甘灯の思いつき短編集

甘灯

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18 氷の宰相と恐れられるシルヴァリオ。星告げが導いた出会いは、王暗殺を阻止するがそれは始まりに過ぎなかった

星告げと氷の宰相【後編】

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「王兄上の命が狙われた一件、最も詳しく知っていたのは……一体誰だ?」 

 その問いに、居並ぶ廷臣たちは言葉を失った。

「それは………」

 誰もが口を開きかけ、しかし続けられずに押し黙る。

「――宰相のシルヴァリオ=アルトーンだ」

 弟殿下が誰も口にできなかった名を告げると、場が凍りついた。

「毒を疑い、先回して動いた。あまりにも出来過ぎではないか」

「……確かに」

 小さく、同意の声が漏れる。

「王兄上の厚い信任を得る一方――その裏で、王を害そうと目論んでいたとすれば?」

「しかし……証拠は……」

 一人の廷臣が、耐えきれず声を上げた。
 
 次の瞬間。

 弟殿下が机上に書物を叩きつけた。
 乾いた音が広間に響き、廷臣たちは息を吞む。

 弟殿下は拳を固く握り締め、声を張り上げた。

「王兄上を謀る不届き者を――私は、断じて許さぬ!」 



   ◇ ◇ ◇



「シルヴァリオ=アルトーン」

 名を呼ばれ、彼は静かに筆を置いた。
 顔を上げ、衛兵を見据える。
 
 険を帯びた表情ではない。
だが、その冷えた双眸は相対する者を居竦ませるには十分だった。
 
「国王暗殺未遂の容疑で、貴殿の身柄を拘束させてもらう」

 シルヴァリオは何も言わずに、椅子から立ち上がる。
 あまりにも潔い態度に、衛兵は言い知れぬ不安を覚え、思わず乾いた喉を鳴らした。



   ◇ ◇ ◇



 ――シルヴァリオと、再会することは叶わなかった。

 気づけば、ルルは星告通りにある自分の店――小さな天幕の前に立っていた。
 
 今思えば、顔を合わせるのはいつも此処だった。
 占星師せんせいしと客として、言葉を交わすだけの関係。

 相手は、国の宰相だ。
 本来、気軽に会える相手ではない。
 ましてや素顔を隠していれば、他の占星師と区別がつくはずもない。

 それに――

(あんな態度を取ったんだもの……もう、ここには来ないわよね)

 ルルは天幕から背を向け、歩きだそうとした――その時。

「失礼。ここの店主の方でお間違えないでしょうか?」

 呼び止める声に、足を止める。
 振り返ると、そこに立っていたのは、一見すると一般市民の男だった。
 だが、訛りのない言葉使いと妙に整った所作が目に留まる。

「…そうですが」

 ――貴方は?
 
 問いかけるより早く、男は封がされた一通の手紙を差し出した。

「宰相殿からです。――必ず、貴方に渡すよう仰せつかりました」

 ルルは目を見開き、それを受ける。
 男は周囲の視線を避けるように口元に手を添えて、続けた。

「あの方は……現在、拘束されており…身動きが取れない状態です」

「っ!……どうして……」

 思わず声を詰まらせるルルに、男は静かに首を横に振る。

「詳しくは………どうか、お察しください」

 秘密裏に動いているのだろう。
 ここに来ること自体が、危険を伴う行為なのかもしれない。

 「分かりました…」

 そう返すと、男は小さく一礼し、雑踏へと溶け込むように姿を消した。



 ◇ ◇ ◇



 ――――――――――――――
  
  国王のもとへ向かってほしい 

 ――――――――――――――

 手紙に記されていたのは、それだけだった。
 あまりにも短い文面は、切羽した状況の中で書かれたものだと、容易に想像につく。

 ――シルヴァリオは、拘束された。
 
 手紙を渡してきた男の言葉が、脳裏によぎる。

 今回の件と、無関係ではないだろう。
 そう思った瞬間、胸の奥が重く傷んだ。

(……私の星告げのせい?)

 それでも身動きが取れない彼が、この手紙を自分に託した意味はすぐに分かった。

「あら、ルル。帰っていたのね」

 扉の前に立ち尽くすルルに、カミラが声をかける。

「……どうしたの?」

 その表情に何かを感じ取ったのだろう。
 カミラは言葉を重ねた。

「私、行かないと……でも」

 手紙を握る指に力がこもり、紙がくしゃりと、かすかな音を立てる。
 
 カミラは一度それに視線を落とし、すぐにルルを真っ直ぐ見つめた。

「――星々はね、変えられる未来しか、私たちに伝えないの」

 俯くルルに向けて、しかし確かな声で語る。

「それを実際に変えるのは――私たち自身よ」

 ルルは、弾かれるように顔を上げた。

 今回の星告げを受け、シルヴァリオは迷わず行動した。
 
 ――だから、国王暗殺は未然に防げた。

 未来を変えたのは、シルヴァリオ。
 だが、そのきっかけを与えたのは――ルル自身だ。

 今まで自分は、降りてきた星の声を伝えるだけだった。

 それが星詠ほしよみ――今では『星預ほしあずかり』と名を変えた存在の使命だと、疑いもしなかった。
 
 その言葉を聞いた者が、どう選び、どう行動したのか。知ろうともしなかった。

 ――今思えば、それはあまりのも傲慢だった。

 言葉を伝えた瞬間から、占星師にもその言葉に対する責任が生まれる。
 
 ――ならば、自分は最後まで見届けるべきだ。

「………カミラ叔母さん、私、行ってくる」

 そう告げると、カミラは穏やかに微笑みを浮かべた。

「いってらっしゃい」

 小さく頷き、ルルは静かに部屋を後にした。



   ◇ ◇ ◇ 



「レオン陛下。あなたの在り方こそが、この国をより豊かなものへと変えたのでしょう」

「いや。あなた方のご尽力があってこその成果だ」

「ご謙遜を。我々は、その恩恵に預からせていただいているに過ぎません」

 閉鎖的だった国の在り方を改めて、積極的に外交へ舵を切ったことで――この国は目覚まし発展を遂げた。

 他国と比べても目立つ、自国独自の産業。
 その強みを明確に生かしたレオンの政策は、確かな国益をもたらしている。
  
 衰退の兆しを見せ始めた他国にとって、それは実に羨望の的だった。
 
 ――その技術を、我が国にも。

 外交の席では、技術者の派遣を求める声が絶えない。
 
 だがレオンは、どれほど好条件を並べ立てられようと、安易に首を縦に振るような――愚王ではなかった。

(………格下が、調子に乗りおって)

 へりくだった笑みを浮かべる外交官が、さりげなく目配せをする。
 
 すると、背後に控えていた影が、静かに揺らいだ。

 差し出されたのは、小ぶりの箱。

「それはそうと――レオン陛下。ぜひ、献上したい品がございまして」

「ほう。それはそれは――感謝いたす」

 レオンは、外交官から小箱を受け取った。

「……これは、香木ですな」

 蓋を開けると、中には乾いた樹木片が収められていた。

「はい。我が国の特産でございます」

「なるほど」

 レオンはそう頷き、香木へと視線を落とした。

 ――仄かの香るのは、伽羅きゃらだろうか。

『安らぎの香。……それは、くすぶる煙となりて』
『…気高き獅子に巻きつく、蛇となる』
 
 静かな声が、広間に落ちた。

 ひとりの女官が前へ歩み出る。
 その瞬間、誰ひとりとして咎める声を上げることができなかった。

 ――金色の瞳。
 
 整った美貌以上に、その瞳が放つ神秘に、居並ぶ者たちは息を吞む。

 ――その場にいた者は、即座に悟った。

『それは魂を縛り。………常世へ誘う、死の香』

 レオンの前に、ベールを外し、素顔を晒したルルが立つ。

「シルヴァリオ殿より名を受け、馳せ参じました」

 流れるように一礼をし、こう告げる。

「ルル=アストレイア=ノクターン」

 つまんだ裾を離し、静かに顔を上げた。

「――星預にございます」



   ◇ ◇ ◇



「先日、捕らえた女の証言も取れました」

 シルヴァリオは手元の書類に視線を落とし、淡々と報告を続ける。

「女の脚に彫られていた蛇の印――あれは、セルペンス殿下の結成した組織に属する者の証だそうです」

 レオンの異母弟―セルペンス。
 蛇を冠した名を持つ、王族。

 「………」

 レオンが無言で、手を差し出した。
 シルヴァリオは一瞬だけ逡巡したのち、書類の一枚を静かに渡す。

 ――そこには、獅子に巻きつく蛇の姿が描かれていた。

 “獅子を締め上げる蛇”
 その紋章は、セルペンスの胸中を余すことなく写し取っているようだった。

「蛇は影で蠢く……決して、陽照ようしょうの獅子には成れぬ、か」

 低く呟かれたその言葉に、シルヴァリオはわずかに目を見張った。

「ルル殿の受け売りだ」

 そう言って、レオンはほんの僅かに口元を緩め、書類を返す。

「そうですか」
 
 淡々と応じたシルヴァリオだったが、その表情は先ほどよりも幾分か和らいで見えた。

「彼女には、感謝せねばならんな」

 レオンは、窓の外へと視線を移し、静かに言葉を継ぐ。

「“あれ”を受け取っていたら、私は死んでいた」

 隣国の外交官が献上しようとした香木は、死を招く呪具だった。
 元は、その国の王家の霊廟に手向けられていた供物。
 本来は、死者の眠りを安寧に守るためのものだ。
 それを、レオンを殺すための呪具として利用しようと持ち出した。

 死者、まして王族の墓を暴く行為は、この国のみならず近隣諸国でも極刑に相当する重罪である。

「隣国の王より、謝罪状が届いた。……件の外交官には、しかるべき処置を下すと記されていたぞ」

 その密書がレオンの元に届いたのは、つい先程のことだ。
 
 首謀者は、レオンの弟であるセルペンス。
 だが、その手に呪具を渡し、事を進めたのは隣国の外交官だった。
 
 本来であれば、国の外交が断絶してもおかしくない。
 だが、レオンは今回の件を不問とする判断を下した。
 
 ――その代わりに、次の会合において自国が有利となる密約を交わした。
   
「――お前は不服だろうが」

 レオンは、静かに言い添える。

「決して、この件は口外するな」

 それは王命だった。

「……仰せのままに」

 シルヴァリオが忠誠の礼を取ると、レオンは満足そうに頷いた。

「それで――あれ・・は、どうしてる?」

「呪具に刻まれた名を消したことで、施した者に呪詛が返ったようです」

 シルヴァリオは一拍置いて、告げる。

「――“セルペンス殿下”の身に、呪印が現れたと報告が入っています」

「そうか…」

 レオンは、それ以上何も言わなかった。



   ◇ ◇ ◇



『王の冠を持つ呪われし者――未来永劫、その望みは叶わぬ』

 ルルが、静かに星告げを読み上げた。
 
「あなたも…分かっていたはずよね?」

 金色の瞳を向けられ、粗末な椅子に腰掛けた星預は、ゆっくりと視線を落とした。

「…分かっていた…わ」

 膝の上で重ねた手を強く組みながら、彼女は言葉を絞り出す。

 首謀者セルペンスに加担した、星預。

 裁定を前に、彼女と話す機会を与えられたルルは、シルヴァリオと共に王城の地下拘留区画にいた。

 石造りの一室。
 導く星は見えず、天は遠い。
 
 ――星預自身も、理解していた。

 これはすでに定められた結末なのだと。

「でも……私は、間違っていない」

 顔を上げた星預の瞳には、確かな意志が宿っていた。
 それは星詠の誇りとして、いささかも疑っていない眼差しだった。
 だからこそ、ルルも真っ直ぐに、その視線を受け止める。

「そう。…それが、あなたの“星詠”の誇りなのね」 

「それが、星に選ばれた私たち――星詠の一族でしょう?」

 星預が、ルルを見据えて問いかける。

「ええ。でも…あなたは、誇りを守ったのではないわ」

 星預が、形の整った眉をひそめた。
 ルルは、言葉を続ける。

「変わることを、恐れただけ」

「っ…違うわ!」
 
 星預が、声を荒げた。

「私は星詠の誇りを守ろうとしたのよ! あの人と、同じように――」

 “あの人”が、かつてこの国の妃として迎えられた星詠であることは、言わずとも分かった。

 かつて神聖な存在として敬われていた、星詠の一族。
 だが時の王は、その力を我が物にしようと、一人の星詠を妃に迎えた。

 ――黄金色の瞳を持つ、最も優れた星詠。

 王の思惑とは裏腹に、彼女の予言はことごとく外れた。

 ――否。外したのだ。
 
 たとえ、相手が一国の王であろうとも、
 それが私利私欲のためであるならば――星詠は屈してはならない。
 それこそが、気高き星詠の誇り。
 
 彼女は、自らの誇りを貫いた。
 たとえそれが、一族の破滅へと繋がる道であったとしても。

「彼女の意思を…星詠の誇りを…私は、同じように守るとしたのよ!」

 星預は椅子から立ち上がり、叫ぶ。

 反射的にシルヴァリオが一歩踏み出しかけたが、ルルが手で制した。
 無言で首を横に振ると、彼は険しい顔のまま、その場に留まった。

「……彼女はとても勇敢だったと思うわ」

 ルルの声は、静かだった。

「だから誰も、彼女を恨まなかった。
 多くの星詠の血が流れて……生き残った者は散り散りになって………
 血も、もう薄れてしまったけれど」

 胸が、軋むように痛む。

「それでも、星詠の誇りは今もこうして――私たちに受け継がれている」

 ――何も間違っていなかった。

 星神より授かった神聖な力を守ろうとしただけなのに。
 それでも星詠は、罪人のように忌み嫌われ、差別され続けている。

 特に、王妃と同じ金色の瞳を持つルルは、素顔を隠さなければ生きていけない。
 それは星詠としての誇りを隠し続けることと同義だった。
 
 ――それが、なによりも苦しいものだった。
 だが生きるためには、この不条理さに屈するしかなかった。
 
 ルルは喉元まで込み上げた思いを、静かに飲み込む。

 星預も、また同じ境遇だった。
 だがそれ以上の重みを背負っている者を前に、押し黙るしかなかった。

「…でもね」

 ようやく口にした言葉には、もう迷いはなかった。

「時は、移り変わるのよ」

 ルルは、はっきりと告げる。

「星詠から星預と名が変わったように……私たちも、変わっていいの」

 その言葉に、星預は深く俯く。
 
 そして――
 石床に、ぽつり、ぽつりと黒い染みが滲んだ。



   ◇ ◇ ◇



『星を仰ぐ者、遠き地に至る』

『そして――潰えそうな一つ星は、再び光を知るだろう』

 ルルの星告げが、静かに終わった。

「――やはり、すでに星告げがありましたか」

 天幕をくぐったシルヴァリオは、思わず苦笑を漏らした。

「ええ」

 ルルは、静かに答える。

「……それに、あなたがここへ来ることも、星が教えてくれました」

 そう言って立ち上がると、ルルは頭にかけていたベールを、そっと外した。
 不意の行動に、シルヴァリオは目を見開く。

「……あなたに、謝りたいと思っていたのです」

「私に…?」

 思わず問い返す。

「はい」

 ルルは俯きがちに、小さく頷いた。

「あなたに対して、ひどい態度を取ってしまったこと」

 そして深く頭を下げながら、言葉を継ぐ。

「ご無礼を…どうか、お許しください」

「無礼など……!」

 シルヴァリオは慌ててルルの両肩を掴み、顔を上げさせた。

 蝋燭に照らさせた彼女の相貌は、息を呑むほどに美しい。
 だが、その表情には後悔が滲み、痛々しく歪んでいた。

 ――今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

 その表情を直視できず、シルヴァリオは思わず視線を逸らす。

「…むしろ、謝るべきは、私……いえ――我々の方です」

 その言葉に、ルルは目を見張った。



   ◇ ◇ ◇



「――禁書とされた記録があります」

 椅子に腰を下ろし、声を落としながら、シルヴァリオは語り始めた。

「時の王に仕えていた廷臣が残した日記です。
 星詠の妃は…最後に告げた予言だけは、外していなかった」

 ――小箱を、持ち帰るな。

 これまで予言を外し続けてきた王妃の言葉に、王は一切の聞き耳を持たなかった。
 
 だが、敵国から持ち帰った小さな箱には、一匹のさそりが潜んでいた。

 それが故意であったのか、偶然であったのかは定かではない。
 だが、その箱は王の寝室へと運ばれ、眠っていた王は蠍の爪毒によって命を落とした。

「王の死後、王家の者たちは、王妃の予言がまた噓だと吹聴しました」

 シルヴァリオは、淡々と続ける。

「いえ、身内が犯した罪を隠匿するために――
 王殺しという、無実の罪を、星詠に課したのです」

 その王の時代。
 星詠の一族は、星神に選ばれた神子として、国民から篤く崇拝されていた。

 だが時の王は、星詠の力を己のために使おうし、拒む族長を殺し、一人の星詠を妃とした。
 
 それを知られるわけにはいかなかった王家の者は、事実を覆い隠すため、星詠の一族を排除する道を選んだ。

 ――その真実を知ったからこそ、シルヴァリオは『理の刃』と恐れられる宰相としての道を歩んだ。

「もう二度と……同じ悲劇を繰り返してはならない」

 氷の宰相は、目の前の水晶へと鋭い眼光を向ける。
 その灰色の瞳の奥には、静かに燃え続ける青い炎が宿っていた。

 ――非難するつもりは毛頭ありません。

 あの言葉の意味を、ルルはようやく理解した。
 それは同時に、彼女自身が変わるきっかけを与えられた言葉でもあった。

 ルルは、胸に溜め込んでいた息をゆっくりと吐き出す。

「……あなたの言葉は、真実を語る」

 小さく呟く。
 シルヴァリオは、その声に視線を向けた。

「だからこそ、あなたの言葉には、誰よりも重みがある」

 シルヴァリオ=アルトーンは、真実を見抜き、等しく人を裁く。

 それは星の声を受け取り、人を導く星詠の在り方にも通じている。
 
 ――否。
 彼は星に委ねるのではなく、自らの理の道を切り開く者だ。

 ルルは、そんな姿が眩しいと感じた。

「……これから、私は星預として生きていきます」

 ルルは、彼を真っ直ぐ見据えて告げる。
 
「それは、星詠の誇りを忘れることではありません」

 今度は視線を逸らさず、シルヴァリオはその言葉を受け止めた。
 
 夜空の星を一つに集めたかのような黄金の瞳が静かに輝いている。

「――ならば、私は見届けましょう」

 シルヴァリオは力強く言った。

「あなたの行く末を――ずっと、側で」



   ◇ ◇ ◇



 帰り際、シルヴァリオは意を決したように口を開いた。

「……それと、もう一つ」

「?」 

 ルルは思わず、小首を傾げる。
 
「私が星告占ほしこくうらないを好んでいることは、どうか――内密に願いたい」

 至極真面目な表情に、ルルは思わず口元を緩ませた。

「真実は……隠し通せないものですよ?」

 氷双の裁定者、シルヴァリオ=アルトーンは、苦笑を浮かべて答える。

「そうですね。
 ――これからも、あなたのもとへ、足繫く通うことになりますから」

 その眼差しは、氷を溶かす情熱が灯っていた。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

みつなつ
2025.10.01 みつなつ

みつなつ花企画へのお申し込みありがとうございます!
「徒桜の契り」拝読しました。

政略結婚は珍しくない時代だったのかもしれないけれど家族の仇との婚姻となると承服できないのも分かります。そしてそれ以上に澪さんは前世からの約束で自分を待っている鬼の元にいきたかったというのもあったのでしょう……。

前世では鬼への贄として育てられたものの鬼と心を通わすことができた澪さんはつかの間の幸せを味わえたと思います。けれど今世では約束通りに桜の木の下で再会を果たすことができたけれど、すぐに殺されてしまった(。>_<。)

澪さんが生まれ変わるのを待ち続けていた鬼も、きっと深く澪さんを愛していたのでしょう。

澪さんの来世が、自由に愛する人と結ばれることが許される時代であることを祈ります。

解除
みつなつ
2025.07.19 みつなつ

朗読配信へのお申し込みありがとうございます!
「機械仕掛けの真心」拝読しました。

突然の事故で母親が亡くなってしまった悠里くん。まだ幼く、なかなか現実が受け入れられない悠里くんに、読んでいて心が痛くなりました。

父の新さんも愛する妻を亡くして深い悲しみの中で、悠里くんのことやレイのことをきちんと考えてくれていたと思います。

悠里くんにとってレイと過ごした時間は、突然訪れた母との別れを受け入れるための時間だったのかも……。

20年後、大人になった悠里くんがレイのことを『母さん』と呼んだのも、とても素敵でした。
御堂玲という『ママ』と、レイという『母さん』、悠里くんには二人の母がいるんですよね。

とても素敵な『家族』の物語をありがとうございました!

解除
みつなつ
2025.02.01 みつなつ

バレンタイン企画へのご応募ありがとうございます!
「炎の魔王とOL勇者」拝読しました。

ゲームを遊んでいて、いきなりキャラクターがテンプレ台詞と違ったことを言い出したらビックリしますよね。でも、決められたストーリーとは違う展開になりそうでワクワクしちゃいそう(笑)

アイテムボックスの仕組み、モンスターを倒した時のドロップ品、その他にも色々と不思議で納得いかない魔王様の素朴な疑問……ゲーム内の造られた「魔王」というキャラではなく、心も人格もある「イグニスさん」と感じられて作品に引き込まれるように読み進めました。

アズサさんが魔王イグニスさんの質問に答えるかたちで会話を重ねて二人が少しずつ仲良くなっていくのがほのぼの楽しかったので、ゲーム機が壊れてしまった時にはもう会えないのかと……私まで寂しい気持ちになりました。

最後の一文の「真のエンディング」という言葉を見て、もしかしたら二人はいつかお互い大切な存在になれるかも……と、二人を応援したくなりました(*'ω'*)

解除

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