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5 ごめんよりありがとう
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「っしゃあっ!」
気合いの声とともにがっちりと組み合う。
圧力をかけやすい有利なポジションを得ようとする力比べ。これを制せれば、この後の主導権を握れる。非常に大事な攻防だ。
身長差はほとんどないので、これは純粋な力比べだ。絶対に負けたくない。
「おおっ!」
気合いと共にギアを一段上げる。
「くっ」
相手はそこが限界だったらしく、天秤は俺の方に傾いた。
レスラーの基本はパワーだ。パワー勝負に勝てれば、単純に嬉しい。
「おらあああっ!」
上から押さえつけるようにして膝を着かせる。
よし、格付け完了。
ここから先、常に上から目線で戦える。心理的なものだけど、これって案外でかいんだ。
苦しい体勢から相手が蹴りを放ってきた。局面を打開したかったんだろうけど、それは悪手だ。
こうやって蹴り足をすくって掴まえてやるだけで簡単にバランスを失う。
バランスを失えば、踏ん張りがきかない。
踏ん張りがきかなければ、でかい相手でも簡単に投げられる。相手の足と、もう片方の手で頭を抱え込み、斜め後ろに倒れ込めば、受け身のとりづらい危険な投げ技になる。
今は稽古なので、マイルドな落とし方にした。それでもまともに背中から落としたので、衝撃で動きが止まる。
すかさずマウントポジションをとって、勝負あり。
「も、もう一本」
「何本でも」
結局その後十本やったが、一本も取られることはなかった。
「哲平くんってホントに強いんだね」
稽古を終えると、見学していた舞子がにこにこしながらやって来た。
「そりゃまあ本気で鍛えたからな」
「何を目指してるの?」
「プロレスラー」
「それで素手なの?」
「武器を持って闘うってのは想定してなかったからな」
「…ごめんね……」
「それはもういいって言ったじゃねえか」
「でも……」
「ごめんよりありがとうの方がいいな」
「…あ、ありがとう」
「うん」
ごめんを笑顔で言う人はいないように、ありがとうをしかめっ面で言う人はいない。どうせなら笑顔を見たいと思うのは普通だよな。
「哲平くん、この後の予定はどうなってるの?」
「特にないよ。筋トレでもしてようかと思ってた」
「…休むって発想はないのね」
「いや、オーバーワークがよくないのはわかってるから、休む時は休むよ」
何かあるのかな?
「どこか行きたいところでもあるのか?」
「う、うん」
「ならはっきり言ってくれればいいぞ。俺はおまえの従者なんだし」
「あたし、そんな風には思ってないよ!」
舞子らしからぬ強い口調。ちょっと驚いた。
「哲平くんは、強くて、優しくて、頼りになって、あたしなんかより全然すごい人でーー」
「ああ、ごめん。冗談だ。本気でそう思ってるわけじゃない」
そう言えばそうだった。舞子は生真面目で、冗談の類いは通用しないんだった。
「いいよ。舞子の行きたいところ、行こうぜ」
「うん、ありがとう」
頷いた後に、大きな声を出してしまったことを恥じらうように頬を染めた舞子が妙に可愛く見えたのは内緒にしておく。
気合いの声とともにがっちりと組み合う。
圧力をかけやすい有利なポジションを得ようとする力比べ。これを制せれば、この後の主導権を握れる。非常に大事な攻防だ。
身長差はほとんどないので、これは純粋な力比べだ。絶対に負けたくない。
「おおっ!」
気合いと共にギアを一段上げる。
「くっ」
相手はそこが限界だったらしく、天秤は俺の方に傾いた。
レスラーの基本はパワーだ。パワー勝負に勝てれば、単純に嬉しい。
「おらあああっ!」
上から押さえつけるようにして膝を着かせる。
よし、格付け完了。
ここから先、常に上から目線で戦える。心理的なものだけど、これって案外でかいんだ。
苦しい体勢から相手が蹴りを放ってきた。局面を打開したかったんだろうけど、それは悪手だ。
こうやって蹴り足をすくって掴まえてやるだけで簡単にバランスを失う。
バランスを失えば、踏ん張りがきかない。
踏ん張りがきかなければ、でかい相手でも簡単に投げられる。相手の足と、もう片方の手で頭を抱え込み、斜め後ろに倒れ込めば、受け身のとりづらい危険な投げ技になる。
今は稽古なので、マイルドな落とし方にした。それでもまともに背中から落としたので、衝撃で動きが止まる。
すかさずマウントポジションをとって、勝負あり。
「も、もう一本」
「何本でも」
結局その後十本やったが、一本も取られることはなかった。
「哲平くんってホントに強いんだね」
稽古を終えると、見学していた舞子がにこにこしながらやって来た。
「そりゃまあ本気で鍛えたからな」
「何を目指してるの?」
「プロレスラー」
「それで素手なの?」
「武器を持って闘うってのは想定してなかったからな」
「…ごめんね……」
「それはもういいって言ったじゃねえか」
「でも……」
「ごめんよりありがとうの方がいいな」
「…あ、ありがとう」
「うん」
ごめんを笑顔で言う人はいないように、ありがとうをしかめっ面で言う人はいない。どうせなら笑顔を見たいと思うのは普通だよな。
「哲平くん、この後の予定はどうなってるの?」
「特にないよ。筋トレでもしてようかと思ってた」
「…休むって発想はないのね」
「いや、オーバーワークがよくないのはわかってるから、休む時は休むよ」
何かあるのかな?
「どこか行きたいところでもあるのか?」
「う、うん」
「ならはっきり言ってくれればいいぞ。俺はおまえの従者なんだし」
「あたし、そんな風には思ってないよ!」
舞子らしからぬ強い口調。ちょっと驚いた。
「哲平くんは、強くて、優しくて、頼りになって、あたしなんかより全然すごい人でーー」
「ああ、ごめん。冗談だ。本気でそう思ってるわけじゃない」
そう言えばそうだった。舞子は生真面目で、冗談の類いは通用しないんだった。
「いいよ。舞子の行きたいところ、行こうぜ」
「うん、ありがとう」
頷いた後に、大きな声を出してしまったことを恥じらうように頬を染めた舞子が妙に可愛く見えたのは内緒にしておく。
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