2 / 30
さすらうもの
しおりを挟む
誰もが知る街の、誰もが知る道を、誰かが歩く。
大勢の人々が、誰も知らない人たちが、行きかう道。
そこを歩く自分もまだ大勢の一人であり、誰一人として知らない大勢の中に埋没する誰かだ。でもいつかは――その大勢の中の一人ではなくなる日が来るのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、人ごみの中を歩いていた。
そして、ふと気付く。
自分が今歩いている通りには、見覚えがあった。
かつて自分はこの街に住んでいたのだ。
だから知っている。この通りも、この景色も、よく知っていた。
だけど同時に、違和感を覚えた。
それは街並みに対する違和感ではない。街並みそのものは変わっていない。懐かしい記憶のままに存在している。
だが何かが違う。
それは何なのか、と考えるまでもなくすぐに分かった。
自分だ。
自分が変わっているからだ。昔はこの通りの景色が好きだったし、いつもここを通って学校に行っていた。学校から帰る時も、友達と一緒に遊んだ帰りもこの通りを通っていた。
けれど今はもう違う。
ここは自分の街ではなく、通うべき学校は変わってしまった。
それでもなお変わらないものがあるとすれば、それはきっと今の自分自身なのだろう。
そして、だからこそ分かる。
この道には、思い出がある。
あの時はただ当たり前のように通っていて気付かなかったけど、そこには大切な想い出があって、かけがえのない時間があったのだ。
それを今になって思い知らされる。
そう思うと同時に、足を止めていた。
思い出? 友達? それはいつだ? 友達とは誰だ? 自分にそんな存在がいただろうか。
いるはずがない。だってもう何年も会っていない。
それなのにどうして、こんなにも懐かしく思えるのか。
どうして忘れてしまっていたのか。
そんなことを考えて立ち尽くしていると、不意に声をかけられた。
顔を上げると、そこにいたのは一人の男。スーツを着たサラリーマン風の男で、年齢は二十代後半くらいだろうか。眼鏡をかけていて、優しげな雰囲気を持った人だった。
男はこちらを見て微笑み、こう言った。
――やあ。久しぶりだね。
それが誰なのかはすぐに分かった。
分かって当然だ。彼は昔の知り合いなのだから。
だけど、なぜ彼がここに? 疑問に思っている間にも、彼の言葉は続く。
――どうしたんだい、急に立ち止まって。僕の顔に何かついてるかな?
言われてから、自分がずっと彼を凝視していたことに気付いた。
慌てて視線を外す。それから少しだけ考えて、ようやく口を開いた。
「ごめんなさい……人違いです」
大勢の人々が、誰も知らない人たちが、行きかう道。
そこを歩く自分もまだ大勢の一人であり、誰一人として知らない大勢の中に埋没する誰かだ。でもいつかは――その大勢の中の一人ではなくなる日が来るのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、人ごみの中を歩いていた。
そして、ふと気付く。
自分が今歩いている通りには、見覚えがあった。
かつて自分はこの街に住んでいたのだ。
だから知っている。この通りも、この景色も、よく知っていた。
だけど同時に、違和感を覚えた。
それは街並みに対する違和感ではない。街並みそのものは変わっていない。懐かしい記憶のままに存在している。
だが何かが違う。
それは何なのか、と考えるまでもなくすぐに分かった。
自分だ。
自分が変わっているからだ。昔はこの通りの景色が好きだったし、いつもここを通って学校に行っていた。学校から帰る時も、友達と一緒に遊んだ帰りもこの通りを通っていた。
けれど今はもう違う。
ここは自分の街ではなく、通うべき学校は変わってしまった。
それでもなお変わらないものがあるとすれば、それはきっと今の自分自身なのだろう。
そして、だからこそ分かる。
この道には、思い出がある。
あの時はただ当たり前のように通っていて気付かなかったけど、そこには大切な想い出があって、かけがえのない時間があったのだ。
それを今になって思い知らされる。
そう思うと同時に、足を止めていた。
思い出? 友達? それはいつだ? 友達とは誰だ? 自分にそんな存在がいただろうか。
いるはずがない。だってもう何年も会っていない。
それなのにどうして、こんなにも懐かしく思えるのか。
どうして忘れてしまっていたのか。
そんなことを考えて立ち尽くしていると、不意に声をかけられた。
顔を上げると、そこにいたのは一人の男。スーツを着たサラリーマン風の男で、年齢は二十代後半くらいだろうか。眼鏡をかけていて、優しげな雰囲気を持った人だった。
男はこちらを見て微笑み、こう言った。
――やあ。久しぶりだね。
それが誰なのかはすぐに分かった。
分かって当然だ。彼は昔の知り合いなのだから。
だけど、なぜ彼がここに? 疑問に思っている間にも、彼の言葉は続く。
――どうしたんだい、急に立ち止まって。僕の顔に何かついてるかな?
言われてから、自分がずっと彼を凝視していたことに気付いた。
慌てて視線を外す。それから少しだけ考えて、ようやく口を開いた。
「ごめんなさい……人違いです」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる