。誰よりも幸せそうなミルドレッドを、見て欲しいからね」
前を向いているミルドレッドからは顔の見えないロミオの声は、落ち着いていた。
コーデリアにそれを言ってしまえば、もう引き返せないのにと慌ててミルドレッドが振り向けば、彼は優しく微笑んだ。不意に頬を滑っていく涙を、彼の大きな手が拭った。
「……私。もう、失礼するわ!」
自分より下の存在であると今までずっと思っていた姉が、世界でもそうはいない男性に大事にされ愛されているという事実に耐えられなかったのかコーデリアは足音も高く去って行った。
「大丈夫?」
(ああ。そうだ。この目。これは、彼が理性を失っていた、あの時からずっと……)
ロミオの蒼い目の中には、ミルドレッドだけを思い慕うあの時と、同じ光があった。
悲しくてまた何も言えなくなったミルドレッドを見て獲物を見つけた肉食獣のような目を細め、侮蔑の言葉を重ねようとしたコーデリアが口を開こうとした時に、思いもしなかった彼の低い声が狭い部屋に響いた。
「どうも……初めまして。ロミオ・マーマデュークです。君が、ミルドレッドの妹?」
理由はわからないが、いきなりここに現れたロミオは、俯いていたミルドレッドの肩に手を置いて、背中にぴったりと身体を寄せた。
ミルドレッドは頼りになる彼の熱を感じて、また涙が溢れて来た。
(助けに来てくれた……この人は。この人だけは、私を守ってくれるんだ)
今までずっと親にも守られることがなかったミルドレッドに、ロミオは初めて安心感という盾をくれた。
彼と一緒に居れば、きっとどんなことでも大丈夫だと思える揺るぎない信頼だった。
「まあっ! 貴方が、世界を救って下さった勇者様ですか? 私はコーデリア・カーライルです。姉が、とてもお世話になっています」
ロミオが勇者で、そして彼が世界でも有数なほどのお金を持ち、非常に裕福なことをコーデリアはもう既に知っている。
媚びるような甘えた声がして、握手を求めて近寄ろうとしたコーデリアを、ロミオは手を翳して動きを制した。
「ミルドレッドは、俺と結婚するんだ。だから、義理の妹になるね。よろしく。コーデリア」
背中をすっぽりと覆う大きな身体の彼の言葉は、ミルドレッドにとって全く現実感が湧くものではなかった。
(きっと……私を、庇うための嘘)
「お姉さまと……? 勇者様が……」
一瞬、呆気に取られた表情をした後に、自分では制御出来ぬほどの燃えるような悔しさが湧き上がってきたのか。コーデリアは顔を真っ赤にさせた。
「そうだよ。君も結婚式には是非、来て欲しい。誰よりも幸せそうなミルドレッドを、見て欲しいからね」
前を向いているミルドレッドからは顔の見えないロミオの声は、落ち着いていた。
コーデリアにそれを言ってしまえば、もう引き返せないのにと慌ててミルドレッドが振り向けば、彼は優しく微笑んだ。不意に頬を滑っていく涙を、彼の大きな手が拭った。
「……私。もう、失礼するわ!」
自分より下の存在であると今までずっと思っていた姉が、世界でもそうはいない男性に大事にされ愛されているという事実に耐えられなかったのかコーデリアは足音も高く去って行った。
「大丈夫?」
(ああ。そうだ。この目。これは、彼が理性を失っていた、あの時からずっと……)
ロミオの蒼い目の中には、ミルドレッドだけを思い慕うあの時と、同じ光があった。
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