とある雑多な思考錯語

工事帽

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さすらうもの

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誰もが知る街の、誰もが知る道を、誰かが歩く。
大勢の人々が、誰も知らない人たちが、行きかう道。
そこを歩く自分もまだ大勢の一人であり、誰一人として知らない大勢の中に埋没する誰かだ。でもいつかは――その大勢の中の一人ではなくなる日が来るのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、人ごみの中を歩いていた。
そして、ふと気付く。
自分が今歩いている通りには、見覚えがあった。
かつて自分はこの街に住んでいたのだ。
だから知っている。この通りも、この景色も、よく知っていた。
だけど同時に、違和感を覚えた。
それは街並みに対する違和感ではない。街並みそのものは変わっていない。懐かしい記憶のままに存在している。
だが何かが違う。
それは何なのか、と考えるまでもなくすぐに分かった。
自分だ。
自分が変わっているからだ。昔はこの通りの景色が好きだったし、いつもここを通って学校に行っていた。学校から帰る時も、友達と一緒に遊んだ帰りもこの通りを通っていた。
けれど今はもう違う。
ここは自分の街ではなく、通うべき学校は変わってしまった。
それでもなお変わらないものがあるとすれば、それはきっと今の自分自身なのだろう。
そして、だからこそ分かる。
この道には、思い出がある。
あの時はただ当たり前のように通っていて気付かなかったけど、そこには大切な想い出があって、かけがえのない時間があったのだ。
それを今になって思い知らされる。
そう思うと同時に、足を止めていた。
思い出? 友達? それはいつだ? 友達とは誰だ? 自分にそんな存在がいただろうか。
いるはずがない。だってもう何年も会っていない。
それなのにどうして、こんなにも懐かしく思えるのか。
どうして忘れてしまっていたのか。
そんなことを考えて立ち尽くしていると、不意に声をかけられた。
顔を上げると、そこにいたのは一人の男。スーツを着たサラリーマン風の男で、年齢は二十代後半くらいだろうか。眼鏡をかけていて、優しげな雰囲気を持った人だった。
男はこちらを見て微笑み、こう言った。
――やあ。久しぶりだね。
それが誰なのかはすぐに分かった。
分かって当然だ。彼は昔の知り合いなのだから。
だけど、なぜ彼がここに? 疑問に思っている間にも、彼の言葉は続く。
――どうしたんだい、急に立ち止まって。僕の顔に何かついてるかな?
言われてから、自分がずっと彼を凝視していたことに気付いた。
慌てて視線を外す。それから少しだけ考えて、ようやく口を開いた。
「ごめんなさい……人違いです」

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