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第5章 眷属の里
第8話 ルルーチアの眷属化1
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フィフィロ達がこの里に来て六ヶ月。冬を越し、木々が赤やピンクの花を付け咲き誇る季節。
「もう春になったのに、なんでまだエルフィはこの里に居るんだよ」
「いいじゃない。まだ魔獣との会話もできてないし、ここの技術をもっと知りたいもの」
そんな事を言って、眷属になる訳でもないのにずっとこの家に居座っている。それならもっと仕事をしてほしいものだよ。
「あら、あたしは世界情勢に詳しいから、色々とアドバイスしてあげているわよ。そのお陰でこの前も辺境伯様に褒められたじゃない」
――ボクはそんな世情の事に興味は無いからね。この里が平和ならそれでいいんだよ。
「それにフィフィロに魔術も教えているでしょう。あの子の魔力量は多いけど技術は未熟だからね」
リビティナも見本として魔術を見せているけど、確かに使い熟す技術を教えるのはエルフィの方が上手い。自分は感覚的な事しか分からず独学の魔法しか知らないからね。
そんなリビティナの家にルルーチアが訪ねてきた。
「リビティナ様、私やっぱり眷属になってお兄ちゃんと同じ姿で、この里に住み続けたいです」
「そうは言っても、まだ十一歳だからね。決断するには早過ぎるんじゃないかな」
「もうすぐ十二歳になります。もう自分の事は自分で決められますから」
確かに以前からお兄さんのフィフィロと、ここにずっと住むんだと言っていたね。まだ子供だからと眷属化は待たせている。最近では機械弓を操って警備隊の見習いもして、この里のためにできる事をしようと努力してくれているんだけど。
「フィフィロ君は何て言っているんだい」
「獣人でも人間でもどんな姿であっても、一緒にいて私を守ってくれるって」
まあ、フィフィロならそう言うだろうね。腕を組んで、うん、うんと頷く。
「でもね。眷属になると魔法も使え無くなっちゃうんだよ」
「はい、大丈夫です。弓が使えますから」
「子供も産めなくなるよ」
「私、お兄ちゃんが居てくれたらそれでいいです。結婚なんてしませんから」
まあ、ルルーチアならそう言うだろうね。腕を組んで、うん、うんと頷いてしまったよ。
「別にいいんじゃないの、本人がそう言ってるなら。この里なら困る事もないでしょうし。ねえ~、ルルーチア」
「はい、私、頑張ります」
本人の意思が固いのは分かるけど、将来的にそれでいいのか……。この里でしか暮らせない人生になちゃうからね。
その日の晩、食事の後にゆっくりと相談してみる。
「ネイトスはどう思う?」
「ルルーチアですかい。歳の割にしっかりしてますな。同い年の獣人の子供は家族と一緒ですが、あの兄妹は自立できてますからね」
確かに支援も受けずに、二人だけで支障なく生活している。家はいつも綺麗にしているし、二人とも健康に過ごしている。
「この里から出て外で暮らしたいと言う子供はいませんぜ。他の子も、十五歳で眷属にしてもらうのを待っているって感じですな」
この里で眷属にしたのは、十五歳の成人になった者だけだ。
リザードマンの族長に護衛で付いてきた二人も、結局リビティナに忠誠を誓ってそのままこの里に住みついている。
「この里は色々と便利ですからね。里に居れば飢える事も、魔獣に襲われる事もありませんし」
森を切り開いて最初は苦労したけど、自分で言うのも何だけど今はすごくいい里になった。
「そうだね、ルルーチアちゃんの希望通り眷属にしようか」
――翌日。
ルルーチアとフィフィロを家に呼ぶ。間もなく十二歳になる子供を眷属化するのは初めてだから、念のためエマルク医師にも来てもらって今の状態を診てもらう。
「熱もないし、体の調子も良いようじゃな。健康体じゃよ、眷属化しても問題ないじゃろう」
医師の許可も出た。
「ルルーチアちゃん、本当に眷属にしてもいいんだね」
「はい、よろしくお願いします」
「今からだと夕方前には終わるけど、それまで高熱が出て苦しむことになるよ」
「はい、分かってます。……お兄ちゃん、傍にいてね」
「ああ、ルルーチア。頑張るんだぞ」
眷属化が見たいとエルフィも立ち会っていて、「頑張ってね」とルルーチアを励ましている。
「じゃあ、首筋を見せてくれるかい」
ベッドに座ったルルーチアの前まで行き、首筋を露わにする。その細い首筋の毛をかき分けて牙を立てる。
「ウッ!」という小さな唸り声を耳元で聞いて、なおも牙を深く差し入れ溢れる血を吸い、リビティナの目が赤く光る。
「お兄ちゃん……」
隣りにいるフィフィロの手をギュッと握り痛みに耐えて体を固くする。しばらくすると体の力も抜けてリビティナも牙を抜く。
「ルルーチア、大丈夫かい」
「……うん、お兄ちゃん、大丈夫だよ……。なんだかフワフワするの」
そう言うルルーチアの肩を抱きかかえて、フィフィロがゆっくりとベッドに寝かせる。
「ねえ、リビティナ。これで終わったの」
「まだこれからが大変なんだよ。何せ体の作りを変えてしまうからね」
今もベッドの横ではフィフィロが手をつなぎ見守っている。
そしていつものように眷属化が起こり苦しみだす。声にならない声を出してベッドの上で体をくねらせる。
「ルルーチア、ルルーチア。頑張るんだぞ」
ベッドから落ちないように、フィフィロと一緒に布団の上から押さえ付ける。その後、ルルーチアは高熱でうなされながらもベッドに横たわる。
「ねえ、リビティナ! あんなに苦しんでいるけど大丈夫なの、死んじゃったりしないわよね」
エルフィが居ても立ってもいられないと言う様子で聞いてくる。知り合いがこんなにも苦しんで不安にもなるのも分かるよ。でも大丈夫だよ、エルフィ。
「あと一時間程で、人間の体に変わるから心配する事ないよ。予定通りさ」
「そうは言っても、あんなに苦しんで……。前に血を分けた時は怪我も治って回復したでしょう」
「ボクの血は再生を促すからね。でも眷属化の時は、外殻遺伝子を壊す働きをするんだ」
「外殻遺伝子?」
遺伝子と言ってもエルフィには理解できないだろうけど、眷属にすることで全ての細胞の中にある遺伝子の一部を破壊してしまうのさ。
「もう春になったのに、なんでまだエルフィはこの里に居るんだよ」
「いいじゃない。まだ魔獣との会話もできてないし、ここの技術をもっと知りたいもの」
そんな事を言って、眷属になる訳でもないのにずっとこの家に居座っている。それならもっと仕事をしてほしいものだよ。
「あら、あたしは世界情勢に詳しいから、色々とアドバイスしてあげているわよ。そのお陰でこの前も辺境伯様に褒められたじゃない」
――ボクはそんな世情の事に興味は無いからね。この里が平和ならそれでいいんだよ。
「それにフィフィロに魔術も教えているでしょう。あの子の魔力量は多いけど技術は未熟だからね」
リビティナも見本として魔術を見せているけど、確かに使い熟す技術を教えるのはエルフィの方が上手い。自分は感覚的な事しか分からず独学の魔法しか知らないからね。
そんなリビティナの家にルルーチアが訪ねてきた。
「リビティナ様、私やっぱり眷属になってお兄ちゃんと同じ姿で、この里に住み続けたいです」
「そうは言っても、まだ十一歳だからね。決断するには早過ぎるんじゃないかな」
「もうすぐ十二歳になります。もう自分の事は自分で決められますから」
確かに以前からお兄さんのフィフィロと、ここにずっと住むんだと言っていたね。まだ子供だからと眷属化は待たせている。最近では機械弓を操って警備隊の見習いもして、この里のためにできる事をしようと努力してくれているんだけど。
「フィフィロ君は何て言っているんだい」
「獣人でも人間でもどんな姿であっても、一緒にいて私を守ってくれるって」
まあ、フィフィロならそう言うだろうね。腕を組んで、うん、うんと頷く。
「でもね。眷属になると魔法も使え無くなっちゃうんだよ」
「はい、大丈夫です。弓が使えますから」
「子供も産めなくなるよ」
「私、お兄ちゃんが居てくれたらそれでいいです。結婚なんてしませんから」
まあ、ルルーチアならそう言うだろうね。腕を組んで、うん、うんと頷いてしまったよ。
「別にいいんじゃないの、本人がそう言ってるなら。この里なら困る事もないでしょうし。ねえ~、ルルーチア」
「はい、私、頑張ります」
本人の意思が固いのは分かるけど、将来的にそれでいいのか……。この里でしか暮らせない人生になちゃうからね。
その日の晩、食事の後にゆっくりと相談してみる。
「ネイトスはどう思う?」
「ルルーチアですかい。歳の割にしっかりしてますな。同い年の獣人の子供は家族と一緒ですが、あの兄妹は自立できてますからね」
確かに支援も受けずに、二人だけで支障なく生活している。家はいつも綺麗にしているし、二人とも健康に過ごしている。
「この里から出て外で暮らしたいと言う子供はいませんぜ。他の子も、十五歳で眷属にしてもらうのを待っているって感じですな」
この里で眷属にしたのは、十五歳の成人になった者だけだ。
リザードマンの族長に護衛で付いてきた二人も、結局リビティナに忠誠を誓ってそのままこの里に住みついている。
「この里は色々と便利ですからね。里に居れば飢える事も、魔獣に襲われる事もありませんし」
森を切り開いて最初は苦労したけど、自分で言うのも何だけど今はすごくいい里になった。
「そうだね、ルルーチアちゃんの希望通り眷属にしようか」
――翌日。
ルルーチアとフィフィロを家に呼ぶ。間もなく十二歳になる子供を眷属化するのは初めてだから、念のためエマルク医師にも来てもらって今の状態を診てもらう。
「熱もないし、体の調子も良いようじゃな。健康体じゃよ、眷属化しても問題ないじゃろう」
医師の許可も出た。
「ルルーチアちゃん、本当に眷属にしてもいいんだね」
「はい、よろしくお願いします」
「今からだと夕方前には終わるけど、それまで高熱が出て苦しむことになるよ」
「はい、分かってます。……お兄ちゃん、傍にいてね」
「ああ、ルルーチア。頑張るんだぞ」
眷属化が見たいとエルフィも立ち会っていて、「頑張ってね」とルルーチアを励ましている。
「じゃあ、首筋を見せてくれるかい」
ベッドに座ったルルーチアの前まで行き、首筋を露わにする。その細い首筋の毛をかき分けて牙を立てる。
「ウッ!」という小さな唸り声を耳元で聞いて、なおも牙を深く差し入れ溢れる血を吸い、リビティナの目が赤く光る。
「お兄ちゃん……」
隣りにいるフィフィロの手をギュッと握り痛みに耐えて体を固くする。しばらくすると体の力も抜けてリビティナも牙を抜く。
「ルルーチア、大丈夫かい」
「……うん、お兄ちゃん、大丈夫だよ……。なんだかフワフワするの」
そう言うルルーチアの肩を抱きかかえて、フィフィロがゆっくりとベッドに寝かせる。
「ねえ、リビティナ。これで終わったの」
「まだこれからが大変なんだよ。何せ体の作りを変えてしまうからね」
今もベッドの横ではフィフィロが手をつなぎ見守っている。
そしていつものように眷属化が起こり苦しみだす。声にならない声を出してベッドの上で体をくねらせる。
「ルルーチア、ルルーチア。頑張るんだぞ」
ベッドから落ちないように、フィフィロと一緒に布団の上から押さえ付ける。その後、ルルーチアは高熱でうなされながらもベッドに横たわる。
「ねえ、リビティナ! あんなに苦しんでいるけど大丈夫なの、死んじゃったりしないわよね」
エルフィが居ても立ってもいられないと言う様子で聞いてくる。知り合いがこんなにも苦しんで不安にもなるのも分かるよ。でも大丈夫だよ、エルフィ。
「あと一時間程で、人間の体に変わるから心配する事ないよ。予定通りさ」
「そうは言っても、あんなに苦しんで……。前に血を分けた時は怪我も治って回復したでしょう」
「ボクの血は再生を促すからね。でも眷属化の時は、外殻遺伝子を壊す働きをするんだ」
「外殻遺伝子?」
遺伝子と言ってもエルフィには理解できないだろうけど、眷属にすることで全ての細胞の中にある遺伝子の一部を破壊してしまうのさ。
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