帝は傾国の元帥を寵愛する

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3章

65話 屋敷での取引 ※

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五十年の歳月をかけて築き上げてきた伯爵としての矜持も、冷徹なまでの理性も、その少年を前にしては砂の城に等しかった。

エドワードは、激しい高揚に身を震わせていた。それはかつて、幼い日にどうしても欲しかった精巧な玩具――手足が自由に動く、流行りのロボットをようやく買い与えられた時の、あの無邪気で残酷な興奮に似ていた。

馬車が屋敷に滑り込む。エドワードはリュクスを抱えるようにして奥へと連れ帰った。 明るい照明の下で改めて見る少年は、あまりに不釣り合いだった。シャツは清潔で洒落ているデザインだが安物で、靴に至っては底が剥がれかけたボロボロの代物だ。
しかしそれがまた、エドワードを昂らせた。

「……風呂に入れてあげよう」

エドワードの手が、震えながら少年の上着のボタンを外す。一枚、また一枚と布が脱ぎ捨てられ、その白い肌が露わになった瞬間、エドワードは思わず絶句し、一歩後ずさった。

その幼くも妖艶な肢体には、痛々しい折檻の痕が刻まれていたのだ。
透き通るような白磁の肌に走る、鮮血のような赤い筋。
暴力が刻んだその「傷」は、少年の魔性をより一層引き立て、見る者の加害欲を狂おしいほどに煽り立てる。
それはあまりに――あまりに扇情的すぎた。

エドワードは、男として不能だった。 
肉体的な交わりによって欲を晴らす術は、とうの昔に失われている。 だが、止まらなかった。
機能しない肉体とは裏腹に、精神はかつてないほどの熱を帯び、彼を突き動かす。

「ああ……、お前の名は……」
「リュクス」

「リュクス……、リュクス……!」  

エドワードは、裸のリュクスを逃がさぬようその細い腕に閉じ込め、強く、強く抱きしめた。 壊してしまいたいという衝動と、永遠に保存したいという渇望が、白檀の香りと混ざり合って密室を支配する。

エドワードは、その不能という絶望の淵で、少年の身体のすべてを貪るように、執拗に愛し始めた。 
唇で、指先で、そして狂気に染まった眼差しで。
それは性愛というよりも、呪われた宝物を崇める信者の儀式のようでもあった。

リュクスは、その白檀の香りの檻の中で、じっと目をつむっていた。 
自分の身体ひとつが、一人の高貴な大人をこれほどまでに無様に壊していく。その感触を、冷めた頭のどこかで、静かに噛み締めながら。  


狂おしい白檀の香りが立ち込める密室で、リュクスは未知の快楽に喉を震わせた。 エドワードの執拗な指先が、少年の未成熟な蕾を抉るように愛でる。その瞬間、リュクスの内で何かが弾け、初めての「欲」が白いシーツを汚した。

「……あ、っ……」

予期せぬ精通。その純白の証を目にしたエドワードの瞳に、さらなる暗い熱狂が宿る。 彼は不能であったがゆえに、目の前の「魔物」が自分だけの手によって汚され、大人の階段を一歩上ったという事実に、脳が痺れるほどの征服感を得たのだ。

この子は、私だけのものだ。 この魔性の目覚めを知っているのは、世界で私一人だけでいい――。

だが、その神聖な陶酔を、無機質な少年の声が切り裂いた。

「ね、金は?」

氷水を浴びせられたように、エドワードは我に返った。 夢から覚めた伯爵の前にいたのは、事の重大さなど微塵も理解していない、裸の子供だった。

「あ……ああ、そうだったね。金、金か……」

エドワードの思考が、伯爵としての冷徹な計算回路へと切り替わる。 金を渡せば、リュクスは服を着て、靴を履き、この屋敷から出ていってしまう。それだけは、絶対に避けなければならない。

「……いくら、必要なんだ?」

「親の治療費。百五十万リュートルいるんだけど」

リュクスはシーツを体に巻き、あどけない顔で首を傾げた。

「何回やればいい? おじさん、そんなにお金ある?」

エドワードは眩暈を覚えた。 あまりに法外な要求。
そして、あまりに無知で残酷な問いかけ。 
百五十万リュートルという額は、伯爵である彼にとって決して払えない額ではない。
しかし、エドワードの本性は、甘いだけの愛好家ではなく、狡猾な投資家でもあった。

(百五十万をポンと渡し、親の病を治させて『はい、さようなら』か? ……そんな無益な慈善事業に、私の欲望が納得するはずがない)

どうすれば、この魔物をこの檻に繋ぎ止められるか。
どうすれば、百五十万という負債を、この少年に永遠に背負わせることができるか。 
エドワードの脳裏に、黒い計略が渦を巻く。

「……あるよ、リュクス。百五十万など、私にとっては瑣末な額だ」

エドワードは、ねっとりとした笑みを浮かべ、少年の頬を撫でた。

「だが、一度に払うのは面白くない。君の言う通り、回数……いや、期間を決めよう。君が私の傍にいてくれる間、その治療費を私が肩代わりしてあげようじゃないか。……君の親が、一日でも長く『生き延びる』ようにね」

それは、延命という名の、終わりのない監禁宣告だった。  
  
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