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「どうして……そんなに、私の事を?」

 ロミオが自分のために世界を救ったという途方もない話を聞いてから、どこか夢心地だった。でも彼はミルドレッドには、嘘をつかないだろう。真っ直ぐに向けられる視線に、疑いを抱かせるものは何処にも見当たらない。

 その光は何も求めないようでいて、どうか想いを叶えて欲しいと確たるものを飢えるように求めている。自分と同じように、ミルドレッドからもと。

 果てたばかりの身体を気遣ってか、剣だこが沢山ある彼の固い手のひらはミルドレッドの滑らかな肌を堪能するように滑るように身体中を彷徨った。無理強いなどすることもない、あくまで優しい力加減で、そうしたちょっとした何かにもロミオの強い気持ちを感じた。

「んー……まあ、別にどうって、事はない。何年か前に君が外を歩いている時に、庶民の一人にちょっと優しくした。俺は心優しく美しい貴族令嬢に、恋に落ちた。それだけで、自分には決して叶うはずのない恋だと、そう思っていた。けれど、魔王が復活した知らせを聞いて、世界中が怯える中で。俺一人だけは、もしかしたら、と。それからは必死で、全力で走った。だから、その頃はあまり記憶がないんだ。死ぬほど頑張ったような気がするだけ。でも、魔王を倒して、ミルドレッドを迎えに行けると思った時の喜びは、今も覚えている」

「優しく……?」

 ミルドレッドは、優しく微笑む彼の言葉を聞いて記憶を探るように眉を寄せた。こんなに綺麗な顔を持つ男性なら、会ったらきっと覚えているだろうと思ったから。

「君には、きっとなんてことのない事だったと思う。けれど、俺にはずっと忘れられなかった。忘れられなかったんだ」

 ロミオはその時のことを思い出したのか、空の一点を見つめどこか遠くを見ているような表情になった。まるで人形のように整った彼の顔をこうしてじっと見るのは、なんだか久しぶりのような気がしてミルドレッドはクスッと笑った。

「ロミオが……そう。いつも私のことを見てくれるから、恥ずかしくて目を逸らす癖がついちゃったのね。なんだか、こうして顔をちゃんと見るの。久しぶりな気がするの」

 彼の頬に人差し指を滑らせれば、ロミオの蒼い目は今にも触れそうなくらい間近な距離にまで迫った。

「顔を見るの……恥ずかしい? 俺はなんか……ミルドレッドの顔を眺めていても、全然飽きない。多分、君本人が許してくれるなら、一日中でもいけると思う。男と女の差なのかな……」

 ロミオがまじまじとした様子で見つめるので、ミルドレッドは恥ずかしくて目を伏せた。

「こんなに綺麗な顔の人に見つめられたら……絶対、緊張します」

「俺って、綺麗なの? あ。ごめん。別に意識した訳じゃないけど。今の言葉、ちょっと気持ち悪いな……」

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