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「な、んで! 変化は完璧なはず!」

畳に転がされたまま叫ぶ様子は滑稽を通り越して憐れですらある。
壱成ははぁーと重たいため息をつく。
やれやれ、と頭を振るのも忘れない。

「どこが完璧だよ」

「う、だ、だって、見た目は完全にあの女だったでしょう!?」

その言い訳がましい話し方を聞けば少し幼い感じがする。

「胸の大きさが違うだろ」

壱成はきっぱりはっきりと言ってやる。あれで完璧なんておこがましすぎる。すべてのディテールを完全に再現してから言える言葉だからな、完璧というのは。
骨だって全然ちがうしな。

「え!?」

楓もどきは驚いて自分の胸を確認している。

「……いや、このぐらいだったはず。確認したもん、お風呂の時……」

やはり幼さの残る話し方だ。変化というからには元の姿があるんだろう。
壱成よりも幼なそうだ。

「俺が育てたんだから、わからないわけがない」

壱成は曇なき眼で言い切る。
俺が揉んで育てたようなものだから、などと言ってドヤ顔している。

「えぇ…?」

楓の顔でドン引きされるとなんか心にグサグサ来る。これが本物の楓なら顔を赤くした楓に「バカ!」っと一発いや、十発ぐらいは食うところだろう。
楓は時代錯誤の暴力ヒロインみたいなところがある。
まぁそれがかわいいんだけど!

「さて、とホンモノはどこかな?」

どうも口をつぐんで楓のいる場所を言わないので、仕方なく壱成は部屋の中を調べる。
とはいえ布団ごと移動しているのなら、押し入れぐらいにしかそんなスペースはない。
一応部屋の隅から隅まで調べてから、やっぱりこの部屋にはいないよな、と諦める。

部屋の外か……
旅館という構造上、部屋はたくさんある。
一つ一つ調べていくのも手間だが、楓のことが心配だ。一人で別の場所に監禁されてるのなら、さぞ心細いことだろう。
ああ見えて怖いのとか苦手だからな、楓は。

時間はかかりそうだけれど、それしかない。

壱成は楓もどきを縛った縄を持ち、犬の散歩のごとく部屋の外は繰り出した。
もちろんもどきは、手足が動かせないためそのままひきずられることになる。

「長いお散歩のはじまりだな……」

壱成は縄を引っ張る。
見た目ほど重さがない。
ずるずると床を引き摺り、まずは近場の宴会場でも確認するかと廊下を歩く。

「イヤ! 痛い! やめて!」

何時間も引き摺り回す事もなかった。
ものの数秒でもどきは悲痛な声を上げた。
なんだよ、根性の足りないやつだな。

「んじゃ、楓が今どこにいるのかちゃんと教えてくれるよな?」
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