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第七話 憧れの告白
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(イリス視点)
学会の一週間前。
研究室の隣室——日向の控え室に、演題練習セットを並べた。
・三行オープニング(「背景」「方法」「結果」各一行)
・質疑応答カード(予想質問×十、答えを三行で)
・タイムキーパー鈴(ちりん)
・水分補給(蜂蜜控えめ)
・安心メーター(色ビーズ)
「準備が……可愛いね」
扉のところでローラン様が笑った。
鏡台前で“出陣角度”に整えた前髪が、完璧だ。
「可愛いですね」
「急所……でも今日は効いても平気」
彼は胸に手を当て、小さく深呼吸してから、星刺繍のカード束を持った。
「司会役、やる。君の強さを生活に使える形で引き出す」
「お願いします」
タイムキーパー鈴が、ちりん。
わたしは三行で口を開いた。「本研究は、香草輸送における香り保持の問題に対し——」
彼は頷き、カードを一枚めくる。「方法の工夫を、一言で?」
「“蜜蝋の薄い手袋で香りを守る”です」
「良い。短い、やさしい、迷わない」
(※観測:声の安定=A↑、彼の褒め=C↑)
質疑応答まで通しで終えたところで、ローラン様がカードを握ったまま、目を伏せた。
前髪の影が睫毛に落ちる。乙女心の予兆。
「……イリス」
「はい」
「僕、君みたいになりたい」
(来た)
けれど今回の“なりたい”は、昨日までと少し違う重みを持って落ちてくる。
「君みたいに、戻ると決めて待てる人に。
君みたいに、測れるところは測って、最後は選べる人に。
君みたいに、事実をまっすぐ言って、隣を続けられる人に」
胸の前で、色ビーズがひとつ転がって、ちり、と鳴った。
(※観測:わたしのA↑、C↑、R——点灯)
「それを、世間では憧れって言うんだと思ってた。
でも、君がいると、僕が僕でいられる。
……それを、恋と呼ぶらしい」
タイムキーパー鈴が、風に揺れて小さく鳴った。
わたしは三行で答える練習を、いったんやめた。
「観測ではなく、受領します」
「受領……?」
「あなたの“憧れの告白”を、受け取りました。
そして、返送します」
「返送?」
「はい。わたしも、あなたみたいになりたい」
言いながら、自分で驚く。
「わたしは現実主義で、怖いときは“測る”に逃げがち。
でもあなたは、誰かの役に立てる可愛いを迷わず選ぶ。
そのやさしさに、わたしは憧れて、恋の近似値を持ちました」
彼の耳がゆっくり赤くなる。(良性)
わたしは日常三式をひとつ実施した。「声」——
「今日のあなたの良かったところ。
“カードを握ったまま、言葉を落とさなかったところ”。
“わたしの言葉を受領と呼んで笑ってくれたところ”。
“恋、という不確かを事実に変えたところ”。」
「……っ」
「二つ目、“触”。手をどうぞ」
十秒。
手の温度が、式のどれでもない場所でひだまりを押し上げる。
「三つ目、“座”。五分だけ、並びます」
ちいさく頷いた彼が、ベンチの端を叩く。
二人で腰を下ろすと、控え室の窓から花粉が舞い、タイムキーパー鈴がもう一度、ちりんと鳴った。
学会の一週間前。
研究室の隣室——日向の控え室に、演題練習セットを並べた。
・三行オープニング(「背景」「方法」「結果」各一行)
・質疑応答カード(予想質問×十、答えを三行で)
・タイムキーパー鈴(ちりん)
・水分補給(蜂蜜控えめ)
・安心メーター(色ビーズ)
「準備が……可愛いね」
扉のところでローラン様が笑った。
鏡台前で“出陣角度”に整えた前髪が、完璧だ。
「可愛いですね」
「急所……でも今日は効いても平気」
彼は胸に手を当て、小さく深呼吸してから、星刺繍のカード束を持った。
「司会役、やる。君の強さを生活に使える形で引き出す」
「お願いします」
タイムキーパー鈴が、ちりん。
わたしは三行で口を開いた。「本研究は、香草輸送における香り保持の問題に対し——」
彼は頷き、カードを一枚めくる。「方法の工夫を、一言で?」
「“蜜蝋の薄い手袋で香りを守る”です」
「良い。短い、やさしい、迷わない」
(※観測:声の安定=A↑、彼の褒め=C↑)
質疑応答まで通しで終えたところで、ローラン様がカードを握ったまま、目を伏せた。
前髪の影が睫毛に落ちる。乙女心の予兆。
「……イリス」
「はい」
「僕、君みたいになりたい」
(来た)
けれど今回の“なりたい”は、昨日までと少し違う重みを持って落ちてくる。
「君みたいに、戻ると決めて待てる人に。
君みたいに、測れるところは測って、最後は選べる人に。
君みたいに、事実をまっすぐ言って、隣を続けられる人に」
胸の前で、色ビーズがひとつ転がって、ちり、と鳴った。
(※観測:わたしのA↑、C↑、R——点灯)
「それを、世間では憧れって言うんだと思ってた。
でも、君がいると、僕が僕でいられる。
……それを、恋と呼ぶらしい」
タイムキーパー鈴が、風に揺れて小さく鳴った。
わたしは三行で答える練習を、いったんやめた。
「観測ではなく、受領します」
「受領……?」
「あなたの“憧れの告白”を、受け取りました。
そして、返送します」
「返送?」
「はい。わたしも、あなたみたいになりたい」
言いながら、自分で驚く。
「わたしは現実主義で、怖いときは“測る”に逃げがち。
でもあなたは、誰かの役に立てる可愛いを迷わず選ぶ。
そのやさしさに、わたしは憧れて、恋の近似値を持ちました」
彼の耳がゆっくり赤くなる。(良性)
わたしは日常三式をひとつ実施した。「声」——
「今日のあなたの良かったところ。
“カードを握ったまま、言葉を落とさなかったところ”。
“わたしの言葉を受領と呼んで笑ってくれたところ”。
“恋、という不確かを事実に変えたところ”。」
「……っ」
「二つ目、“触”。手をどうぞ」
十秒。
手の温度が、式のどれでもない場所でひだまりを押し上げる。
「三つ目、“座”。五分だけ、並びます」
ちいさく頷いた彼が、ベンチの端を叩く。
二人で腰を下ろすと、控え室の窓から花粉が舞い、タイムキーパー鈴がもう一度、ちりんと鳴った。
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