もう我慢しなくて良いですか?

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第一部

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使節団が到着した、その晩。
枢機卿から事の次第を事細かに問いただした使節団は両親が行方不明である事に不安を覚えた。
女神の定める聖典にも愛し子が見出された際は、その家族も保護の対象とする、とある。
悩んだ使節団は教会が王国に持つ男爵位を枢機卿に与え、愛し子を養女として招くことに決定が下された。
愛し子の意思を尊重する事が優先だが、ほぼ決定事項となった。

食事をする中、メリシャに養女にならないか、と尋ねた。
返事を渋るメリシャだが、御両親が不在の間だけだと枢機卿が言うと、迷いながらも承諾した。
愛し子の了承を聞いた使節団は、法衣男爵という体になった枢機卿フォーロスにロスという名で、王都に身を置く事を告げた。
愛し子を護るという意味も含めて、使節団は枢機卿に後を託して王城へと旅立った。


使節団が王都にある王城へ到着すると、事前の連絡もなしに訪問した事に王家は難色を示した。
使節団は教会関係者が国に身を置く貴族によって攫われた旨を報告した。
愛し子などと告げた日には王家との婚姻を結ぼうと画策してくるためだ。
使節団に調査するため待つように言うが、既に事が明るみになっている事を知った途端、王家は動揺を隠せずにいた。
王家としては王国内で粛々とやり過ごし、教会からの接触を避けようという魂胆だったのだが、その策は散ってしまった。

王家が関わっていない事を告げる国王と、臣下である貴族の少数が誘拐に関わっていた事や賊を雇っていた事など公にされては国の沽券に関わる事を漂わせながら、件の誘拐を使節団は認めさせた。
醜い争いに終止符が打たれたが、諦めの悪い王家は挽回の機会を求め続けた。
その結果、誘拐されて救い出した教会関係者を明かさないが、仮にその者が成人を迎えた上で王家に残りたいと言うのであればという条件で機会を得る事に成功する。
使節団は心底意地汚い王家に嫌気がさして、一刻も早くと急かしながら去る事にした。
後に残された王家のうち、国王と王妃は小さくとも教会から利権のような物を手にした事を喜んでいた。


領主館から使節団が発ってから数日が過ぎた頃、機嫌を悪くした使節団が戻ってきた。
枢機卿は労いながら、渡してしまった言質について話す使節団にうんざりしていた。
せめての救いは相手が愛し子であるという情報と、名前も素性も教えていない事だろう。

不慣れな様子で水を運んできた愛し子の存在に、使節団の面々は和み、心に落ち着きを取り戻していった。
愛し子の贈る物には、癒しの奇跡が施されると言い伝えられている通りの効果をもたらしていた。
使節団は名残惜しそうに挨拶を交わして、教会本山がある本国へと帰っていった。
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