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Ⅰ:始まりは姫の旅
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しおりを挟む「そう、お前だ。それより、ここは危ないぞ。武術大会に出場しようと荒くれ者たちが集まっているからな」
仏頂面でぶっきらぼう、声のトーンも不機嫌そうではあったが、どうやら私のことを心配してくれているらしい。
「その、教えてくれてありがとう。でも私もその大会に出たくてここまで来たの」
「お前がか?」
「うん!」
「…何のために出るんだ?この大会の出場者は女に負けてやるほどお人好しではないぞ」
一瞬、馬鹿にされたのかとも思ったが、青年の瞳に案じの色を見て親切心からの申し出だと悟る。
けれど、ユリフィアの意思は変わらない。
「それでも…私は出るよ」
彼女の 紫色の瞳が真っ直ぐ青年を射抜く。
「……そうか、ならばもう止めはしない。そこのテントで受付を済ませるといい」
「ありがとう」
見ず知らずの私の心配してくれた心遣いにお礼を述べ、ペコリと頭を下げる。
「…お前、この国の人間じゃないな」
立ち去る間際、そう言われユリフィアは笑顔で応えた。
「そうだよ、出身はフリージア王国なの。あ、そろそろ時間だから行くね。本当にありがとう」
もうすぐ受付を終了します、という係の声が響き、慌てて青年の前から立ち去る。
そんなユリフィアの後ろ姿を見つめ、青年は苦笑しながら呟いた。
「変わった娘だな…」
「おや、珍しいですね。貴方が女性に興味を持つなんて」
突然、青年の背後から男がひょっこりと姿を現わせた。
腰まで届く銀の髪を一つに結び、碧の瞳は面白いものでも見るように弧を描いて笑っている。
「レストか。…別に大した事じゃないだろ。それより、お前は今までどこに行っていたんだ?」
従者のくせに主の側を離れるな、と叱責も込めて問うたのだが…当の本人はあっさりと「ヒマなのでぶらついていました」と言ってのけた。
「…毎度のことながらお前の奔放さには呆れるぞ」
「そんなに褒めないで下さいよ。それにいつも言ってるじゃないですか、早く私を解放して下さいと。子供のお守りは苦手なんですよ」
いけしゃあしゃあと主である青年自身に宣う。
普通の主従関係ならありえないほど無礼な振る舞いだったが、生憎とこの2人にはそれが日常だった。
レストの少々難ありの性格にも慣れたもので、青年は呆れため息をついた。
「それよりも、アレクシオ様!先ほどの娘は誰なんですか?」
アレクシオと呼ばれた青年はまたその話に戻るのかとレストを見遣る。
(明らかに面白がってるだろ、こいつ)
「別に誰でもない。ただ例の大会に出場すると言っていたから忠告しただけだ」
「ほぅ…」
「何だよ!」
「いやはや、とても珍しいのでご病気かと。いつもならよっぽどの事がない限り異性に話しかけようとしないのに…」
本気でアレクシオに熱でもあるのではないかと心配する従者に、大袈裟だと一喝する。
「そうですか?まぁ、どちらにせよ貴方が女性に興味を持ってくれて嬉しいですよ。貴方ときたら近寄ってくる女を見れば片っ端から排除してしまうのですから…困ったものです」
レストの小言は耳タコなのか、アレクシオはそっぽを向いて聞き流していた。
「本当に、そろそろ婚約者の1人や2人や3人くらい決めないと、お父様がうるさいですよ」
「いや、1人でいいだろ」
思わずツッコミを入れてから、
「それぐらい分かっている」
とふて腐れたように返す。
「それなら、早く見つけて下さいよ。とばっちりは私にくるんですからね!」
そうレストが続けるとアレクシオは半眼にして彼を見つめる。
「お前、それが本音だろう…」
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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