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  レティシア視点

 学園から帰るとまたリリアンがいた。
 まったく厚かましい女ね。
「シュガー男爵は毎日何をしにザカリー邸にいらっしゃるの?」
 わたくしに気がつくと頭を下げて、
「アステローゼ公女様。
 私はレイモンド様に雇われてザカリー家のお仕事をさせて頂いております。」
 そんな設定あったかしら?
 まあいいわ。
「ではザカリー家の使用人という扱いでよろしいのかしら?」
「…。」
「ならばわたくしのバッグを持って離れに運んで下さらない?」
「それは…。」
 承知するまで顔をあげる事を許さないでいよう。
 地位の低い者はわたくしが許すまで顔はあげられないの。
 これは意地悪じゃないのよ。礼儀であって、下位の者に対する躾なの。
「わ、わたくしがお持ちいたします。」
 他のメイドがしゃしゃりでる。
 リリアンはもうとっくに使用人達を手なずけているの?
「何をしている!」
「まあ、レイモンド様。お帰りですの?」
 リリアンに駆け寄り身体を起こす。
 わたくしが許してもいないのに。
 本当に溺愛しているようね。
「アステローゼ公爵令嬢、本館には立ち入らぬよう申し渡したはずですが?」
 苦々しくにらんでいる。
「わたくしは帰宅の挨拶を…。」
「不要です。
 早くアステローゼ公爵令嬢を離れにお連れしなさい。」
 メイドに指示すると、リリアンには優しく、
「すまない、こんな事になるような気がしたので早く帰ってきたのだけれど。」
「大丈夫です。」
 ほっとしたようにレイモンド様に笑いかける。
 なんてあざといのかしら。
「申し訳ございません。わたくし、シュガー男爵は使用人だとばかり…。」
 後から来た執事が、
「侯爵家の使用人は各々役割が決まっております。シュガー男爵は外部より執務を手伝っていただいております。
 メイドの仕事はさせておりません。」
「ごめんなさい、わたくしまだ侯爵家の事はよくわかってなくて。これからは気をつけますので教えて…。」
「必要ありません。」
 レイモンド様の低い声。怒っていらっしゃる?
「侯爵家の内輪の事などあなたには関係の無い事です。早く離れにお戻り下さい。」
「で、でも、これから皆様とは親しく…。」
「必要ありません。」
 なんて無礼なの。
 レイモンド様自体も身分をわきまえないのですわね。どうやってわからせてあげればよいのかしら?
 メイド達がレイモンド様に促されわたくしの手を引いて離れに連れていく。
「アステローゼ公女様、お気を悪くされたかもしれませんが、どうかレイモンド様の言う通りにして下さいませんか?」
 メイドの…なんて言ったかしら?
「あなた達名前は?」
「わたくしはハンナ、こちらはラナでございます。」
 40代くらいのメイドが答える。もう一人は二十前後くらいかしら?
「ハンナはこちらの邸は長いの?」
「はい、こちらでメイド頭をしております。」
 まあ!メイド頭を付けてくれるなんてなんだかんだ言ってもわたくしを尊重しているのね。
 このメイド頭を手懐ければこの邸でのわたくしの株は上がり、レイモンド様からも気にかけていただけるはずよ。
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