とある雑多な思考錯語

工事帽

文字の大きさ
22 / 30

自助救済

しおりを挟む
どうしよう。
頭の中はそればかりが繰り返す。
今、何時だろう? そう思って窓の外を見ると、もうすっかり夜になっていた。
こんな時間まで寝てるなんて初めてだ……。
私はのそのそと起き上がって部屋を出る。
すると、ダイニングテーブルに突っ伏して眠るお兄様の姿があった。お酒臭いし、もしかして酔い潰れたのかしら……? お水でも飲んだ方がいいかもしれないと思って、キッチンへ向かうとお母様に会った。
すると、お母様は私を見るなり眉間にシワを寄せた。
えっ!? 何か怒らせるようなことをしただろうか? 全く身に覚えがないけれど……。
困惑していると、お母様は大きなため息を吐いた。
そして、呆れたように口を開く。
ーー貴方、またあの男と一緒にいたでしょう? あの男って誰のことですか? そう聞きたかったけれど、言葉が出てこなかった。
喉の奥で引っ掛かってしまったかのように声にならないのだ。
私が黙っていると、お母様は更に続ける。
ーーまぁいいわ。
そんなことよりも、貴方に伝えなければならないことがあるのよ。
一体なんの話だろうと身構えていると、突然お腹に強い衝撃を感じた。
驚いて下腹部を押さえると、ぬるりとした感触がする。恐る恐る手を確認すると真っ赤に染まっていた。……嘘、血が出てる!? 私はパニックになってその場にしゃがみ込む。
すると、後ろから誰かに支えられるような感覚を覚えた。
振り向くと、そこには見慣れない男性が立っている。
この人は誰だろう……? そう思っていると、男性は私の背中をさすってくれた。
大丈夫だよ、落ち着いて……。優しく声を掛けられる度に、不思議と心が落ち着く。
男性の頬には赤い液体が付いていることに気付く。よく見ると、服にも少しだけ付いていた。……あれ? これってまさか……。
嫌な予感がして自分の身体を見下ろすと、案の定血まみれになっている。
どうやら私は包丁で刺されてしまったらしい。
どうしてこんなことになったのか記憶を呼び起こそうとするものの、頭がガンガン痛んで何も思い出せない。
私は助けを求めるように男性を見上げると、彼は困ったように笑みを浮かべていた。
ごめんね、俺のせいで……。
申し訳なさそうな声で謝られた瞬間、私は全てを察してしまった。
あぁ、これは夢なんだなって。
だって、私はまだ高校生だし、お父様とお母様は仕事に出掛けていて家にはいないはずだもの。
それに、目の前にいる男性の顔に見覚えはない。きっと知らない人だ。
ということは、これは走馬灯のようなものなのかしら? 今までの人生を振り返るみたいな……。
それなら納得できる。……でも、そうだとしたら何のために? 疑問に思っていると、頭の中に声が響いてきた。
ーーさっき言ったでしょう? 伝えなくてはならないことがあるって。
それは貴女にとってとても大切なことだから忘れないようにしなさい。……わかったかしら? わかりましたか? 返事をしなさい! 先ほどとは打って変わって強い口調で言うものだから、思わず肩をビクッと震わせる。……はい、わかりました。
戸惑いながらも返事をすると、お母様は大きく息を吐いて安堵していた。
ーーよろしい。では、その男に会っても、決して心を許してはいけませんよ。こんなふうに殺されてしまいますからね。
その声を最後に私は目を覚ます。
私はのそのそと起き上がって部屋を出る。
すると、ダイニングテーブルに突っ伏して眠るお兄様の姿があった。お酒臭いし、もしかして酔い潰れたのかしら……? お水でも飲んだ方がいいかもしれないと思った時、床に広がる真っ赤な血に気が付いた。
お兄様のはずの男は、夢で見た知らない男の顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...