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僕を好きになった人
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カーナビを搭載しているのに、どうして僕は道を間違えてしまったんだろう。
さっきから、同じような山道をぐるぐる回っている。
おかしいな。山を越えて海に出る予定だったのに。いつまで僕はこの呪われた山にいるんだろう。海辺のレストランで少し早いランチをする予定だったから、朝ご飯を食べていない僕らは早くも腹が鳴り出していた。
「ゴメン。もう少しで着くと思うから」
「いいさ。焦らず行こう」
サングラスをつけて助手席にゆったり背もたれる哲平は、口元に笑みを浮かべて、ご機嫌だった。この前の翳りのある表情はもうすっかりなくて、このドライブが気分転換になっていると思うと嬉しかった。
山の木々は緑から赤へと徐々に色を変えていくグラデーションが綺麗で、つい僕は車窓から余所見ばかりしてしまう。それを笑って、指摘された。
「車停めれば?」
「でも、レストランが…」
「いいじゃん、キャンセルすれば」
せっかく哲平の為に用意したのに。
そう言いたくても照れて言えず、僕が視線を彷徨わせていると、クスッと笑って哲平が僕の頬にキスをした。
こんな昼間から!
車を停めて、慌てて周りを見る。ここは山中だ。周りには誰もいやしなかった。
「危ないだろ!」
「キスぐらい、そろそろ慣れろよ」
「キスは構わないけど…」
真昼間で車の中と言うのが問題だと言うのに。
絶対哲平は分かっていて、僕をからかってるんだ。
「ほら、道路の真ん中に車停めるな。あの辺に停めて、ちょっとブラブラしよう」
「…うん…」
促されるままに車を停めて、僕は哲平に手を引っ張られて、山中に入る。ちょうど、すぐ近くにうらぶれた展望スペースがあったから、そこに僕らは移動して、山の中腹から眼下を見下ろした。山の周りは田んぼと高速道路と少しの民家ばかり。
少し遠くに街が見えた。
山中は空気が澄んで綺麗だった。思いっきり空気を吸い込む。
「カメラ持ってきてねぇの?」
「実は持ってきてる。よく分かったね」
カメラと言っても、一眼レフだとかそんな高等なものじゃない。巷で溢れているデジタルカメラだ。
色が変わり始めている紅葉を見つけて、僕はパシャリと写真を取った。
「自然の中の色って、複雑で面白くって、デザインの参考になるんだ」
「さすが元カメラクラブだよな。上手いよ」
「僕のは何をやっても半端だよ。でも、仕事に生かせて満足してる」
それは本心だった。たまたま入った会社がコンサルティングの会社で、パンフレット作成やらプレゼン資料を揃えるのが仕事になって、自分の趣味が利用出来るのは良かった。そうでなかったら、僕はきっと自分の趣味すら忘れてしまっていただろう。
妄想ばかりの、つまんない毎日を過ごしていたから。
「半端じゃねぇよ。お前はいつも真剣だろ」
「まぁ…真っ直ぐにしか考えられないタイプだからなぁ。田舎を出て一人で社会人を始めた時は、息が詰まるような毎日だったよ」
思い返すと、息苦しくなる。あの時は、まだアイツの面影を引きずっていたから。哲平が僕の生活を荒らさなかったら、未だに囚われていたかもしれない。
僕はくるりと振り返って、パシャリと哲平を撮った。
「哲平に会ってから、毎日が楽しくなってきたんだ」
ヘヘッと笑うと、哲平は変な顔をして見返してきた。困っているような、笑っているような顔だ。気分でも悪いのだろうか。
山道をぐるぐる回って、車に酔ったのかもしれない。
「酔った?」
「酔ったかもな…」
「横になった方がいい?」
「そりゃまずい。抑えられなくなる…」
会話が噛み合ってない気がした。それでも心配だから、僕はカメラを鞄に押し込んで、哲平の腕を取った。それより早く、哲平が僕を捕まえた。
「て…」
「吾郎…」
そっと耳で名前を囁かれて、僕は顔がカァッと熱くなった。哲平はそのまま僕に口付けて、僕の思考を奪ってしまう。
この前の女子便所みたいに慌てたけど、山中の方が見つかる危険性は少ないと分かると、僕はもう哲平の行為を拒めなかった。
キスされて、良い気持ち。
哲平の大きな手が僕の体を撫で回す。
「ん…」
そのまま哲平に身を任せても良かったけれど、酔っていると言った哲平の言葉を思い出して、僕はそっと哲平の体を押した。
「吾郎?」
「僕がする…」
「何を?」
「だから、その、…」
はっきり言えるわけがない。顔が熱くって俯くと、僕の意図を読んで、哲平が僕の頭の上でクスクス笑った。
「無理しなくていいよ」
「無理じゃない。いつも哲平にはしてもらってばっかりだから、僕だってちゃんと応えたいんだよ」
ムッとなって、哲平の胸倉をつかんで言い募ると、哲平はとろけんばかりの優しい笑顔を僕に向けてきた。なんなんだ、この甘い顔は。
アイツはこんな顔、しなかったぞ。
「……そっか」
柔らかに僕の頭を撫でると、哲平は近くの木に背を凭れかけ、ゆっくりと目を閉じた。
「じゃあ、頼む…」
「お、おぅ。任せろ」
強気の返事を返して、僕は哲平の前にしゃがみ込んだ。いつも哲平が僕にしてくれるように、
奉仕する。口の中いっぱいに哲平を飲み込んで、僕は必死に舌や口を動かせた。
とても上手だとは言えなかったし、少し時間がかかったけれど、哲平は僕の口の中で出してくれた。
山に捨てるわけにもいかないから、ゴクンと僕は飲み込んだ。それを見て、哲平がおかしそうに笑った。
「…すげぇ嬉しい」
「ど、どういたしまして」
頭を下げると、哲平は僕をそのまま車の中に引っ張り込んで、後はもう予定も何もかもムチャクチャだ。
星が見える時間になるまで、僕らは車の中で抱き合っていた。
素っ裸で外に出るわけにもいかず、僕は車の窓から顔を出して、夜空を見上げる。
あの時と同じような、星のきらめきがある。
「綺麗だな…」
ぼそりと哲平が呟いた。僕もうなずき返す。
「うん…星って好きだよ」
「プッ…」
「?」
僕は何か変な事言ったのだろうか。
哲平を問い質そうと思ったけれど、あんまり幸せそうに笑っているから、何も言えなくなった。僕はまた黙って空を見上げた。
もしかして僕は、あの日のやり直しを哲平としているのかもしれない。
そう思うと、なんでだろう、キュッと胸が締め付けられた。
カーナビを搭載しているのに、どうして僕は道を間違えてしまったんだろう。
さっきから、同じような山道をぐるぐる回っている。
おかしいな。山を越えて海に出る予定だったのに。いつまで僕はこの呪われた山にいるんだろう。海辺のレストランで少し早いランチをする予定だったから、朝ご飯を食べていない僕らは早くも腹が鳴り出していた。
「ゴメン。もう少しで着くと思うから」
「いいさ。焦らず行こう」
サングラスをつけて助手席にゆったり背もたれる哲平は、口元に笑みを浮かべて、ご機嫌だった。この前の翳りのある表情はもうすっかりなくて、このドライブが気分転換になっていると思うと嬉しかった。
山の木々は緑から赤へと徐々に色を変えていくグラデーションが綺麗で、つい僕は車窓から余所見ばかりしてしまう。それを笑って、指摘された。
「車停めれば?」
「でも、レストランが…」
「いいじゃん、キャンセルすれば」
せっかく哲平の為に用意したのに。
そう言いたくても照れて言えず、僕が視線を彷徨わせていると、クスッと笑って哲平が僕の頬にキスをした。
こんな昼間から!
車を停めて、慌てて周りを見る。ここは山中だ。周りには誰もいやしなかった。
「危ないだろ!」
「キスぐらい、そろそろ慣れろよ」
「キスは構わないけど…」
真昼間で車の中と言うのが問題だと言うのに。
絶対哲平は分かっていて、僕をからかってるんだ。
「ほら、道路の真ん中に車停めるな。あの辺に停めて、ちょっとブラブラしよう」
「…うん…」
促されるままに車を停めて、僕は哲平に手を引っ張られて、山中に入る。ちょうど、すぐ近くにうらぶれた展望スペースがあったから、そこに僕らは移動して、山の中腹から眼下を見下ろした。山の周りは田んぼと高速道路と少しの民家ばかり。
少し遠くに街が見えた。
山中は空気が澄んで綺麗だった。思いっきり空気を吸い込む。
「カメラ持ってきてねぇの?」
「実は持ってきてる。よく分かったね」
カメラと言っても、一眼レフだとかそんな高等なものじゃない。巷で溢れているデジタルカメラだ。
色が変わり始めている紅葉を見つけて、僕はパシャリと写真を取った。
「自然の中の色って、複雑で面白くって、デザインの参考になるんだ」
「さすが元カメラクラブだよな。上手いよ」
「僕のは何をやっても半端だよ。でも、仕事に生かせて満足してる」
それは本心だった。たまたま入った会社がコンサルティングの会社で、パンフレット作成やらプレゼン資料を揃えるのが仕事になって、自分の趣味が利用出来るのは良かった。そうでなかったら、僕はきっと自分の趣味すら忘れてしまっていただろう。
妄想ばかりの、つまんない毎日を過ごしていたから。
「半端じゃねぇよ。お前はいつも真剣だろ」
「まぁ…真っ直ぐにしか考えられないタイプだからなぁ。田舎を出て一人で社会人を始めた時は、息が詰まるような毎日だったよ」
思い返すと、息苦しくなる。あの時は、まだアイツの面影を引きずっていたから。哲平が僕の生活を荒らさなかったら、未だに囚われていたかもしれない。
僕はくるりと振り返って、パシャリと哲平を撮った。
「哲平に会ってから、毎日が楽しくなってきたんだ」
ヘヘッと笑うと、哲平は変な顔をして見返してきた。困っているような、笑っているような顔だ。気分でも悪いのだろうか。
山道をぐるぐる回って、車に酔ったのかもしれない。
「酔った?」
「酔ったかもな…」
「横になった方がいい?」
「そりゃまずい。抑えられなくなる…」
会話が噛み合ってない気がした。それでも心配だから、僕はカメラを鞄に押し込んで、哲平の腕を取った。それより早く、哲平が僕を捕まえた。
「て…」
「吾郎…」
そっと耳で名前を囁かれて、僕は顔がカァッと熱くなった。哲平はそのまま僕に口付けて、僕の思考を奪ってしまう。
この前の女子便所みたいに慌てたけど、山中の方が見つかる危険性は少ないと分かると、僕はもう哲平の行為を拒めなかった。
キスされて、良い気持ち。
哲平の大きな手が僕の体を撫で回す。
「ん…」
そのまま哲平に身を任せても良かったけれど、酔っていると言った哲平の言葉を思い出して、僕はそっと哲平の体を押した。
「吾郎?」
「僕がする…」
「何を?」
「だから、その、…」
はっきり言えるわけがない。顔が熱くって俯くと、僕の意図を読んで、哲平が僕の頭の上でクスクス笑った。
「無理しなくていいよ」
「無理じゃない。いつも哲平にはしてもらってばっかりだから、僕だってちゃんと応えたいんだよ」
ムッとなって、哲平の胸倉をつかんで言い募ると、哲平はとろけんばかりの優しい笑顔を僕に向けてきた。なんなんだ、この甘い顔は。
アイツはこんな顔、しなかったぞ。
「……そっか」
柔らかに僕の頭を撫でると、哲平は近くの木に背を凭れかけ、ゆっくりと目を閉じた。
「じゃあ、頼む…」
「お、おぅ。任せろ」
強気の返事を返して、僕は哲平の前にしゃがみ込んだ。いつも哲平が僕にしてくれるように、
奉仕する。口の中いっぱいに哲平を飲み込んで、僕は必死に舌や口を動かせた。
とても上手だとは言えなかったし、少し時間がかかったけれど、哲平は僕の口の中で出してくれた。
山に捨てるわけにもいかないから、ゴクンと僕は飲み込んだ。それを見て、哲平がおかしそうに笑った。
「…すげぇ嬉しい」
「ど、どういたしまして」
頭を下げると、哲平は僕をそのまま車の中に引っ張り込んで、後はもう予定も何もかもムチャクチャだ。
星が見える時間になるまで、僕らは車の中で抱き合っていた。
素っ裸で外に出るわけにもいかず、僕は車の窓から顔を出して、夜空を見上げる。
あの時と同じような、星のきらめきがある。
「綺麗だな…」
ぼそりと哲平が呟いた。僕もうなずき返す。
「うん…星って好きだよ」
「プッ…」
「?」
僕は何か変な事言ったのだろうか。
哲平を問い質そうと思ったけれど、あんまり幸せそうに笑っているから、何も言えなくなった。僕はまた黙って空を見上げた。
もしかして僕は、あの日のやり直しを哲平としているのかもしれない。
そう思うと、なんでだろう、キュッと胸が締め付けられた。
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