病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん

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157話目 旅行①

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「やっと片付いたよ……」

「ふぅ、疲れた疲れた。」

部屋の角にたまったゴミ袋を背に、2人はいつものソファーへと座る。

「よし!部屋の片付けも終わったことだし、早速ハイライトでも見ようではないか!」

「そうだね。誰かさんのせいで随分ここまで時間かかったけど。」

「よーし、スイッチオン!」

夏海がテレビに表示された動画の再生ボタンを押す。

私やFoxAgainのみんな、大会参加者の名シーンや迷シーンがどんどんと流れていく。

私たち参加者はその映像を見ることはできなかった。

こうやって一つの動画にまとめてくれると助かる。

ハイペースで流れていく動画を見ながら、1か月ぶりに戻って来た喜びをかみしめる。

確かに掃除は大変だったし、めんどくさいと思った。

けど、あの掃除があったからこその戻ってきた感というか、ここには私が必要なんだという感覚。

もう大会が終わってから1か月も経過しているのに、あの場で戦った記憶が手に取るように思い浮かぶのは、きっと本気で大会を楽しんでいたからなのだろう。

目を輝かせながら画面に見入る夏海の姿を見て、心の底からそう思う。

次の大会の予定はまだ発表されてないけど、次の大会は冬頃になると思う。

今の季節は夏も終わりかけのちょうどいい時期だ。

実はこのゲームに出会ってからすでに一年以上が経過している。

ほんとに時の流れというものは早い。

「ねえ夏海、大会の前に話してたこと覚えてる?」

「ん?旅行の話?」

「そうそれ!いつ行く?」

「う~ん、いつにしようか。夕日は病み上がりだから少し時間を空けようと思っていたんだけど……」

「いや、全然体調悪くないんだよ。明日にしよう!明日!」

「はぁ?明日!?」

病院に入院していたこの1か月、することがない時は天井を眺めたりしていたけど、とにかくひたすらに旅行の日程を考えていた。

初めての旅行だから遠出はできない。

関東圏の観光スポットはたくさん調べてあるし、行きたいところもしっかりと絞っている。

「よし夏海!早速準備しようよ!」

「えっ、ちょっと、ほんとに言ってる?」

「ここで嘘つく必要ある?」

まだハイライトの動画はすべて終わっていないが、そんな事お構いなしに旅行の準備を始める。









「まさかほんとにいくとは……」

翌日の朝、リュックサックに荷物を詰め込んだ私たちは、都内をグルッと回っている山手線に乗り、池袋駅までやって来た。

「今回の旅行は秩父・長瀞です!」

昨日のうちにホテルの予約を済ませ、ルートのイメージトレーニングも済ませている。

ちなみに、細かな行先は夏海には伝えていない。

「またしても何も知らない一ノ瀬夏海ちゃん……」

「最初はね、まあ私と言ったら大のアニメ好きじゃん?そうなったらもうあそこに行くしかないよね?」

「あそことは?」

「旧下里分校です!」

旧下里分校とは、かの有名な日常アニメ、『のんのんびより』の学校のモデルとなったといわれる学校だ。

10年以上前に廃止になった学校だが、地元の団体が管理してくれており、取り壊されずに当時のまま残っている。

私たちが乗って来た山手線の改札を出て、別の電車の改札に向かう。

私たちが最初に乗るのはここ池袋から北側に伸びる路線、東武東上線だ。

「北に延びるのに何で東上線なんだろうね?」

「知らない。東上さんが作ったんじゃないの?」

夏海の言葉を無視し、早速来ていた電車に乗り込んで小川町駅まで向かう。

今回の旅の工程は1泊2日だ。

緑がきれいなこの季節、秩父は埼玉県と近場で在りながらも山の中にある。

そのため、多少気温が低くてちょっとした避暑にもなる。








乗り込んでから1時間とちょっとで最寄りの小川町駅に到着した。

ここから旧下里分校へはバスで少しかかるため、ちょうど来ていたバスに乗り込む。

「なんか旅って感じがするわ。」

「そうだね~!私初めてだからドキドキだよ。」

バスに揺られて10分と掛からずに目的地の停留所、下里に到着した。

そこからさらに徒歩で10分ほどで、ようやく最初の目的地である旧下里分校に到着した。

「うおぉぉぉお!アニメで見たやつだ!!」

「これは、随分と似ているね。」

どうやら夏海も見たことがあったらしく、静かに驚きの声を上げている。

来たこともないのに感じるなつかしさ、心が浄化されていく音がする。

「ここで学んでた人たちがいると考えると、なんか少し寂しくも感じるわ。」

「そうだね。」

風でざわめく木々の音と、鳥のさえずりに私たちが歩くたびに鳴る砂のこすれる音。

すべてがこの風景にアクセントを加えてくれる。







「あ、なんかあっちにカフェがあるみたい。」

「入ってみよう。」

併設されていたカフェへと入り、軽く食事をとってからこの旧下里分校を後にした。
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