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6章 氷界は草原に憧れる

85話 2年前からのスタート (リティナ視点)

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 アルカディアの戦姫。大好きで、私の趣味の根幹を成すとも言うべきゲーム。
 その世界に転生したなんて、本当に驚いたの! 
 何もかも新鮮で、リティナのチート能力でどんどん問題解決して、大好きな攻略候補のキャラたちとラブラブになって……
 と、ここまでは良いの。妖精王倒して、エンディングを迎えて、ここから新たなスタートっていう時に、師匠から言われた。
霊峰の頂上に、新たな災いの予兆がある。
簡単な話が、裏ボス。
 エンディングをコンプリートした私でも、倒せないのが裏ボス。
 プレイヤーたちの噂には聞いていたけど、あの野郎!
デバフと状態異常無効の、通常攻撃は高確率クリティカル、即死ダメージの出る全体魔術持ちで、全回復もするってなに!?
 ありえないんですけど!!! どうなってんのこのゲーム!? 
 恋愛ゲームに持ち込むべきキャラですか開発陣!!!! このゲームは振れ幅広いし、遊び心かもしれないけどさ!
 しかも、しかも一番ダメな点は、パーティ全滅したら、メインストーリーの最初からリスタートさせられる!!!
 もう、嫌になっちゃう。でも、あれだけの脅威を見過ごすわけにはいかない。霊峰から降りたら、もう無双状態で国が一瞬で滅ぶ。なんとしても倒さないと。
 今回は初の試みで、いつもよりも早めに行動を開始した。
 チュートリアルの試験なんて楽勝で終わらせ、学園ルートへ突入!
 学園を選んだのは、序盤で傭兵を雇用するのが大変だから。学生なら、特定のアイテムを渡したり、友好度上げるだけで仲間になってくれるから、安上がりなんだよね。もちろん使え捨てる様な馬鹿な真似はしない。丁寧に扱わないとね。彼等にも将来があるんだから。
 早めにフィールドとダンジョンに行きたいから、クラフトスキルを活用して作った友好度が上げやすくなる特製リップクリームを付けて、一気にパーティが組める人をかき集めた。
 そんな時に、中庭で2人に出会った。

「あの……サージェルマンさんとミューゼリアさんは、お知り合いなのですか?」

 ミューゼリアさんが去った後、距離を取りつつ聞いてみる。先走り過ぎて、レーヴァンス王太子のガードマンに抑えられた反省を生かす。

「うん。昔、彼女の父君が治める領地で暮らしていたんだ。そこで彼女のお兄さんと仲良くなってね。時々、一緒に遊んだりしたよ」

 小さい頃は引っ越しが多かったって言ってたもんね。

「だから、とても仲良さそうに話していらしたんですね。変な事聞いてしまって、すいません」
「気にしていないよ。他の子にも、何回か聞かれたからね」

 そうだよね。なぜかは知らないけど、サージェルマンさんは転入初日から、とてつもなく人気者だもん。年下だけど、令嬢であるミューゼリアさんとの関係について、気になる生徒は絶対いる。あの子、虐められたりしないかな。ゴシップ大好きな新聞サークルが騒がないと良いけど……ちょっと心配。

「用が済んだし、僕は行くね。また会ったら、話がしたいな」

 微笑むサージェルマンさんは、おとぎ話の王子様の様にカッコいい。流石は攻略候補。

「はい。私達も、お話がしたいです」

 ここはあえて皆も含める。独り善がりは危ないもんね。
 そして、私達も解散した。家に帰る子もいるし、私も転入初日なので寮ですぐに休むことにした。

「オープン」

 ベッドで横になる私の目の前に、淡い光を放つ板のようなモノが現れる。このウィンドウは私にしか見えない特殊な物だけど、学園で使うと変な行動している様に見えるので、場所を限定して使っている。
 ウィンドウには学園で出会った生徒の皆の名前がずらりと浮かび上がり、その中の〈知り合い〉の項目にミューゼリアさんの名前を見つける。
 ミューゼリアさん。登場の仕方に驚いたけど、いい子そう。
 シャルティスの発芽に成功したなんて、初めて聞いた時は驚いた。
師匠がてっきり全部やり遂げて、薬を作ったと思っていた。でも、ミューゼリアさんの行動には違和感はない。
 だって、たくさんの国民を助けるのに、シャルティス1本や2本では足りないもん。
 多分師匠は、シャルティスを生産するレンリオス家に目星をつけていたけど、入手が困難だったから私に頼んだ。それで私が手に入れて、薬が完成して、〈これが病を治す特効薬になる〉ってレンリオス家に協力を要請して、ちゃんと理由分かったから快く打引き受けてもらったんだ。
 うんうん。納得できる構図。
 あっ、ミューゼリアさんと仲良くなれば、ここをショートカットできるかも。
 でも、焦りは禁物。悪い印象を与えては駄目。モブの生徒でも、私の素行が悪いと好感度が下がっちゃうもんね。今は、好感度を高めて協力関係を結ばないと。
 えーと、ミューゼリアさんのプロフィールは……

『ミューゼリア・デュアス・レンリオス。14歳。性別:女。 
 レンリオス子爵の娘。2歳離れた兄がいる。植物を育てるのが好き』

 うんうん。この辺りは知っている。他の子に聞いた通り。

『初等部の時に、魔物の生態に興味を持った。現在も調べている』

 確か、風森の神殿のキャンプ地に魔物が出て騒ぎになった際、行方不明になって、前日に調査に入っていた人が彼女を発見して、保護していたんだよね。他の子から聞いた時は、凄く運の良い子だと思った。
 怖かっただろうなぁと同情していたけど、結構に精神が強い子みたい。さすがシャルティスに着目した子。発芽以降は目ざましい功績はないらしいけど、まだ14歳だもんね。メインストーリー以降に活躍するタイプの子だ。

『×××◇▼ 〇●◇▲▽▲▽●□□』

 あっ、友好度が低いから、次の項目に文字数しか出てない。
 ここはちょっとズルして、友好度が低くてもプロフィールの追加項目が一つ見れるようになる消費アイテムの〈天使の羽ペン〉を使用。

『好物は林檎。嫌いな物は走竜の肝煮』

 へぇ、走竜の肝煮かぁ。トマトやハーブで煮込んで、臭みを消してはいるけど好き嫌い別れる。私も食べたけど、独特な触感が少し苦手。
 林檎は分かり易くてよかったけど、単にそれを渡すだけではダメだよね。貴族の令嬢さんだから、高級品食べているだろうし。ジャムとか、加工したお菓子を送れば、好感度が上がるかな?
 うーん……でも、リップクリームの材料に注ぎ込んでお金が無いから、まずは交流が優先かな。ミューゼリアさんは、時々いる魔法アイテムが効き難いタイプだから、尚更。
好感度ある程度ないと贈り物受け取ってもらえないし、ここは地道が一番!
 さて、次に戦闘力。ここも、天使の羽ペンを使用。

『レベル10  HP58 MP23
 スキル:植物学〈中〉
     魔物生物学〈中〉
     水属性魔術〈小〉
     拳術〈小〉      』

 拳術……?? 戦闘では槍や剣が主流なこの世界では、かなり珍しい。
 あっ、もしかして護身術として身に着けたのかな。令嬢だもん。何かあるか分からないよね。
序盤にしてはレベルが高いけど、HPとMPの量、スキルを見た感じ非戦闘員。レベルが1でも、魔術や剣術が〈中〉なのが戦闘タイプの基本。〈小〉はほぼ護身用。彼女は採取クエスト専用かな。走っていく後ろ姿が軽快だったから、何だかもったいないなぁ。
 でも、二つも学問スキルがあるのは、かなりの利点。金欠な序盤は、このスキル持ちの人をパーティに入れて、アイテムのドロップ率を上げるのが基本だからね。
 ……よし。序盤の方針は決まった。

 その1、学園生活の合間にクエストをしっかりこなして、レベル上げしながら、お金とアイテムを貯める。
 その2、シャルティスのイベントショートカットとその1の金策の為にも、ミューゼリアさんと仲良くなる。
 その3、攻略候補と仲良くする(レーヴァンス王太子にはもう一回謝る)

 精霊王の遺物をさっさと集めたいけれど、2年前はまだ平和そのもの。試験に合格しても、陛下への謁見は許されていない以上は、4つの大型ダンジョンには踏み込めない。だったら、まずは地道なレベルとステータス上げで、周囲のダンジョンでレアアイテム集めて、メインストーリー始まったら即行動で被害最小限のショートカットをする。これなら時間の余裕が少しは出来て、裏ボスへの対抗策の糸口を探せるはず。
 よし。頑張るぞ!




 *造語である霊草〈シャルティス〉の名前が、途中から覚え間違えで〈シャンティス〉となっていました。申し訳ありません。追々修正を入れていきます
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