悪魔は天使の面して嗤う

汐月 詩

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 宮下 夏子様




 お久しぶりです。私が誰だか、あなたにはわかりますよね? ええ、そうです。十五年前に、あなたの夫との不倫の末に自殺した、あの女の子供ですよ。

 お元気でしたか? お元気でしょうね。何事も無かったかのように、のうのうと暮らしている様子が目に浮かびます。今、幸せですか?

 私はどうしてもあなたたちのことが許せません。たしかに、原因を作ったのはあなたの夫と私の母です。ええ、私の母が無罪だとは思っていません。あなたも相当苦しんだことでしょう。

 けれど……

 母を自殺するまで追い詰めたのは誰ですか?

 「妻とは別れるから」と言われ、待ち続けた挙句、「妻とやり直すから俺の前に姿を見せるな」と罵られ裏切られた、母。

 夫の浮気を知ったあなたから、執拗な嫌がらせを受けた、母。

 そこまでしなければいけませんでしたか?

 母が自殺という道を選ばざるを得なかったのは、あなたたちが追い込んだからと言っても過言ではありません。そうでしょう?

 それなのに、あなたたちはごく自然に、再び家族としての道を歩み出しました。

 私があのあとどうなったかなんて、知りもしなかったでしょう。あの女の子供がどうなっていくかなんて、どうでもよかったんですよね。

 それが私は、許せません。
 自分たちだけが幸せを手にするなんて、そんなの不公平じゃありませんか。

 だから私は決めました。

 復讐をしようって。

 おかしいですか? 復讐する相手に前もって教えるなんて。でもね、あえて先に教えることによって恐怖が生じる復讐だってあるんですよ。







 宮下 千春さん。


 あなたの娘さんですよね? 歳は三十前くらいでしょうか。健康そうで可愛らしいお嬢さんですね。

 なんで知っているかって? 言ったでしょう、許せないって。いろんな手を使えば、人ひとり探すくらい、造作ないことなんですよ。

 あなたたちに一番効く復讐……それは子供なんじゃないかと考えたんです。自分たちのせいで子供が不幸になる。それってすごく悔しいですよね。悲しいですよね。

 だって子供は関係ないですから。

 私は彼女に近づきます。

 あなたも知っての通り、私はあなたの夫をかつて虜にした、あの女の子供です。不幸中の幸いでしょうか、私は彼女によく似て、容姿には自信があります。

 千春さんもきっと、私に夢中になるでしょう。

 私は彼女に、甘い蜜をたくさん吸わせてやるつもりです。私なしではいられない体にして、私のことを忘れられなくします。

 しかし全ては所詮幻。幸せな夢も、いつかは消えてしまう代物。

 彼女を傷物にするかという心配をしているでしょうが、そんなことはしませんよ。犯罪者にはなりたくないのでね。

 ただ、それよりも、彼女にとっては深い傷になるかもしれませんね。

 私は彼女をボロ雑巾のように捨てます。そう、捨ててやるんです。

 愛し愛されていると信じて疑わない彼女は、一体どんな反応を見せるでしょうね。

 もう恋などしないと宣言するでしょうか。仕事を辞めてしまうでしょうか。それとも、私の母みたいに……。

 なんて、ね。

 どうか楽しみに待っていてください。私も今から楽しみです。

 それでは、いい一年を──    』

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