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36 鈍いのは罪

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 グリーンヒルに帰ってきたケントは父王から託された軍に、三日後の出陣を告げた。それなりに長期間の遠征になるはずなので、家族孝行をしておくように、という配慮である。

 ケント自身は、フローリアとセイラ、それになぜかくっついてきたラリーがいたので、その相手をすることになった。

「何で着いてきたんだ?」

「冷てえな、おい」

 ラリーは大仰に嘆息した。

「あそこにいたってしょうがねえだろ。それに、グリーンヒルには美味いもんがいっぱいあるって聞いてたからな。いいとこ案内してくれよ」

 その言葉にフローリアが反応した。

「プリン食べたい」

「プリンもいいけど、新しいのもあるぞ」

「そうなの!?   じゃあ今日はそれにする」

 フローリアは早くも期待に顔を輝かせていた。これまでの実績として、ケントが紹介してくれたものに外れはない。その信用がフローリアを期待させていたのだ。

 今度はどんな美味しいものが食べれるんだろう。

 期待に胸を膨らませつつ向かった先には大行列があった。

「すごい人だね」

 帝都の門でもここまでは、というレベルの行列にフローリアは感嘆の声をあげた。

「こんなに並んでまで食べたいものって、どんなものなんだろう」

「それは見てのお楽しみということで」

 四人が列の最後尾に並ぶと、案内をしていた女性が大きな声を張り上げた。

「毎度ありがとうございます。本日分は今お並びいただいている方までで完売となります!」

「おお、危なかったな」

 期待させておいて食べれなかったら、それは拷問である。ケントは胸を撫で下ろした。

 雑談しながら待つことしばし、ようやく順番がまわってきた。

「あれ、ケント?」

 カウンターの中から、アリサが不思議そうに声をかけてきた。

「何してんの?   もしかして律儀に並んでたの?」

「そりゃそうだ。これだけみんなが楽しみに並んでるのに、ズルなんてできるわけないだろ」

「発明者に多少便宜図ったところで文句言う人はいないと思うけどねーーでもまあ、そういうところがケントらしさか」

 そこまで話したところで、アリサはケントに連れがいることに気づいた。

「ラリー?」

「おう、久しぶり」

 同じ学校に通っていた二人は当然顔見知りである。ケントを介してそれなりに交流もあった二人は親しげに再会の挨拶を交わした。



そしてーー



 互いにピンときたらしい。

 ケントを除いたその場の全員が、アリサとフローリアの間に散った火花を幻視した。

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