[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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36,危険人物は多数いる

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「すっごく迫ってますね……これは鈍感に切れましたか」
「でしょうね。普通に焦らしたりしてたら、絶対に前に進まないって気付かれたのでしょう」
 そこのメイドと侍女もどきの方達、貴方達はどうして置物になれないのですか。
 いえ、貴族なら衆人環視は当たり前ですよ。当たり前ですけど、情緒がないにもほどがあるでしょう。
「違うよ。近いのに近づけないことに我慢の限界が来てたし、今日は私の所にフランドル子爵令嬢が押しかけてきたから、離宮に非難したって誰もそれ程不審には思わないよ」
 凄い方ですね、フランドル子爵令嬢。
 第2王子殿下という高い身分であるレイを避難させるほどの嵐扱いなのですか。
「フランドル子爵令嬢は排除できないけど、たまに役に立つから困る」
 何の加護をお持ちか存じませんが、フランドル子爵令嬢は一応加護持ちですから排除……王城に入れなくすることですよね。陛下のお気に入りだから、多少のことでは出入り禁止にはできないと伺っております。

「フランドル子爵令嬢は何を陛下に気に入られていらっしゃるのでしょう?」
「それが不明なんだよね。多分加護自体に何かあるんだろうけど、あんな調子の女性でも自分の持っている加護は誰にも言わない。神殿には奉仕に行ったこともないから、恐らく良い効果のある加護ではないと推測してる」
 一度も奉仕に行かれない方は、ほぼ人にあまり良い影響を与えない加護持ちの方です。通常そう言った加護を得られた方は、加護持ちに対しての人々の期待を恐れて、自分が加護持ちであることも明かさないものです。
「良い効果もなくはない加護ではないでしょうか。それこそ微妙な加護なのでは」
 はい、私の加護は微妙と呼ばれることもあります。
 微妙と仰った方々は余程落胆されたのか、私の前には二度と現れることはありませんでした。彼らの期待を裏切ってしまったことに私もショックを受け、しばらく泣いて暮らしたことを思い出しました。
 あの時はマーガレットやイグニスさん達も私を必死に励まして下さいましたし、レイノス様は無理をして頻繁に手紙を送って下さいました。

「微妙か……。それこそニアの破格の加護ですら微妙って言う人も居ただろう。王には有用でも、一般的にはあまり価値のないものなのかな」
「……私が微妙と言われていたことをよく御存知ですね」
 フルレット侯爵領に引き籠もっていた私の話をレイは何故知っているのでしょうか?
 やはり、王子殿下だから?
「気になる子の困っている情報なんか一番集めるだろう。特に遠くに居て近くで寄り添えないわけだから、せめて問題を何とかしてやりたいと思うのはおかしいことかな?」
 問題?
 問題って?

「微妙ってニアに言った人は西か北に行ったよ。今頃、必死に作物が育たない地域で開墾しているだろうね」
 作物を育てているではなく、それ以前の開墾ですか?
 現れなかったのは、遠くに飛ばされて現れることが出来なかったからですか。
 いえ、まず、開墾が問題でしょう。

「開墾、ですか」
「うん。作物が出来るありがたさを知るにはやっぱり開墾からがいいんじゃないかって皆に勧められてね」
 皆って誰ですか。
 王子様の言動に私は思考も何も凍結してしまいました。
 開墾ですか。西や北には魔物が出るという森も数多く存在すると伺っております。長い異常気象のため使える土地は既に全て使っており、そこくらいしか開墾する場所はないと記憶していますが、どうなんでしょうか。
 あの方達は全員貴族でしたよね。果たして10年近く経っている今、生きておられるのでしょうか。
「てっきり私はイグニスさん達が脅したのかと思っておりました」
「ああ、腕か足かなくなってたね。どうせイグニス以外の領民の前でも言ってただろうし、仕方ないんじゃないかな。フルレット侯爵領でニアのことを悲しませたら、命なんてないのは当たり前だよ」
 イグニスさんが怒鳴っただけで終わっていると考えておりましたが、実はかなり物騒なことになっていた模様です。ですが、
「いくら私が領主の娘でも、フルレット侯爵領で私を悲しませた程度で命は取られませんよ」
 私の記憶では、皆さん私の扱いは雑でした。
 領民の子供同士では結構鈍臭いと馬鹿にされておりましたよ。
「ねえ、マーガレット。フルレット侯爵領にはそんなルールありませんでしたよね」
「……」
 私の問いかけにマーガレットは顔色を変えず、沈黙し続けました。
 その沈黙が妙に怖いのですよ。
 沈黙すると言うことは、肯定と言うことなんですか?

 どうやら私の知らないルールがフルレット侯爵領には存在したと言うことですか。
「迂闊な者は永久に消えるから、ニアは自分の周りに注意してね」
 注意って仰いますが……注意すべきなのは、本当に私なのでしょうか。
 分かりません。
 胸が以上にドキドキしているのは、レイの顔への胸の高鳴りか、戦慄からの動悸なのか。私には判別できません。

「まあ、この話はこれぐらいにして、ニアの知りたいことについて話そうか?」
「今の私がレイについて訊けると思っておられるのですか!」

 私は頭を抱えて蹲りましたよ。
 何で恋愛初心者にこんな攻撃してくるんですか。
 もう頭の中いっぱいいっぱいですよ。
 限界に達した恥ずかしさも相まって、そのまましばらく顔を上げることが出来ませんでした。
 幸い、コメントや感想を挟んでくる方々も沈黙され、静かな時間が流れておりました。
 いえ、妙に静かなのですよ……。
 恐る恐る私が顔を上げると、レイは顔を赤くして目を私から逸らしておられました。
 あら?

「私のこと、知りたいって思ってくれたんだ……」

 え?
 あれ?
 ああああああああああ!
 私の知りたい事って、資料と本まで持ってきて貰った……!

 人生最大の自爆をしたのかもしれません。
 フレイ兄様、私は貴方のことを非難できるような人間ではございませんでした。
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