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第5章 眷属の里
第21話 大将軍
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「北部戦線が崩壊したそうだな」
「はっ、大将軍様。王国軍が国境を越え帝国内に侵入してきております」
北部の辺境伯は、伯爵になりたての若い貴族。他の三人の辺境伯に比べ兵力も少なく、容易に侵攻できると見積もられていたのだがな。よい陽動になると後から計画されたが、ちと急ぎ過ぎたか。
「南部戦線はどうなっておるか」
「はっ、順調に王国内の町を占領しており、こちらは計画通りであります」
この国に四人いる宮廷魔導士の一人を派遣しているのだから当然であろう。これで侵攻できなければ、帝国軍が余程ぼんくらと言う事だ。
元より南部の穀倉地帯を手に入れるのが今回の計画。ノルキア帝国の食糧問題は深刻で、三年にわたる不作により吾の国からの支援量は増えるばかり。
いつまでも支援し続ける訳にはゆかぬと、王国の肥沃な穀倉地を手に入れる計画を立てた。
「他の王国軍は動いておるのか」
「王都より、援軍が南部に差し向けられたようですが、到着までにはまだ時間がかかると思われます」
内陸からの援軍が到着する頃には、占領も完了できる予定だと報告している。
そのために、国境付近の辺境伯には陽動もかけている。あの者達に連携されると厄介だ。その一番大きなものが北部の侵攻だったのだがな。
重要な南部戦線には、長兄のゾワエルを任に当たらせた。あ奴ならそつなく熟すであろう。北部戦線に当たらせた次男には荷が重かったか。
「父上、只今帰還いたしました」
「ガリエルか。おぬしには期待しておったのだがな、残念じゃよ」
北部戦線より撤退してきた次男にはここで厳しくしておいて、この経験を今後に活かしてもらわねばな。
「父上。北部において魔王復活の兆しがあります」
「魔王の復活だと!!」
こ奴は自分の敗北の原因が、あの伝説の魔王にあると言うのか。言い訳するにしても、魔王の名を持ち出すなど度が過ぎると言うもの。
「私は最前線より離れた国境に近いエキソスの町で待機しておりました。そこへ魔法攻撃があり、夕刻の空を仰ぎ見たところ空中に人型の魔獣……魔王が翼を広げているのを目撃いたしました」
「お前の部隊には特一級魔術師を派遣していたであろう。その者はどうなった」
「襲撃を受けた際、魔王に対して応戦しましたが為す術もなく戦死しております」
その部隊には、帝国の一級魔術師や護衛の剣士、弓部隊もいながら攻撃が全く通用せず、短時間のうちに全滅したと言う。
「また最前線の戦場におりました部隊からも、魔族のものと思われる攻撃を受けたと聞いております」
「術者の見えぬ、巨大魔術のことか……」
「左様で」
二百五十年ほど前に起きた魔族との戦い。その初期における殲滅の平原における記録は不確かなものだが、その後に吾ら鬼人族が参戦した魔王城の戦いは正確な記録が残っている。
鬼人族から二万、当時独立を宣言した帝国軍から一万五千の兵が魔王城に向かった。その結果鬼人族だけで一万二千人もの死傷者を出し辛くも勝利した戦い。帝国軍においてはほぼ壊滅状態だったと記録されている。
その後崩れた魔王城を調査するも、魔族の死体はどこにもなく破壊された兵器だけが残っていたと言う。
魔王を倒した際にも、「我は不死身。復活し再びここに戻る」との呪詛めいた言葉を残したと記録にある。
城跡は帝国内にある。その魔王城を王国と協力して取り戻しに来たのか。
「あの魔王城の戦が今回も行われたと」
「今回は王国軍と連携したようで、それほど苛烈では無かったようです。ですが前線部隊の者が、夜間に人無き攻撃に追われたと言っております」
確かに夜間の攻撃は魔王の得意とするところ。今まで鳴りを潜めていた魔王が、吾の代で復活するとは……。
今は北部戦線が崩壊し、王国軍が帝国深くまで侵入しておる。その先まで進めば、吾らの国境と接する事になる。
「帝国の砦はどうなっておるか」
「現在、まだ被害は受けておらず、健在ではありますが……」
「ならば国境から遠いその砦に戦力を集中させて、迎え撃つのが最善であろう」
「父上。魔族の攻撃は前線を飛び越え、後方の部隊を狙ってきております。我が国土を直接狙うやも知れませんぞ」
うむ、魔族との戦いの記録にも、そのような戦術があったな。実際に魔族と戦ったと言うガリエルの言葉、核心を突いておるのかも知れん。
確かにこれ以上、帝国に肩入れする必要もないであろう。南部が順調なら、吾ら鬼人族の戦力を一部引かせても良かろう。吾の国を守るのを最優先とすべきだな。
「南部戦線の宮廷魔導士を呼び戻せ。北部国境付近を固めよ」
「はっ!」
あの者であれば魔王に対しても、対抗する事は可能であろうからな。
「はっ、大将軍様。王国軍が国境を越え帝国内に侵入してきております」
北部の辺境伯は、伯爵になりたての若い貴族。他の三人の辺境伯に比べ兵力も少なく、容易に侵攻できると見積もられていたのだがな。よい陽動になると後から計画されたが、ちと急ぎ過ぎたか。
「南部戦線はどうなっておるか」
「はっ、順調に王国内の町を占領しており、こちらは計画通りであります」
この国に四人いる宮廷魔導士の一人を派遣しているのだから当然であろう。これで侵攻できなければ、帝国軍が余程ぼんくらと言う事だ。
元より南部の穀倉地帯を手に入れるのが今回の計画。ノルキア帝国の食糧問題は深刻で、三年にわたる不作により吾の国からの支援量は増えるばかり。
いつまでも支援し続ける訳にはゆかぬと、王国の肥沃な穀倉地を手に入れる計画を立てた。
「他の王国軍は動いておるのか」
「王都より、援軍が南部に差し向けられたようですが、到着までにはまだ時間がかかると思われます」
内陸からの援軍が到着する頃には、占領も完了できる予定だと報告している。
そのために、国境付近の辺境伯には陽動もかけている。あの者達に連携されると厄介だ。その一番大きなものが北部の侵攻だったのだがな。
重要な南部戦線には、長兄のゾワエルを任に当たらせた。あ奴ならそつなく熟すであろう。北部戦線に当たらせた次男には荷が重かったか。
「父上、只今帰還いたしました」
「ガリエルか。おぬしには期待しておったのだがな、残念じゃよ」
北部戦線より撤退してきた次男にはここで厳しくしておいて、この経験を今後に活かしてもらわねばな。
「父上。北部において魔王復活の兆しがあります」
「魔王の復活だと!!」
こ奴は自分の敗北の原因が、あの伝説の魔王にあると言うのか。言い訳するにしても、魔王の名を持ち出すなど度が過ぎると言うもの。
「私は最前線より離れた国境に近いエキソスの町で待機しておりました。そこへ魔法攻撃があり、夕刻の空を仰ぎ見たところ空中に人型の魔獣……魔王が翼を広げているのを目撃いたしました」
「お前の部隊には特一級魔術師を派遣していたであろう。その者はどうなった」
「襲撃を受けた際、魔王に対して応戦しましたが為す術もなく戦死しております」
その部隊には、帝国の一級魔術師や護衛の剣士、弓部隊もいながら攻撃が全く通用せず、短時間のうちに全滅したと言う。
「また最前線の戦場におりました部隊からも、魔族のものと思われる攻撃を受けたと聞いております」
「術者の見えぬ、巨大魔術のことか……」
「左様で」
二百五十年ほど前に起きた魔族との戦い。その初期における殲滅の平原における記録は不確かなものだが、その後に吾ら鬼人族が参戦した魔王城の戦いは正確な記録が残っている。
鬼人族から二万、当時独立を宣言した帝国軍から一万五千の兵が魔王城に向かった。その結果鬼人族だけで一万二千人もの死傷者を出し辛くも勝利した戦い。帝国軍においてはほぼ壊滅状態だったと記録されている。
その後崩れた魔王城を調査するも、魔族の死体はどこにもなく破壊された兵器だけが残っていたと言う。
魔王を倒した際にも、「我は不死身。復活し再びここに戻る」との呪詛めいた言葉を残したと記録にある。
城跡は帝国内にある。その魔王城を王国と協力して取り戻しに来たのか。
「あの魔王城の戦が今回も行われたと」
「今回は王国軍と連携したようで、それほど苛烈では無かったようです。ですが前線部隊の者が、夜間に人無き攻撃に追われたと言っております」
確かに夜間の攻撃は魔王の得意とするところ。今まで鳴りを潜めていた魔王が、吾の代で復活するとは……。
今は北部戦線が崩壊し、王国軍が帝国深くまで侵入しておる。その先まで進めば、吾らの国境と接する事になる。
「帝国の砦はどうなっておるか」
「現在、まだ被害は受けておらず、健在ではありますが……」
「ならば国境から遠いその砦に戦力を集中させて、迎え撃つのが最善であろう」
「父上。魔族の攻撃は前線を飛び越え、後方の部隊を狙ってきております。我が国土を直接狙うやも知れませんぞ」
うむ、魔族との戦いの記録にも、そのような戦術があったな。実際に魔族と戦ったと言うガリエルの言葉、核心を突いておるのかも知れん。
確かにこれ以上、帝国に肩入れする必要もないであろう。南部が順調なら、吾ら鬼人族の戦力を一部引かせても良かろう。吾の国を守るのを最優先とすべきだな。
「南部戦線の宮廷魔導士を呼び戻せ。北部国境付近を固めよ」
「はっ!」
あの者であれば魔王に対しても、対抗する事は可能であろうからな。
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