帝は傾国の元帥を寵愛する

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3章

72話 涙 ※

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部屋に戻ったリュクスは、逃げ込むようにベッドへと腰を下ろした。
袖口で乱暴に涙を拭い、ぼやけた視界で部屋を見渡す。
ここにある自分のものなんて、ほんの少ししかない。
いっそ荷物をまとめてしまった方がいいのかもしれない、と頭をよぎる。
だが、指一本動かす気力すら湧かなかった。
リュクスは靴を放り出して、布団の中にもぐりこんで小さく丸まる。
何も考えまいとしても、瞼の裏にはルーカスの絶望した顔が焼き付いて離れず、涙だけがとめどなく溢れ出した。
その時だった。
一息つく暇もなく、自室の鍵を回す音がした。
カチャリ、と無機質な金属音が響き、ドアノブが回される。

声には出さずとも、誰が入ってきたのかは痛いほど分かっていた。
リュクスは布団の中で丸まったまま、息を殺して耳を澄ます。
……鍵を返しに来たのかもしれない。

だが足音は躊躇いなく近づき、ベッドのそばで止まった。
そして、布団の上から、リュクスの体の丸みを確かめるように大きな手が置かれた。

ゆっくりと布団が剥がされる。
露わになった体。リュクスは咄嗟に腕で顔を覆い、泣き顔を隠す。

「……何で泣くの」

問いかける声は震えていた。
それは怒りなのか悲しみなのか、リュクスには判断できなかった。

ルーカスはベッドに乗り上げると、リュクスの上にのしかかり、逃げ場を塞ぐように両手を顔の横についた。

「……デカいのを、試してみたかったんだろ」

先ほどリュクスが吐いた嘘を、ルーカスは呪詛のように繰り返す。

「まだ1回しかしてない。……足りないでしょ」

言葉は刃物のように鋭いが、リュクスの心を傷つけるには足りない。
ルーカスは頑なに顔を覆う手の隙間を縫うように、額に口付け、頬や首筋へ次々にキスを降らせていく。
リュクスのシャツ肌蹴させ、露わになった肩や胸にも口付ける。慈しむように、優しく。

さらに下へと唇を這わせていく。

腰元から下腹、その下にあるリュクスのものは、萎縮し、昂ってなどいなかった。

「……見る、な」
リュクスが声を絞り出す。

だがルーカスは厭うことなく、その柔らかい部分を唇で含んだ。
本来、男が好きなわけではないルーカスが、リュクスのそこをすべて口に含んで愛でる。
そうしながら、薔薇の香りのオイルを器用に取り出して塗りつけ、口唇で先を喰んだまま指で優しく撫で上げると、リュクスの自身は呼応するように熱を持ち、少しずつ立ち上がり始めた。
ルーカスは自身のスラックスを脱ぎ捨てると、腰をすりつけた。

「リュクス……」

そして頑なに顔ーーー目のあたりを隠しているリュクスの腕を掴んで拘束を解き、その顔を正面から覗き込んだ。
リュクスはぎゅっと目を閉じているが、頬はびしょびしょに濡れている。

「……」

言葉はない。
リュクスがゆっくりと目を開けると、
瞳だけがお互いを射抜くように見つめ合う。
その時、リュクスは息を呑む。

ルーカスが——泣いていたからだ。
ポタ、とリュクスの頬に、熱い滴が落ちる。
リュクス自身の涙で視界が歪む中、頬を伝うそれがどちらの涙なのか、もう分からなかった。

ルーカスは自身の熱をリュクスの後穴へとあてがった。
だが、彼自身もまた、激情と悲哀で心が乱れ、十分な硬度を持てずにいた。

ルーカスは必死で、オイルのついた手で自らを慰め、奮い立たせる。
その間も、リュクスの唇に何度も確かめるように唇を重ねた。

ようやく挿入に耐えうる固さを得ると、ルーカスはリュクスの中へと少しずつ入り込んでいく。

「あ……っ」

リュクスが苦しげに声を上げた。

「我慢して」

ルーカスは一番奥までその身を沈めた。

……ーー。

そして——次の瞬間に、ルーカスは全てを悟った。
言葉は嘘をつける。態度は偽れる。
だが、体は正直だ。

ルーカスという男は、本質的に雄として優れている。
その鋭敏な感覚が、リュクスの内壁が告げるひとつの真実を読み取っていた。

自分と愛し合ってから——この場所は、他の誰の侵入も許していない。

あの時のまま、自分だけを受け入れている。

「あ、ああ……っ」

リュクスの甘い喘ぎ声が静寂に響く。
ルーカスはもう止まらなかった。
言葉などいらない。この体こそが真実だ。
リュクスは、何があったとしても自分のものだ。
その確信だけが、涙の味と共に二人の間を満たしていく。

擦れる粘膜が熱を持って悲鳴を上げる。
絶望で冷え切っていた腹の底に、ルーカスの熱い楔が何度も打ち込まれる。
その熱だけが、お互いが生きている証だった。

「あ、ぁ……ッ、ルー、兄……ッ!」

リュクスに呼ばれるとルーカスは愛おしさと、腹立たしさ、悲しみ、あらゆる感情が快楽に包まれて押し寄せる。
嘘も本当もわからない。もう、言葉にならない。
ただ、繋がっている部分から溶け出した熱が、脊髄を駆け上がり、脳を焼き切っていく。
昂っていなかったはずのリュクスのものも、いつの間にか痛いほど張り詰め、蜜を溢れさせている。
しがみつくように、リュクスはルーカスの背中に爪を立てた。
ルーカスは律動を緩めず、しかし深く、深く抉るように繰り返し腰を沈める。

リュクスの内壁が痙攣するたび、ルーカス自身の先端も熱く脈打ち、互いの粘膜が吸い付く音だけが部屋に響く。

「リュクス……」

ルーカスが名前を呼びながら、リュクスの弱い部分を擦り上げていくと、
「あ…ぁあ……‼︎」と言葉にならない声が漏れ、ついにびくん、とリュクスの体が跳ねた。

先端から白濁が零れ、腹に、胸に、ルーカスの肌にまで飛び散った。
脈打つたびに、新たな滴がこぼれ落ちる。
ルーカスは動きを止めた。
いや、止めたわけではない。
ただ、リュクスのそこから零れる白い雫を、じっと見つめていた。

熱く、濡れた先端。
まだ震えながら、ぽたり、ぽたりと零れ続ける白濁。

それはまるで、リュクスがこれ以上隠しきれなかった本心そのもののように、腹に落ちては広がっていく。

「……っ」
ルーカスが小さく息を呑む。
(やっと……)
ルーカスは無意識にそう思っていた。
この白い滴が、嘘でも演技でもない、生の証であることを。
リュクスの体が、言葉ではなく本能で自分を選び、自分を欲していることを。

辛い舞踏会を越えて、やっと、自分の存在が確かに肯定された気がした。

その確信が、ルーカスをさらに深く突き動かす。
まだ収まらない熱を、リュクスの最奥に叩きつけるように腰を打ちつけながら、
ルーカスはリュクスの耳朶に唇を押し当て、囁いた。

「——お前は、俺の」
声は震え、涙はまだ乾いていない。

けれどその言葉は、もう刃ではなく、熱い鎖のように、あるいはただの抱擁のようにリュクスを包む。
ルーカスは続けた。

「俺のがいい……」

リュクスは返事ができず、ただ、零れ続ける粘液と共に、
嗚咽とも喘ぎともつかない声を、ルーカスの肩に押し付けるようにして漏らすだけだった。






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