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きゅう
しおりを挟むピステル先生の授業は、ちょっとスパルタだった。
彼女が参考用として選んでくれた本自体は、どちらかというと幼い子向けのものであったが、一通り読み聞かせてもらってもさっぱり意味が分からない。
内容としては簡単な内容だが、読めない。
そこで、リューナの現代語の読み書きは問題ないと分かると、まずは相対する文字の簡易早見表を抑えてくれた。
基本的にその早見表でリューナが読めたのは、かろうじて音だけだった。
文字の並びで意味が変わってくるのだ。
組み込まれてる文字を発音せずに意味だけが付与されていたり、解釈が飛躍したり。はたまた現代語にはすでに存在しない単語であったり。
「まったく新しい言語を覚えようとしてる気分だわ」
「下手に結びつけようとするから混乱するのよ。今から言葉を覚えるつもりで詰め込めば三日でいける
!」
「人は、三日じゃ、しゃべれない!」
読めないだけで、話せてはいるのだ。意味も通じている。それがまたタチが悪い。
「馴染みのないものを読み解こうとしてる時点で、リューナにとって新しい言語っていうのには違いないでしょうよ。でも、あの図書室の本は読みたいんでしょう?」
「知識がないと対抗できないのは知ってるから。契約の内容も、まったくもって当てがないんだから。まず、相手と同じ土俵に上がらないと、どうにもできそうにないんだもの」
従来の負けず嫌いも手伝って、訳がわからないとぼやきながらもたたき込んだ結果。
リューナは三日で早見表は卒業できた。
たどたどしくも、児童書の内容は読んで理解できるようにはなった。
なぜ児童書までこの館置いてあるのかは考えない。
ひとたび理解できるようになると、そこからは恐ろしく早かった。
一週間もすると、参考レシピを片手に料理ができるようになった。
なぜ料理かというと、そこはピステル先生からの、これが食べたい! という欲望のリクエストによるもの。習うより慣れろを地でいこうと、実践を伴うものを参考教材として持ってきたのだ。
「料理するのはいいんだけどね、自分の分も食べたいから。それで今度はこの食材……燻製肉に果実? なんてここにあるの?」
野菜や調味料の類は棚や氷室にあったが、お肉とかは見た覚えがない。
「ステップアップって大事よね! ちゃんと用意もあるから安心して、裏庭までついてきて~」
そう言うが早い、ピステルはふよふよと飛んでいく。
置いていかれまいとリューナも追いかけるが、早歩きよりも小走りに近い速さで息が切れる。
「はーい、こっちこっち!」
やっと止まったと追いついたところは、館の裏側の井戸があるところだった。
ポンプ式の井戸に、水の流し場に、その横に積まれている肉その他。
食材の周りにはふわふわと発光するなにかが漂っているようにも見える。
「ね、これだけあれば今日のレシピ分は作れるよね?」
ね? と覗き込んでくるピステルは、期待に瞳を輝かせている。作れはする。作れるけども。
「……十分すぎる量はあるんだけども、ねぇ? えーっと……どこから湧いてきたのこれは」
「湧いてきた! そういう見方もあるのね! 近いものがあるけど湧いてはない、むしろ降ってきたみたいな?」
なにがそんなに面白いのか、上下に激しく飛び回りながらけらけら笑い転げている。
降ってきたと言われても、リューナには困惑しかないわけで。とりあえず、見た目通りの食べ物なのよね、と確認するためにも手に取ってみる。
瑞々しい果物も、燻製肉もしっかり本物そのものだった。
「ふわふわ~っとしてるの、リューナにも見えてる? 明るい光のふわふわ」
「えぇ、見えてるわ」
「その子たち、妖精未満の赤ちゃんみたいな存在なの。でも食いしん坊だからね、今回はリューナが作るご飯を対価に食材を集めてもらいました!」
対価で……集めてもらう?
「そんな便利なことができるの?」
「私は声をかけただけだから、実質対価を渡すリューナが仮契約してるようなものなの。魔術デビューおめでとう!」
「そんなに軽く! 本人の意思とは関係なしにできるものなの⁉︎」
「素質はあるから大丈夫。できることが増える方が、都合も良くない? お勉強にも身が入らない?」
「それは確かに、いいのかも?」
言いくるめられてる気がしないでもないけど。害もなさそうなので、流しておこう。
このあとリューナはピステルの希望通りにサンドウィッチとジャムを作り、このジャムが妖精たちにも大変好評価だったようでとんとん拍子に契約を結んでしまった。
ララ、リリ、ルル、レレ ロロ。
名前をつけたら、契約完了とはこれいかに。
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