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   リリアン視点

 レイモンド様の婚約者?
「いや、何も聞いてないが?
 そもそも婚約なさった事実も無い。」
「ですよねー!でもとにかく来て下さい。
 相手が相手なんで、わたくし達では下手にお帰りいただくわけにもいかず。」
 ヒューイさんの後について見に行く事にした。
 すると栗色の髪の女性がボストンバッグを持ってホールで泣いていた。
「わたくしには行くあてがございません、どうか皇帝陛下からの命令に従い、わたくしを追い出すことはなさらないで下さい。」
 女性はヒューイさんの後ろの私に気づいたようで、
「シュガー男爵でいらっしゃいますわね。
 わたくしはアステローゼ公爵家のレティシア・エメリフィナ・アステローゼでございます。
 あなたの事はお聞きいたしておりますわ。」
 挨拶しないわけにはいかないわね。
「リリアン・シュガー男爵でございます。
 アステローゼ公女様にご挨拶いたします。」
「わたくし、レイモンド様とあなたの仲を引き裂こうとはいたしておりません。
 ですが、皇帝陛下の命令でじきにわたくし達は婚約いたします。
 行き場の無いわたくしは侯爵家のお世話になるしか無いのですわ!」
 わっと泣きくずれる。
 ヒューイさんを始め一様に戸惑う使用人達。
「とにかく公女様を客間にお通ししてお茶を。
 誰か城のレイモンド様と侯爵様に知らせを。
 リリアン様は…。」
「大丈夫です。やりかけの仕事を片付けたら帰ります。」
 気を使わせちゃったな。
 そっか…婚約者か。
 いつかこんな日はくるとは思ってた。
 さっさと書類を片付け、帰らなくちゃ。
 私がいるとレイモンド様はきっと気まずいわ。
 家に帰ると何故かレイモンド様の馬車が止まっている。
「レイモンド様、侯爵邸からお使いが来ませんでしたか?行き違いになったのかしら?」
「いや…先に君に話をしたくて。」
「あ…。」
 まさかいきなり別れ話?
「あの…大丈夫です。
 いつかはこんな日がくるのはわかってましたから。」
 泣いてはダメ。
「何か勘違いしているようだな。
 そうなる気がしたから先にこちらに来た。
 私は婚約などしてはいない。
 たとえそれが皇帝命令でもだ。
 …リリアン?」
 きっと気休めだけど、大丈夫だ、泣かない。
「…まったく。」
 引き寄せられハンカチで涙を拭かれた。
「泣いてない。」
「ああ、そうだな。
 とにかく、婚約はしていない。
 いいな?
 わかったら明日からも通常通り侯爵邸に来るように。
 君が遠慮する必要はないからな。」
「…はい。」
 頭を撫でおでこにキス。
 レイモンド様は乱暴に私を抱いたあの日から少し遠慮がちに優しくなった。
 レイモンド様に加虐趣味があるかもしれない事はアレン殿下の忠告でわかっていたからあまり驚いてはいない。
 私の身体もちょっとおかしくて痛くても快感を感じてしまう。そんな事は人には言えないけど。
 きっとレイモンド様は私に罪悪感を抱いている。私はずるいけどそれを利用する。
 だって別れたくないもん。
 愛人でも恋人でもいいから、側にいたい。
 端から見ればバカな女とDV男なんだろうけど。
 こんな世界じゃそれもありでしょ。
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