姫様従者と王子様

花夜

文字の大きさ
12 / 30
Ⅰ:始まりは姫の旅

09

しおりを挟む

 ここかな?…あ、違った。

 じゃあ、ここ??

 ユリフィアは先ほどから扉が並んだ廊下を行ったり来たりしている。

 予選を無事通過した私は、14時から本戦ということでしばらく休むように控え室へと案内された。

 そこでトイレに立ったのが間違いだった。

 このコロッセオは複雑に道が入り組み、控え室のある通路には似たような扉が並んでいた。

 そのせいで元の部屋が分からなくなったのだ。

「どうしよう…」

 そろそろ本戦の始まる時間だ。

 開始5分までに会場入りしなければ問答無用で不戦勝になると言っていた。

 もう、誰でもいいから通らないかな~、なんて。

 そんな都合よく居るわけないよね…と考えていると、向こうに人影が見えた。

「ま、待って!」

 弾かれたようにユリフィアはその影を追う。

 角を曲がるとーードンッ!!と派手にぶつかった。

「いったぁ~。あ、ごめんなさい!大丈夫!?」

 弾き飛ばされたのはユリフィアの方だったが、尻餅をつきながらも慌てて声をかける。

「いや、俺は大丈夫だが…」

 ん?この声どこかで聞いた覚えが…。

 相手の顔を見て合点がいく。

「あ!忠告してくれた優しいお兄さんだ」

 いきなり叫ばれ、青年もこちらを見遣った。

「お前…あの時の娘か」

「私はユリフィア。よろしくね!えっと…貴方のお名前は?」

「……アレクシオだ」

 突然の自己紹介タイムに青年は驚きながらも応えてくれる。

「アレクシオ、素敵な名前だね。でも、少し長いから…アレクくんって呼んでもいいかな?」

「はっ!?」

 いきなりの申し出にアレクシオは目を点にして彼女ーーユリフィアを見つめた。

 初めて会った(いや、正確には2度目だが…)し、他国から来たと言っていた彼女が俺を王子だと知らないのは当然かもしれない。

 だからといって、この俺に「くん」付け…?

 ユリフィアの態度は無礼千万と言っても過言ではない。

 けれど、事の大きさを知る由もない彼女は外の世界で初めて出来た繋がりに大喜びだった。

 しかし、アレクシオが黙り込んだまま難しい顔をしてしまったのを見て、

「アレクくんって呼ばれ方はイヤ、かな…?」

 少し寂しそうにそう呟いた。

 アレクシオはただただ悩むばかりである。

 何しろ生まれて初めてそのような事を言われ、戸惑っていたからだ。

(イヤかと問われればそうでもないが…)

 けれど、ユリフィアの次に放った言葉、

「じゃあ、アレクちゃんは?」

 と言う事に対しては「やめてくれ!」の一言できっぱり断ったのだった。

「これもダメか。なら、アレぴょん・アッくん…あえてのクーちゃんに、レオくんあたりはどうかな?」

「……すべて却下」

 その後、ユリフィアがアレクシオのあだ名を考えては言い、それを聞いて全力で否定するという攻防が続いた。

「ーーで!?結局なんて呼べばいいの?」

「……はぁ。もうなんとでも呼んでくれ…俺は疲れた」

「じゃ、アレクちゃーー」

「それは無しの方向で頼む」

「もう、ワガママだね。うーん…」

 側から聞けば割とどうでもいいやり取りであったが、本人たちは本気である。

 お互い知る由もないが、2人は王族。

 ただのお喋りでさえ気軽に出来る立場ではない。

 それ故にイレギュラーな邂逅ではあったが、こうやって素でやり取りの出来る事は貴重であった。

「分かった!アレク、と呼び捨てにしてもいいかな?」

 眩しい笑顔でユリフィアが言うと、アレクシオは少々たじろぎながらも

「…それなら構わない」

 とだけ答えたのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...