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3章 こうして私はメインストーリーから外れる

27話 事件のその後

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 レーヴァンス王太子の生誕祭は、表向きは無事に終わった。最終日のパーティでは、シャーナさんの入院や赤い液体の事件によって婚約発表は延期されたようだ。ゲーム上の歴史は変わってしまったが、シャーナさんが破滅の道に進まず、多くの子供が救われたのは良かったと思う。

 生誕祭最終日から2日後、私達はレンリオス家の屋敷へ無事帰った。大きな事件があったのに早い帰宅となったのは、長くいたら余計な事に巻き込まれる、と陛下に言われたからだ。屋敷に到着したその翌日には、陛下から褒美として希少な宝石や調度品、最新の武器や鎧、名血統の馬10頭等が贈られ、復興費用は全額連絡するようにと王命まで来た。行動が迅速で、用意周到だ。おそらくこれらは予定されていた褒美で、私が予想外だったのだと思う。褒美の中には私宛の手紙があり、12歳の誕生日になったら国宝〈朝焼けの杖〉を送ると書かれていた。これが通行証の代わりになるらしいが、私に国宝を渡すなんて何を考えているのだろう。

 さらに3日が過ぎた朝、新聞を見ながらお父様は難しそうな顔をしていた。公爵夫人や貴族達の汚職の発覚から、家門の取り潰し、国外追放、死刑等のスキャンダルが新聞の一面を飾っている。まだ8歳なので、詳しい内容はお父様から聞けなかったが、なんとか関わった人のついては教えてもらえた。アーダイン公爵はファシア死刑囚と離婚。ファシアの生家であるメンザード伯爵家を継いだ彼女の一番上の兄は、大泣きでアーダイン公爵に土下座謝罪し、家門取り潰し覚悟で謝罪文と数々の魔道具の権利書を送った。嫁いだ後のファシア単独の行動であった事が考慮され、魔道具の権利を陛下へ譲渡し、国の監視下の元で開発をする事を条件に、なんとか取り潰しは免れたらしい。

 赤黒いものが洗い流される中で、私はシャンティスを初の発芽を成功させた少女として有名になった。また、そのシャンティスのお陰でシャーナ公爵令嬢が救われた事や、アーダイン公爵が人工栽培の支援を行うと表明した為、貴族達から目を付けられた。妻が罰せられても、アーダイン公爵の名誉は一切傷付いていないようだ。それは良かったと思う。
 私の変化として、お茶会の誘いが来るようになった。貴族としては手広く交流をする必要があると思うが、見向きもされなかったのに突然15通も手紙が送られてきたら恐怖でしかない。幸いだったのは、シャーナさんの取り巻きをしている女の子2人からのお誘いがあった事だ。名前は、マリリアさんとジュアンナさん。2人からは、シャーナさんに贈る刺繍入りのハンカチを一緒に作ろうと誘ってくれた。手紙には、事件で私も暴力をされたと知って気遣う内容が書かれていたりと、本当に優しい子達だ。ぜひ参加しますと手紙を送り、他はどんな貴族か分からないので丁重にお断りした。

 シャンティスに関して、あの時の6個は全部シャーナさんに使って欲しいと頼んだ。他の貴族の子も気になるが、一番重症だったのは彼女だからだ。幸い、シャーナさんを除いた子供達は、陛下があらかじめ用意していた薬草で何とかなったらしい。そして私は、種の入手を待ちつつ、アーダイン公爵から派遣された有能な魔術師の人達と新たな箱開発中。人工的に4属性による無属性空間を作るのは難題で、箱が大きくなる程バランスの調整が難しく、試作の日々が続いている。魔術師達にレフィードの存在を勘付かれない為にも、人の力だけで何とかしなければならない。

 兄様は、結局レーヴァンス王太子の遊び相手としての立場で落ち着いた。ただし、王太子に呼ばれたら行くのではなく、お互いに都合の良い日に会って遊ぶ。王太子から誘われても、やりたい事があれば断る。王太子も予定が入れば兄様の誘いは断る。王族と貴族の上下関係ではなく、同じ町に住む子供のような交流をする、と2人は文通をして決めたそうだ。
 お父様とお母様の生活にも変化が現れた。お父様は、国やアーダイン公爵の支援出来た魔術師達と災害や魔物対策で会議を行い、領地を視察する忙しない日々が続いている。
 お母様は、お茶会のお誘いに率先して出向き、戦う気満々だった。夫人のお茶会となれば、政治や事業の情報源の1つ。ここから当主の耳に入るパターンがある。功績があるとはいえ、レンリオス家に与えられた恩恵と貴族らしからぬ謙虚な姿勢は、色々と目を付けられているだろう。田舎男爵風情と妬まれ、利用価値があると思われているはず。お母様がどのように戦っているか想像を絶するが、無事に帰って来てくれている。


 目まぐるしい日々が続き、ようやく世間が落ち着き、生活に慣れた半年後。イリシュタリア王国は春を迎え、私はお父様と一緒に、シャーナさんのお見舞いの為アーダイン公爵の別荘を訪問した。

「わぁ! とても可愛らしいお屋敷ですね!」

 馬車の窓から見えてきた屋敷に、若葉色のワンピースを着た私は思わず声に出していった。

「本当に、まるで春を集めたように綺麗だ」

 お父様も、感動した様子で言う。
 丸みを帯びた屋根に白い外装の屋敷の隣には、大きな温室が立てられている。屋敷の周りは花が咲き乱れ、木々は若葉を茂らせている。春の魔法使いの隠れ家のような御伽噺にでてきそうだ。
 シャーナさんにとって嫌な思い出が多い屋敷よりも、別荘で療養した方が良いとアーダイン公爵が判断したからだと、移動中にお父様から聞いた。
 馬車が留まり、お父様にエスコートしてもらいながら外へ出ると、アーダイン公爵が出迎えてくれた。

「ようこそ。レンリオス卿。ミューゼリア嬢」
「アーダイン公。お久しぶりです。出迎えていただき、誠にありがとうございます」

 お父様が深々と頭を下げ、私もカーテシーを行う。

「お二人が遠路はるばる来てくださったんだ。私が出迎えねば失礼だろう」

 アーダイン公爵は口元に微笑みを浮かべながら、静かな声音で言う。玉座の間で会った時に比べ、厳格さはあるがとても穏やかな印象を受ける。

「カシウス。挨拶をしなさい」

 アーダイン公爵が自身の足元に顔を向けると、深緑色の髪をした小さな男の子が顔を出す。

「…………こん、にちは」

 小さく呟くと、すぐさまアーダイン公爵の影に隠れながら、じっとこちらを見つめている。
 シャーナさんの異母弟のカシウス様。まだ3歳であり、母の暴走を理解できていない彼は、アーダイン公爵の息子として今も籍を置いている。今後どうなるか分からないが、父親に懐き、大切にされているのが分かって安心した。

「はじめまして。デュアス・アルドナ・レンリオスと申します」
「娘のミューゼリア・デュアス・レンリオスと申します」

 微笑ましく思いながらお父様と私が挨拶をすると、カシウス様は更に父親の影に隠れ、小さな体が完全に見えなくなる程縮こまってしまう。

「すまないね。カシウスは、人見知りなんだ」
「お気になさらないでください。この年頃の子は、皆人見知りですよ。ミューゼリアも妻の後ろによく隠れていましたから」
「お、お父様……」

 お父様。アーダイン公爵をフォローしたのだと思うけど、事実なので余計に私は恥ずかしいです。

「おや。しっかりとされたミューゼリア嬢にも、そのような時期が……」
「はい。いつも子ガモの様に妻を追って、とても可愛かったです」

 パパ談議に花を咲かせないでください。
 同じ年頃の娘がいる者同士、2人は気が合うみたいだ。

「ミューゼリア嬢。シャーナは今の時間は、温室で過ごしている。私はレンリオス卿と話が在るので、申し訳ないが一人で会いに行ってもらえるだろうか?」

 私が恥ずかしがっている事に気づいてくださったらしく、アーダイン公爵は話を切り替えてくださった。

「はい。もちろんです」

 私は大きく頷き、メイドに案内してもらいながら温室へと向かった。
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