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3章
59話 踊るリュクス
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曲の幕間、ルーカスが迷いのない足取りで近づき、リュクスの手を取った。
彼はそのまま、鮮やかな手際でリュクスを広間の中心へと誘う。
誰もが息を呑み、二人の姿を凝視した。
軍の正礼装に身を包んだルーカスの体躯は、あまりに隙がなく、見事だった。赤と黒の布地の上からでも分かる、鍛え上げられたバランスの良い筋肉。令嬢たちが彼と踊るために列を作るという噂も、今なら心から納得できる。
(……俺のルーカス、格好良すぎるだろ)
リュクスは内心で惚れ惚れとしていた。
客観的に見れば、皇帝の隣に立ち、この場において誰よりも鮮烈な輝きを放っているのはリュクス自身なのだが、本人にその自覚は一切ない。
そしてその心酔を、彼は微塵も表情には出さなかった。
なぜなら、彼はよくわかっている。
自分を見るユリウスの瞳は、表情筋一本の動きさえ見逃さない。
もしここで失態を演じ、この場所を追い出されれば、またあの「良くない」暮らしで生計を立てる日々に逆戻りだ。
それだけは、死んでも避けなくてはならない。
グローブ越しに伝わるルーカスの手は、驚くほど温かかった。
腰に添えられた掌は優しく、そして大きい。
彼は今の立場を弁えていた。
その大きな手で、優しく腰を撫でて労わってくれるような真似は――それが周囲にどう映るかを理解しているがゆえに――決してしない。
(……さすが、俺の夫……!)
そんな場違いな称賛を心の中で送りながら、リュクスは完璧な「帝の所有物」を演じ続ける。
ルーカスが、唇をほんのわずかに動かして囁いた。
「……皆がお前を見てる」
(分かってる。でも、俺はお前しか見てないよ!)
もちろん、声には出さない。
音楽が始まり、ルーカスの完璧なリードによって、二人は滑らかに踊り出した。
旋回するさなか、ルーカスが再び小さな声を落とす。
「体は大丈夫なの」
(大丈夫なわけないだろ! 今すぐお前に甘えて、マッサージでもしてほしいよ!)
喉まで出かかった本音を、リュクスは冷徹な微笑の下に封じ込めた。
今の彼は、感情を剥ぎ取られた美しい人形だ。
心なしか、ルーカスが腰を支える手に力を込めてくれている気がした。
リュクスの微笑は、溢れ出しそうな感情だけでなく、激しく疼く腰の痛みをも覆い隠している。
(ルーカス、お前だけは……俺のこと、分かってくれるの?)
痛みの最中心の中で切実に問いかけた、その時だった。
ユリウスが、軽く手を挙げた。
曲の途中にもかかわらず二人を制したのだ。
すぐさま従者が駆け寄り、二人を呼び戻す。
ユリウスは近くにいた、期待に瞳を輝かせる美しい令嬢を呼び寄せると、事もなげにルーカスへとあてがった。
「君を独占し続けては、周囲に悪い。この令嬢が君と踊りたがっている。……頼めるか、ルーカス」
「……御意」
ルーカスはリュクスの体から、手を離した。
そして、差し出された令嬢の手を取り、再び喧騒の渦へと戻っていく。
リュクスは一瞬、呆然と立ち尽くした。
自らの腰と指先から温もりが消え、その温度はきっとあの令嬢へ伝わっているのだ。
入れ替わりに侍女がリュクスの側に寄り、踊りでわずかに乱れた肩口が整えられる。
皺が、何事もなかったかのように正された。
ぱた、ぱた、と。全身を整えられる。
忙しなくも控えめな動きだった。
(……本当に、何考えてるんだこのおっさん)
怒りの矛先をユリウスに向けながらも、リュクスの顔にはなお、彫刻のように貼り付いた「完璧な微笑」が浮かんだままだ。
彼はそのまま、鮮やかな手際でリュクスを広間の中心へと誘う。
誰もが息を呑み、二人の姿を凝視した。
軍の正礼装に身を包んだルーカスの体躯は、あまりに隙がなく、見事だった。赤と黒の布地の上からでも分かる、鍛え上げられたバランスの良い筋肉。令嬢たちが彼と踊るために列を作るという噂も、今なら心から納得できる。
(……俺のルーカス、格好良すぎるだろ)
リュクスは内心で惚れ惚れとしていた。
客観的に見れば、皇帝の隣に立ち、この場において誰よりも鮮烈な輝きを放っているのはリュクス自身なのだが、本人にその自覚は一切ない。
そしてその心酔を、彼は微塵も表情には出さなかった。
なぜなら、彼はよくわかっている。
自分を見るユリウスの瞳は、表情筋一本の動きさえ見逃さない。
もしここで失態を演じ、この場所を追い出されれば、またあの「良くない」暮らしで生計を立てる日々に逆戻りだ。
それだけは、死んでも避けなくてはならない。
グローブ越しに伝わるルーカスの手は、驚くほど温かかった。
腰に添えられた掌は優しく、そして大きい。
彼は今の立場を弁えていた。
その大きな手で、優しく腰を撫でて労わってくれるような真似は――それが周囲にどう映るかを理解しているがゆえに――決してしない。
(……さすが、俺の夫……!)
そんな場違いな称賛を心の中で送りながら、リュクスは完璧な「帝の所有物」を演じ続ける。
ルーカスが、唇をほんのわずかに動かして囁いた。
「……皆がお前を見てる」
(分かってる。でも、俺はお前しか見てないよ!)
もちろん、声には出さない。
音楽が始まり、ルーカスの完璧なリードによって、二人は滑らかに踊り出した。
旋回するさなか、ルーカスが再び小さな声を落とす。
「体は大丈夫なの」
(大丈夫なわけないだろ! 今すぐお前に甘えて、マッサージでもしてほしいよ!)
喉まで出かかった本音を、リュクスは冷徹な微笑の下に封じ込めた。
今の彼は、感情を剥ぎ取られた美しい人形だ。
心なしか、ルーカスが腰を支える手に力を込めてくれている気がした。
リュクスの微笑は、溢れ出しそうな感情だけでなく、激しく疼く腰の痛みをも覆い隠している。
(ルーカス、お前だけは……俺のこと、分かってくれるの?)
痛みの最中心の中で切実に問いかけた、その時だった。
ユリウスが、軽く手を挙げた。
曲の途中にもかかわらず二人を制したのだ。
すぐさま従者が駆け寄り、二人を呼び戻す。
ユリウスは近くにいた、期待に瞳を輝かせる美しい令嬢を呼び寄せると、事もなげにルーカスへとあてがった。
「君を独占し続けては、周囲に悪い。この令嬢が君と踊りたがっている。……頼めるか、ルーカス」
「……御意」
ルーカスはリュクスの体から、手を離した。
そして、差し出された令嬢の手を取り、再び喧騒の渦へと戻っていく。
リュクスは一瞬、呆然と立ち尽くした。
自らの腰と指先から温もりが消え、その温度はきっとあの令嬢へ伝わっているのだ。
入れ替わりに侍女がリュクスの側に寄り、踊りでわずかに乱れた肩口が整えられる。
皺が、何事もなかったかのように正された。
ぱた、ぱた、と。全身を整えられる。
忙しなくも控えめな動きだった。
(……本当に、何考えてるんだこのおっさん)
怒りの矛先をユリウスに向けながらも、リュクスの顔にはなお、彫刻のように貼り付いた「完璧な微笑」が浮かんだままだ。
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