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Ⅲ:姫と従者と王子様
01
しおりを挟むコン、コンと眼前の扉をノックする。
けれど返事はなく、仕方がないので勝手に開けて中に入った。
(レストさんの指示通りにしたけど…いいのかなぁ、王子の部屋に無断で侵入しても)
昨日、レストから朝一番にアレクシオの部屋に向かうよう言われた。
その最返事がなくても中で待つように、とも。
「アレクシオ様?アレクシオ様~??居ないのですか~?」
今日から私の主となる名を呼びながら奥へと進んだ。
さすがは王子の部屋と言うべきか。
広々とした空間にはアンティーク調の家具が揃えられ、花瓶一つとっても高価な物だと分かる。
(…どこにいるのかな。さすがにまだ寝てるってことはないと思うけど…)
ダイニングをうろうろしていると、
「……ユリフィアか」
どこからともなく上半身裸のアレクシオが現れ、私を一瞥してそう言った。
と言うか、もう少し警戒心を持って!!
知らない人だったらどうする気なの!?
でもその前にちゃんと服を着て!!
そんなユリフィアの心情はつゆ知らず、アレクシオは悠々と運ばれていた朝食へと手を伸ばした。
「……どこに行っていたのですか?」
「風呂」
「……そうですか」
それより服を着て下さい、と言いかけて護衛である私が口を出すことだろうかと思い直し噤んだ。
「おい」
「何でしょうか、アレクシオ様」
「…そのアレクシオ様と呼ぶのはやめろ」
「え?」
でも、アレクシオは王子様で主となる方。
お仕えする身である私もそれに習わなければいけないんじゃ…?
「お前は特別だ」
ユリフィアの心を読んだようにアレクシオは答えた。
「それに、ユリフィアに様付けで呼ばれるのは気味が悪い。ついでに敬語もなしだ」
「ちょっと!気味が悪いはないでしょ!?アレクのーー」
あ。
しまった!!
早々に敬語は崩れ、呼び方もアレクに戻ってしまう。
慌てて口を押さえるがもう遅い。
(私のバカ…)
恐る恐るアレクシオを見ると、彼は肩を震わせて笑っていた。
「何故笑うのですか!」
「いや、だっておかしいだろ。懸命にやろうとしているのは伝わった。でも、無理はしなくても良い。お前はお前らしく俺の護衛をしてくれ」
そう言って、コツンと私のおデコを叩いた。
「ただし、公の前では弁えてくれ。俺やレストと一緒の時は気にしなくてもいいから」
アレクシオの優しさに心が温かくなる。
王子という身分上、もう少し偉そうにするのかと思えば、気遣いも優しさも忘れないなんて…良い人なんだな。
ユリフィアは笑みを浮かべ、
「…分かった。お言葉に甘えるね。ありがとう、アレク」
と言った。
「ーーところで、アレク。とりあえず朝食の前にきちんとした格好に整えてきなさい!」
無礼講が許されたところで、ようやく気になっていたことを注意出来た。
けれど当の本人は「風呂上がりは熱いんだよ!」とまるで正当のような言い訳をする。
「風邪を引いたらどうするの!?さすがに風邪からも護れって言われても困るよ?」
「いや、そこまで理不尽じゃないぞ」
「だったらきちんとして」
「……分かったよ」
渋々アレクシオは退散する。
(もう、私が女ってこと忘れているのかな)
残った私は苦笑する。
このやりとりがとても新鮮で、清々しい気持ちで一杯なユリフィアだった。
そんな二人の様子を魔法水晶で覗き見していた陛下とレストはニヤリと笑った。
「どうやらうまくいったようだね」
「はい、陛下」
「これで良い。こうでもしないと 彼奴は女性に興味を持たないからね」
クロスの暁の瞳が嬉しそうに輝く。
その様子を見てレストはくすりと笑った。
「陛下、そろそろ終わりましょう。あまり見すぎると王子にバレますよ」
「む。そうだね。アレクシオにバレると厄介だから…」
そう言いながらもクロスはユリフィアを凝視し、首を傾げた。
初めて大会で見た日も思ったけれど、あの娘どこかで見た覚えが…?
妙な既視感。
けれど深くは追求せず、まぁいいかと持ち前のお気楽さを発揮したのだった。
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