姫様従者と王子様

花夜

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Ⅰ:始まりは姫の旅

09

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 ここかな?…あ、違った。

 じゃあ、ここ??

 ユリフィアは先ほどから扉が並んだ廊下を行ったり来たりしている。

 予選を無事通過した私は、14時から本戦ということでしばらく休むように控え室へと案内された。

 そこでトイレに立ったのが間違いだった。

 このコロッセオは複雑に道が入り組み、控え室のある通路には似たような扉が並んでいた。

 そのせいで元の部屋が分からなくなったのだ。

「どうしよう…」

 そろそろ本戦の始まる時間だ。

 開始5分までに会場入りしなければ問答無用で不戦勝になると言っていた。

 もう、誰でもいいから通らないかな~、なんて。

 そんな都合よく居るわけないよね…と考えていると、向こうに人影が見えた。

「ま、待って!」

 弾かれたようにユリフィアはその影を追う。

 角を曲がるとーードンッ!!と派手にぶつかった。

「いったぁ~。あ、ごめんなさい!大丈夫!?」

 弾き飛ばされたのはユリフィアの方だったが、尻餅をつきながらも慌てて声をかける。

「いや、俺は大丈夫だが…」

 ん?この声どこかで聞いた覚えが…。

 相手の顔を見て合点がいく。

「あ!忠告してくれた優しいお兄さんだ」

 いきなり叫ばれ、青年もこちらを見遣った。

「お前…あの時の娘か」

「私はユリフィア。よろしくね!えっと…貴方のお名前は?」

「……アレクシオだ」

 突然の自己紹介タイムに青年は驚きながらも応えてくれる。

「アレクシオ、素敵な名前だね。でも、少し長いから…アレクくんって呼んでもいいかな?」

「はっ!?」

 いきなりの申し出にアレクシオは目を点にして彼女ーーユリフィアを見つめた。

 初めて会った(いや、正確には2度目だが…)し、他国から来たと言っていた彼女が俺を王子だと知らないのは当然かもしれない。

 だからといって、この俺に「くん」付け…?

 ユリフィアの態度は無礼千万と言っても過言ではない。

 けれど、事の大きさを知る由もない彼女は外の世界で初めて出来た繋がりに大喜びだった。

 しかし、アレクシオが黙り込んだまま難しい顔をしてしまったのを見て、

「アレクくんって呼ばれ方はイヤ、かな…?」

 少し寂しそうにそう呟いた。

 アレクシオはただただ悩むばかりである。

 何しろ生まれて初めてそのような事を言われ、戸惑っていたからだ。

(イヤかと問われればそうでもないが…)

 けれど、ユリフィアの次に放った言葉、

「じゃあ、アレクちゃんは?」

 と言う事に対しては「やめてくれ!」の一言できっぱり断ったのだった。

「これもダメか。なら、アレぴょん・アッくん…あえてのクーちゃんに、レオくんあたりはどうかな?」

「……すべて却下」

 その後、ユリフィアがアレクシオのあだ名を考えては言い、それを聞いて全力で否定するという攻防が続いた。

「ーーで!?結局なんて呼べばいいの?」

「……はぁ。もうなんとでも呼んでくれ…俺は疲れた」

「じゃ、アレクちゃーー」

「それは無しの方向で頼む」

「もう、ワガママだね。うーん…」

 側から聞けば割とどうでもいいやり取りであったが、本人たちは本気である。

 お互い知る由もないが、2人は王族。

 ただのお喋りでさえ気軽に出来る立場ではない。

 それ故にイレギュラーな邂逅ではあったが、こうやって素でやり取りの出来る事は貴重であった。

「分かった!アレク、と呼び捨てにしてもいいかな?」

 眩しい笑顔でユリフィアが言うと、アレクシオは少々たじろぎながらも

「…それなら構わない」

 とだけ答えたのだった。

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