フルアーマー市役所

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フルアーマー市役所

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「本日は〇〇市に取材でお邪魔しております。ここはその市役所前、リニューアルが終わったばかりの新しい建物には、ある珍しい機能が備わっているとのことです」

 映像はレポーターを中心に、その背後の建物を映す。
 レポーター。道路から市役所の敷地内へと踏み込む。
 市役所の玄関前のロータリーには作業着姿の男性。

「こちらは市職員の武部さんです。武部さんは施設課に勤務されており、この市役所の設備に一番詳しいということで、案内をして頂けることになりました。本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

 レポーターと市職員、互いに軽く頭を下げる。

「それでは早速ですが、この市役所の特別な設備について、教えて頂けますでしょうか」
「はい、本庁舎は災害時に市民の皆様の避難所として使用出来るように、いくつかの特別な機能を備えております」
「災害時と言いますと、大雨のときでしょうか」
「台風をはじめとした水害はもちろん、人災、つまりテロ行為の場合でも市民の皆様に避難頂けるようになっております」
「テ、テロ行為ですか。言われてみれば確かに、市役所には窓が設けられていないようです。これがテロ対策ということでしょうか」

 映像は建物の外壁へと移る。ゆっくりとと左から右へと凹凸の少ない外壁を映し、そしてレポーターと市職員の居る玄関前に戻る。

「確かに最近は物騒なニュースも多く目にします。それにしてもテロを想定した市役所というのはなかなか珍しく感じます。具体的に伺ってもよろしいでしょうか」
「はい。まず、建物の外壁ですが、複数の素材を組み合わせた複合装甲となっており、戦車の砲弾であっても防ぐことが可能です」
「戦車!? えっと、テロを想定されているんですよね」
「もちろんです」

 至極真面目な顔で回答する市職員。

「入口の自動ドアも強化ガラスを使用しており、拳銃の弾丸程度であれば十分に防げますし、有事の際には外壁と同じ複合装甲の隔壁により閉鎖されます。市民の皆様の最後の砦として、いかなる攻撃にも屈しないことから『フルアーマー市役所』という愛称も頂いております」

 レポーターは視線だけをチラッとカメラの横に向ける。
 市職員に向き直るリポーター。

「……この国でテロ組織が戦車を使うことは考えにくいのですが、それだけ頑丈ということですね。これは安心です。愛称を頂いたとのことですが、これは公募でしょうか」
「いえ、私が考えました」

 レポーターは再び視線だけをカメラの横に向ける。
 軽くうなずいて視線を戻す。

「それでは他の設備についても伺いたいと思います。市役所の中へ参りましょうか」
「それは出来ません」
「へ?」
「皆さんは市民ではありませんので、市役所の中に入ることは出来ません」
「……えっと、取材はお引き受け頂いたはずですが」
「はい、今、お受けしております。ですが、市役所の中に入ることは出来ません」

 レポーター、困った顔でカメラの横に顔を向ける。
 カメラの横からジャンパー姿の男が映像に入り込む。男はレポーターの隣に立って市職員と話始める。
 市職員の断りの言葉だけが聞こえてくる。

 徐々に身振りが大げさになるジャンパー姿の男。
 そのうち断片的にだが男の怒鳴り声も聞こえてくるようになる。

 ジャンパー姿の男がカメラに向かって手招きをした後、市職員を羽交い絞めにする。
 近づいていくカメラを先導するようにレポーターが玄関に向かって走り出す。

「テロリストだ!!! 防御壁起動!!!」

 羽交い絞めにされたままの市職員の叫び声。
 レポーターとカメラが向かう先で、玄関には隔壁が下りてくる。
 隔壁の下りる速度は速い。誰かが挟まったらなんてことを考えてもいないかのように、ほんの数秒で玄関は閉ざされる。

 走っていたレポーターは止まれなかったのか、それとも腹いせか、玄関を塞ぐ隔壁へ前蹴りをして立ち止まる。
 もちろん、そんなことで隔壁が揺らぐわけでもない。
 だが、それに反応したかのように、周囲の壁の一部が剥がれ落ち。鈍い音を響かせて転がる。

 引きつった顔のレポーターが一歩、二歩と後退する。
 剥がれ落ちた壁の奥からせり出してくる幾つもの銃口。
 遠くから叫び声が聞こえる。

「なんなんだあれは!」

 市職員の「フルアーマーですから」という答えは、半ばから銃声にかき消された。
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