20 / 31
13 人工知能にすべて管理される近未来。『拓海』は機械に決められた“運命の相手”と出会う。
見えざる手錠【後編】
しおりを挟む
由羅は護送車で、政府が管轄する特別拘置所に送還されるところだった。
「拓海さん。これで好きな人と一緒になれるわね」
由羅は満たされた気持ちで、手錠をされた自身の手首を見つめる。
拓海と番の証であった『リングコード』はその意味を失っていた。
ーーこれで、よかったのよ。
由羅は自身の手首をそっと指でなぞった。
──── ────
「!?」
突如、護送車の前に若い男が立ちはだかった。
彼は護送車のフロンドガラスめがけで、銃を連射する。
防弾ガラスで弾の貫通を免れたが、フロントガラスには大きな亀裂が走った。
運転手が思わずハンドルを大きく左へ切った。
火花を散らしながら車体はガードレールに強く打ち付けられて、徐々に減速する。
“大きな衝撃”が車内に走った。
護送車は何かにぶつかったらしく止まった。
衝撃で眼鏡が吹き飛び、由羅はひどい眩暈を起こして堪らず頭を押さえる。
すると歪んだ後部席のドアを、外から何者かがバールでこじ開けようとしていた。
ぼやけた視界でそれを見た由羅は思わず身構えた。
軋みながら、歪に曲がったドアが開く。
「由羅」
拓海が由羅に向かって、手を差し伸べてきた。
「…………拓海さん?…どうして…?」
ぼやけた視界が拓海を捉え、由羅は震えた声で彼の名を呼んだ。
「どうして?婚約者を助けに来るのは当たり前のことだろう」
拓海は由羅の問いかけに『心外だ』と言いたげに顔をしかめた。
「え、でも…もう『リングコード』は機能を失いました。だから、拓海さんはもう好きな人と結婚が出来るんですよ?」
「ああ…だから迎えに来たんだろう」
戸惑う由羅に、拓海は笑った。
「私、重罪を犯しました。だから貴方とは…もう一緒には居られません」
「重罪?俺にとってお前はまさしく救いの女神だけどな」
あまりに自分らしくない気障な言葉だと、拓海自身思った。
きっとこれから先、今の自分の言葉を思い出し『この時の俺はどうかしていた』と自問自答するのだろう。
(まぁ、いいけどな)
そんな笑い話を、由羅は隣に座って微笑みながら聞いてくれるだろうから。
なかなか車から降りない由羅を見かねて、拓海は強引に自分の元に引き寄せて地面に下ろした。
「それによ。もしもお前が捕まる時は…俺も“その手錠の片方”を一緒に嵌めてやる」
由羅の手首に嵌められた“ 衝撃で片方が外れた手錠 ”を指さしながら、拓海は力強く宣言した。
ーー何があっても、これからもずっと一緒だ。
声に出さなかったが拓海の言葉の真意は伝わった。
由羅は嬉しくて、それでも泣き顔を見せたくないと深く俯いた。
「…まぁ、しかしこんな状況だ。誰も俺達を気に留めるやつはいないだろうけどな…それより!」
拓海は向かい合わせで立ち尽くす由羅の背中に手をまわして、強引に自身の胸元へ引き寄せた。
「…本当に心配させやがって!ったくよ」
拓海は感情が高ぶり、本音を呟きながら由羅を強く抱きしめた。
「…ごめんなさい」
由羅が拓海の胸に顔を埋めたまま小さく謝る。
そして拓海の背中に自身の両腕を回し、抱き返した。
由羅が嵌めた手錠が“ジャラ”と微かな金属音を立てる。
「……」
拓海はより一層、由羅を強く抱きしめた。
由羅もまた腕に力を込めて、強く抱きしめ返す。拓海はそんな由羅がたまらなく愛おしかった。
辺りの状況はまさに混沌としていた。
超人工知能《ゼウス》の庇護を失い、交通機関が完全に機能を停止していたのだ。
先の方の道路を見ると渋滞した車が長い列を作っていた。
まるでレールのように長い長い列はこの国を脱出するための出口に続いている。
「なんかさ。こんな光景に似た神話なかったか?」
拓海はそんなことを呟きながら、泣き止んだ由羅の手をしっかりと握りしめる。
「あ、もしかしたら……」
由羅は拓海の手を握り返し、ある神話の話を始めた。
由羅の語りに拓海はいつものように側で耳を傾ける。
『混沌の波が世界を今まさに飲み込もうとしている。
そして、そこから逃れようと人々は新たな地へ向かうための舟に乗り込むのだ』
二人の男女は新たな地に向かって、ゆっくりと歩き始めた。
「拓海さん。これで好きな人と一緒になれるわね」
由羅は満たされた気持ちで、手錠をされた自身の手首を見つめる。
拓海と番の証であった『リングコード』はその意味を失っていた。
ーーこれで、よかったのよ。
由羅は自身の手首をそっと指でなぞった。
──── ────
「!?」
突如、護送車の前に若い男が立ちはだかった。
彼は護送車のフロンドガラスめがけで、銃を連射する。
防弾ガラスで弾の貫通を免れたが、フロントガラスには大きな亀裂が走った。
運転手が思わずハンドルを大きく左へ切った。
火花を散らしながら車体はガードレールに強く打ち付けられて、徐々に減速する。
“大きな衝撃”が車内に走った。
護送車は何かにぶつかったらしく止まった。
衝撃で眼鏡が吹き飛び、由羅はひどい眩暈を起こして堪らず頭を押さえる。
すると歪んだ後部席のドアを、外から何者かがバールでこじ開けようとしていた。
ぼやけた視界でそれを見た由羅は思わず身構えた。
軋みながら、歪に曲がったドアが開く。
「由羅」
拓海が由羅に向かって、手を差し伸べてきた。
「…………拓海さん?…どうして…?」
ぼやけた視界が拓海を捉え、由羅は震えた声で彼の名を呼んだ。
「どうして?婚約者を助けに来るのは当たり前のことだろう」
拓海は由羅の問いかけに『心外だ』と言いたげに顔をしかめた。
「え、でも…もう『リングコード』は機能を失いました。だから、拓海さんはもう好きな人と結婚が出来るんですよ?」
「ああ…だから迎えに来たんだろう」
戸惑う由羅に、拓海は笑った。
「私、重罪を犯しました。だから貴方とは…もう一緒には居られません」
「重罪?俺にとってお前はまさしく救いの女神だけどな」
あまりに自分らしくない気障な言葉だと、拓海自身思った。
きっとこれから先、今の自分の言葉を思い出し『この時の俺はどうかしていた』と自問自答するのだろう。
(まぁ、いいけどな)
そんな笑い話を、由羅は隣に座って微笑みながら聞いてくれるだろうから。
なかなか車から降りない由羅を見かねて、拓海は強引に自分の元に引き寄せて地面に下ろした。
「それによ。もしもお前が捕まる時は…俺も“その手錠の片方”を一緒に嵌めてやる」
由羅の手首に嵌められた“ 衝撃で片方が外れた手錠 ”を指さしながら、拓海は力強く宣言した。
ーー何があっても、これからもずっと一緒だ。
声に出さなかったが拓海の言葉の真意は伝わった。
由羅は嬉しくて、それでも泣き顔を見せたくないと深く俯いた。
「…まぁ、しかしこんな状況だ。誰も俺達を気に留めるやつはいないだろうけどな…それより!」
拓海は向かい合わせで立ち尽くす由羅の背中に手をまわして、強引に自身の胸元へ引き寄せた。
「…本当に心配させやがって!ったくよ」
拓海は感情が高ぶり、本音を呟きながら由羅を強く抱きしめた。
「…ごめんなさい」
由羅が拓海の胸に顔を埋めたまま小さく謝る。
そして拓海の背中に自身の両腕を回し、抱き返した。
由羅が嵌めた手錠が“ジャラ”と微かな金属音を立てる。
「……」
拓海はより一層、由羅を強く抱きしめた。
由羅もまた腕に力を込めて、強く抱きしめ返す。拓海はそんな由羅がたまらなく愛おしかった。
辺りの状況はまさに混沌としていた。
超人工知能《ゼウス》の庇護を失い、交通機関が完全に機能を停止していたのだ。
先の方の道路を見ると渋滞した車が長い列を作っていた。
まるでレールのように長い長い列はこの国を脱出するための出口に続いている。
「なんかさ。こんな光景に似た神話なかったか?」
拓海はそんなことを呟きながら、泣き止んだ由羅の手をしっかりと握りしめる。
「あ、もしかしたら……」
由羅は拓海の手を握り返し、ある神話の話を始めた。
由羅の語りに拓海はいつものように側で耳を傾ける。
『混沌の波が世界を今まさに飲み込もうとしている。
そして、そこから逃れようと人々は新たな地へ向かうための舟に乗り込むのだ』
二人の男女は新たな地に向かって、ゆっくりと歩き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる