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ケモノはシーツの上で啼く Ⅰ
15.朱貴との再会
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朱貴は傍にあったイスを引き寄せると、すとんと座った。柴尾にも、近くのイスを勧める。
志狼を待たせていることが気になったが、朱貴ともう少し話をしたい気持ちもあり、少しだけと腰を下ろした。
「この前一緒にいたのは、朱貴の恋人では? 恋人がいるのに、そんなこと言っていいのか?」
出会った時、朱貴の傍に立っていた朱貴より年上の無口な男を思い出す。二人は、キスをしていたのだ。
朱貴は苦い笑みを浮かべ、頭を掻いた。
「あいつとは、そういうんじゃないっていうか……。まあ、うん……少なくとも今は違うかな」
元気いっぱいだった朱貴が、少し違う表情を見せる。
「やることやってんのに、ダセーよな。人にはあれこれ言っといて」
「……もしかして、朱貴も」
「思ってても言うなっ。俺は、恋愛相談とかする気ねーから!」
うっかり言ってしまってるけど、と言いそうになったが、朱貴も照れているのだと思い止めておくことにした。
それより、と朱貴が話題を変えた。
「柴尾の好きな相手は、どんな奴なんだ?」
思わず、耳がピンと立つ。斎賀のことを訊ねられたからだ。
「聞いてくれるのか?」
嬉しくて、柴尾は顔を綻ばせた。
斎賀は好きな人であると同時に、自慢のボスだ。
自分の好きな人がどんなに素敵な人か、好きにならずにいられないかを、きっと柴尾は話したかったのだ。
「斎賀様は、僕より十三歳年上の方で……」
「十三!?」
予想外の年齢差に、朱貴は声を大きくした。
「柴尾って何歳?」
二十三だと答えると、朱貴はますます驚きの表情になった。分かり切っていることを確認せずにはいられないかのように、両手の指を折り始める。
「言っちゃ悪いけど、結構おっさんじゃねーか」
「全然違う!」
あまりの柴尾の返答の速さに驚き、朱貴はイスの上で小さく体を跳ねさせた。
「斎賀様はとても綺麗で凛々しくて、そのへんの男と一緒になんてできないよ。でも、それだけじゃない。魔法の才能もあるし、かっこいいし、僕らの面倒を見て下さってるとても慈悲深い方で、非の打ち所がないお方だ。理知的で全然動じないところも見習いたいくらいで、僕はああいう大人に憧れてる。ちなみに斎賀様は銀髪で尾も髪も美しくて、どうしてあんなに全てが整った男性がいるんだって……」
「ちょっと待って。それまだ続く?」
まだ最後まで説明していないのに、朱貴に中断される。
柴尾は頷いた。
「……とにかく惚れ込んでるってこた分かったからもういい」
朱貴は溜め息をつく。
「まあ、恋は盲目って言うからなー」
「誰が見てもそうなんだよ。町じゃ皆振り返るんだから」
信じてもらえなかったのが残念だ。朱貴も、斎賀を見れば分かるのに。
「じゃあさ。名案思いついた」
にっと朱貴が笑った。
何を思いついたのかと、柴尾は期待する。
「その人、慈悲深いんだろ。健気系ワンコで迫りなよ。ぜってー絆されるって!」
自信ありげに、朱貴が両腕を前で組んだ。
「ワ、ワンコって何だよ」
「だって柴尾、黒い毛並みの大型ワンコって感じだし」
「動物と一緒にしないでくれよ。犬科だけど、獣人なんだから」
獣人はヒト族なのだから。そこはこだわりを持っている。
「今度また犬と同じ扱いしたら、怒るからな」
「わりぃわりぃ」
あまり悪いと思っていなさそうな態度で、朱貴が笑った。
屈託なく笑う朱貴を見て、ふと志狼を思い出した。
少しタイプは違うが、朱貴と志狼は似ている。
二人を会わせたら楽しくなりそうだ。
いつか紹介しようかと、柴尾はつられるように笑った。
ただ、その場合、男同士でのあれこれは口を滑らさないよう、朱貴に注意しておかなければならないけれど―――。
志狼を待たせていることが気になったが、朱貴ともう少し話をしたい気持ちもあり、少しだけと腰を下ろした。
「この前一緒にいたのは、朱貴の恋人では? 恋人がいるのに、そんなこと言っていいのか?」
出会った時、朱貴の傍に立っていた朱貴より年上の無口な男を思い出す。二人は、キスをしていたのだ。
朱貴は苦い笑みを浮かべ、頭を掻いた。
「あいつとは、そういうんじゃないっていうか……。まあ、うん……少なくとも今は違うかな」
元気いっぱいだった朱貴が、少し違う表情を見せる。
「やることやってんのに、ダセーよな。人にはあれこれ言っといて」
「……もしかして、朱貴も」
「思ってても言うなっ。俺は、恋愛相談とかする気ねーから!」
うっかり言ってしまってるけど、と言いそうになったが、朱貴も照れているのだと思い止めておくことにした。
それより、と朱貴が話題を変えた。
「柴尾の好きな相手は、どんな奴なんだ?」
思わず、耳がピンと立つ。斎賀のことを訊ねられたからだ。
「聞いてくれるのか?」
嬉しくて、柴尾は顔を綻ばせた。
斎賀は好きな人であると同時に、自慢のボスだ。
自分の好きな人がどんなに素敵な人か、好きにならずにいられないかを、きっと柴尾は話したかったのだ。
「斎賀様は、僕より十三歳年上の方で……」
「十三!?」
予想外の年齢差に、朱貴は声を大きくした。
「柴尾って何歳?」
二十三だと答えると、朱貴はますます驚きの表情になった。分かり切っていることを確認せずにはいられないかのように、両手の指を折り始める。
「言っちゃ悪いけど、結構おっさんじゃねーか」
「全然違う!」
あまりの柴尾の返答の速さに驚き、朱貴はイスの上で小さく体を跳ねさせた。
「斎賀様はとても綺麗で凛々しくて、そのへんの男と一緒になんてできないよ。でも、それだけじゃない。魔法の才能もあるし、かっこいいし、僕らの面倒を見て下さってるとても慈悲深い方で、非の打ち所がないお方だ。理知的で全然動じないところも見習いたいくらいで、僕はああいう大人に憧れてる。ちなみに斎賀様は銀髪で尾も髪も美しくて、どうしてあんなに全てが整った男性がいるんだって……」
「ちょっと待って。それまだ続く?」
まだ最後まで説明していないのに、朱貴に中断される。
柴尾は頷いた。
「……とにかく惚れ込んでるってこた分かったからもういい」
朱貴は溜め息をつく。
「まあ、恋は盲目って言うからなー」
「誰が見てもそうなんだよ。町じゃ皆振り返るんだから」
信じてもらえなかったのが残念だ。朱貴も、斎賀を見れば分かるのに。
「じゃあさ。名案思いついた」
にっと朱貴が笑った。
何を思いついたのかと、柴尾は期待する。
「その人、慈悲深いんだろ。健気系ワンコで迫りなよ。ぜってー絆されるって!」
自信ありげに、朱貴が両腕を前で組んだ。
「ワ、ワンコって何だよ」
「だって柴尾、黒い毛並みの大型ワンコって感じだし」
「動物と一緒にしないでくれよ。犬科だけど、獣人なんだから」
獣人はヒト族なのだから。そこはこだわりを持っている。
「今度また犬と同じ扱いしたら、怒るからな」
「わりぃわりぃ」
あまり悪いと思っていなさそうな態度で、朱貴が笑った。
屈託なく笑う朱貴を見て、ふと志狼を思い出した。
少しタイプは違うが、朱貴と志狼は似ている。
二人を会わせたら楽しくなりそうだ。
いつか紹介しようかと、柴尾はつられるように笑った。
ただ、その場合、男同士でのあれこれは口を滑らさないよう、朱貴に注意しておかなければならないけれど―――。
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