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(ローラン視点)
鏡台を日向へ移して、正解だった。
光に細かい埃が舞って見えるたびに、君の視線がふっと柔らかくなる。
観測表。可愛い。分度器。可愛い。
君は、怖いくらい合理的で、怖いくらい優しい。
「午後は王宮に行くんだよね、資料の確認」
「はい。香草税率の改定案です。あなたのプレゼン、最終確認を」
「頼りにしてる」
僕はもう一度鏡を見て、前髪の角度を指でなぞった。
そこに触れる君の指の感触が、指先に残っている。
情けない話だけど、僕は時々思う。
——この“理想の見た目”が、君に選ばれる根拠のように錯覚してしまうことがある。
その錯覚を、君の「可愛いですね」はいつも別の方向へ連れていく。
「ローラン様」
「うん?」
「あなたは、可愛いだけではありません。信頼できる、が一緒にあります」
「……!」
胸の奥に、柔らかく重く、何かが落ちた。
“信頼できる”。
僕は、その言葉で、自分の姿勢をもう一度立て直す。
可愛いの最大値は、いつか君に書いてほしい——そう思っていたけど、いまは少し違う。
僕自身が、自分の可愛いとまっすぐ握手できるようになりたい。
「自己申告欄、今日の分も?」
観測表を差し出され、僕は笑って頷く。
ペン先が震えないように、深呼吸してから、書く。
( かなり可愛い )
「飛躍ですね」
「日向が背中を押してくれた」
「良性の飛躍です」
君がうなずく。
日向で増えるのは、可愛いだけじゃない。僕の中の“信頼”も、増える。
*
王宮の文官控えの間。
僕は本題の前に、声帯を軽く整え、資料の角をそろえた。
イリスは隣で紙をめくり、要点を三行で確認する。そのやり方が好きだ。
(いつか僕も、君みたいに、簡潔で、やさしくて、迷わない人に——)
扉が開き、小会議室へ。
税務長が眉を上げる。「例の輸送箱と香草の件、実地のデータが出たそうだな」
「はい。内張りに蜜蝋を用いた実験で、香りの飛びは三割減、品質評価のぶれは許容範囲内です」
イリスが短く述べる。
その後を受けて、僕は配布資料を示しながら、流通コストとの最適化、香草輸出のブランド価値——必要な言葉を必要なだけ並べる。
鏡台前で整えた前髪は持ちこたえ、香りの層は気持ちを落ち着かせ、何より、イリスの“横顔の頷き”が、僕の背中を支える。
「以上だ。導入テストの予算を……」
議論が進み、結論が出る。
会議室を出たところで、僕は小さく息を吐いた。
イリスが観測表の端に、さらさらと文字を書く。
「“公務後の表情:安堵+1”。お疲れさまでした」
「ありがとう。君の三行がなかったら、蛇足を足してた」
「蛇足は除去対象です。生活に使える指標に、余計は不要」
「うん。学ぶ」
“俺も君みたいになりたい”は、喉の奥まで来て、今日はまだ出さない。
代わりに、別の言葉を選ぶ。
「イリス、君は今日も、とても可愛い」
「事実です」
即答に、笑いがこぼれる。
彼女の頬が、日向の影のように柔らかく色づいた。
鏡台を日向へ移して、正解だった。
光に細かい埃が舞って見えるたびに、君の視線がふっと柔らかくなる。
観測表。可愛い。分度器。可愛い。
君は、怖いくらい合理的で、怖いくらい優しい。
「午後は王宮に行くんだよね、資料の確認」
「はい。香草税率の改定案です。あなたのプレゼン、最終確認を」
「頼りにしてる」
僕はもう一度鏡を見て、前髪の角度を指でなぞった。
そこに触れる君の指の感触が、指先に残っている。
情けない話だけど、僕は時々思う。
——この“理想の見た目”が、君に選ばれる根拠のように錯覚してしまうことがある。
その錯覚を、君の「可愛いですね」はいつも別の方向へ連れていく。
「ローラン様」
「うん?」
「あなたは、可愛いだけではありません。信頼できる、が一緒にあります」
「……!」
胸の奥に、柔らかく重く、何かが落ちた。
“信頼できる”。
僕は、その言葉で、自分の姿勢をもう一度立て直す。
可愛いの最大値は、いつか君に書いてほしい——そう思っていたけど、いまは少し違う。
僕自身が、自分の可愛いとまっすぐ握手できるようになりたい。
「自己申告欄、今日の分も?」
観測表を差し出され、僕は笑って頷く。
ペン先が震えないように、深呼吸してから、書く。
( かなり可愛い )
「飛躍ですね」
「日向が背中を押してくれた」
「良性の飛躍です」
君がうなずく。
日向で増えるのは、可愛いだけじゃない。僕の中の“信頼”も、増える。
*
王宮の文官控えの間。
僕は本題の前に、声帯を軽く整え、資料の角をそろえた。
イリスは隣で紙をめくり、要点を三行で確認する。そのやり方が好きだ。
(いつか僕も、君みたいに、簡潔で、やさしくて、迷わない人に——)
扉が開き、小会議室へ。
税務長が眉を上げる。「例の輸送箱と香草の件、実地のデータが出たそうだな」
「はい。内張りに蜜蝋を用いた実験で、香りの飛びは三割減、品質評価のぶれは許容範囲内です」
イリスが短く述べる。
その後を受けて、僕は配布資料を示しながら、流通コストとの最適化、香草輸出のブランド価値——必要な言葉を必要なだけ並べる。
鏡台前で整えた前髪は持ちこたえ、香りの層は気持ちを落ち着かせ、何より、イリスの“横顔の頷き”が、僕の背中を支える。
「以上だ。導入テストの予算を……」
議論が進み、結論が出る。
会議室を出たところで、僕は小さく息を吐いた。
イリスが観測表の端に、さらさらと文字を書く。
「“公務後の表情:安堵+1”。お疲れさまでした」
「ありがとう。君の三行がなかったら、蛇足を足してた」
「蛇足は除去対象です。生活に使える指標に、余計は不要」
「うん。学ぶ」
“俺も君みたいになりたい”は、喉の奥まで来て、今日はまだ出さない。
代わりに、別の言葉を選ぶ。
「イリス、君は今日も、とても可愛い」
「事実です」
即答に、笑いがこぼれる。
彼女の頬が、日向の影のように柔らかく色づいた。
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