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63 jewelry(2)
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「っはい?」
「じっと見ているとこに、ごめん。ミルドレッドに付けてみて良い? 鎖の長さを、調節したいから……」
ロミオは苦笑していて、すぐ傍に居る店主も、年若い恋人達に対して微笑ましそうに目を細めている。もしかしたら、何度か名前を呼ばれていたのに無視している形になっていたのかと、ミルドレッドは慌てた。
「ごめんなさい。大丈夫です……お願いします」
ロミオは店主の持っていた盆の上から首飾りを持ち上げて、長い金髪を自分で持ち上げているミルドレッドの首の後ろで小さな留め具をカチッと音をさせて留めた。
「鎖の長さは、丁度良さそうですね……どうですか? 動いた時に、邪魔にはなりませんか?」
店主は自分が作った商品の性能を確認するように聞いたので、ミルドレッドは鎖骨の下辺りに吸いつくような質感の銀色の金属を見た。
軽すぎず重すぎず。取り巻く鎖も付けている事を忘れてしまうほどに細く、思わず溜息をついてしまうほどに腕の良い匠の仕事だった。
「えっと……大丈夫です。重さも全然感じなくて、すごく。良いです」
素直な感想を述べると、店主とロミオは二人は顔を見合わせて笑った。その様子に首を傾げると、ロミオが微笑みつつ説明してくれた。
「……俺がこれを注文する時に、かなり多くの条件つけたから。うん。君に、良く似合ってる。これは俺の婚約者の証だ。ミルドレッド」
そういえばこの国サウスラーナでは、庶民の婚約の証となるのは首飾りだと聞いたことがあった。
もう既に婚約者の居た貴族の自分には関係ないと思っていたけど、ロミオは彼なりに心を尽くしてミルドレッドに婚約の証を準備してくれていたらしい。
「ありがとう。ロミオ。すごく嬉しい」
痺れるような嬉しさが、ミルドレッドの身体中を駆け巡り溢れ出しそうだった。
今まで何か貴族令嬢として必要とあれば、継母のお下がりのものばかりしか付けたことのなかった。自分のためにと作られたこの首飾りひとつが、とてつもなく貴重なものに思えたからだ。
(これは、私の……私だけのもの。そんなの、初めてかも)
何かにつけて、ミルドレッドが持っているものを欲しがる妹コーデリアに取られ続けて来たので、どこか諦める癖がついてしまっていた。
どうせいつか手放さなければならないなら、特別な思いなど抱かない方が良い。
「気に入ってくれた? 良かった。それじゃ、これは付けたままで行くよ。これは心ばかりだけど、急ぎで素晴らしいものを作ってくれた礼だ」
ロミオが手渡した金貨を持って、店主が呆然としている隙に、彼に手を取られて二人はその店を後にした。
歩くたびに首飾りは少しだけ揺れて、その存在を主張した。視線を落とせば、明るい陽に跳ねる蒼い光。
「ロミオ……本当にありがとう。私も貴方に、お返ししたい。私は今はあまり、お金を持ってないんだけど……」
彼が握っている手と逆の右手で宝石に手を触れつつ、感謝の気持ちを込めてそう言えば、ロミオは手をぎゅっと握った。
「そんなの、気にしなくて良いよ。それに、俺たちはいずれ結婚するんだから。俺の持っているすべては、君のものだ。ずっとそう言いたかった。だから、今本当に……万感の思いだよ」
「じっと見ているとこに、ごめん。ミルドレッドに付けてみて良い? 鎖の長さを、調節したいから……」
ロミオは苦笑していて、すぐ傍に居る店主も、年若い恋人達に対して微笑ましそうに目を細めている。もしかしたら、何度か名前を呼ばれていたのに無視している形になっていたのかと、ミルドレッドは慌てた。
「ごめんなさい。大丈夫です……お願いします」
ロミオは店主の持っていた盆の上から首飾りを持ち上げて、長い金髪を自分で持ち上げているミルドレッドの首の後ろで小さな留め具をカチッと音をさせて留めた。
「鎖の長さは、丁度良さそうですね……どうですか? 動いた時に、邪魔にはなりませんか?」
店主は自分が作った商品の性能を確認するように聞いたので、ミルドレッドは鎖骨の下辺りに吸いつくような質感の銀色の金属を見た。
軽すぎず重すぎず。取り巻く鎖も付けている事を忘れてしまうほどに細く、思わず溜息をついてしまうほどに腕の良い匠の仕事だった。
「えっと……大丈夫です。重さも全然感じなくて、すごく。良いです」
素直な感想を述べると、店主とロミオは二人は顔を見合わせて笑った。その様子に首を傾げると、ロミオが微笑みつつ説明してくれた。
「……俺がこれを注文する時に、かなり多くの条件つけたから。うん。君に、良く似合ってる。これは俺の婚約者の証だ。ミルドレッド」
そういえばこの国サウスラーナでは、庶民の婚約の証となるのは首飾りだと聞いたことがあった。
もう既に婚約者の居た貴族の自分には関係ないと思っていたけど、ロミオは彼なりに心を尽くしてミルドレッドに婚約の証を準備してくれていたらしい。
「ありがとう。ロミオ。すごく嬉しい」
痺れるような嬉しさが、ミルドレッドの身体中を駆け巡り溢れ出しそうだった。
今まで何か貴族令嬢として必要とあれば、継母のお下がりのものばかりしか付けたことのなかった。自分のためにと作られたこの首飾りひとつが、とてつもなく貴重なものに思えたからだ。
(これは、私の……私だけのもの。そんなの、初めてかも)
何かにつけて、ミルドレッドが持っているものを欲しがる妹コーデリアに取られ続けて来たので、どこか諦める癖がついてしまっていた。
どうせいつか手放さなければならないなら、特別な思いなど抱かない方が良い。
「気に入ってくれた? 良かった。それじゃ、これは付けたままで行くよ。これは心ばかりだけど、急ぎで素晴らしいものを作ってくれた礼だ」
ロミオが手渡した金貨を持って、店主が呆然としている隙に、彼に手を取られて二人はその店を後にした。
歩くたびに首飾りは少しだけ揺れて、その存在を主張した。視線を落とせば、明るい陽に跳ねる蒼い光。
「ロミオ……本当にありがとう。私も貴方に、お返ししたい。私は今はあまり、お金を持ってないんだけど……」
彼が握っている手と逆の右手で宝石に手を触れつつ、感謝の気持ちを込めてそう言えば、ロミオは手をぎゅっと握った。
「そんなの、気にしなくて良いよ。それに、俺たちはいずれ結婚するんだから。俺の持っているすべては、君のものだ。ずっとそう言いたかった。だから、今本当に……万感の思いだよ」
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