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第1章 始まりの洞窟

第9話 狼討伐

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 依頼の狼は町の外の森にいる。やる気満々で出かけたリビティナだったけど、城門の手前で尻込みする。

 ――この冒険者カードがあれば、ここを通れるはず。通れるはずだよね。

 自分は冒険者、冒険者なんだよ~と、胸にかけたカードを門番さんに見せながら城門を潜る。

「ちょっと君、ここに来るのは初めてかな」
「は、はい。今朝早くに、反対側の門から入って来て……依頼で森に行きます」

 声を掛けられ、キーの高くなった声で答えた。本当は城門を通るのは初めてだけど、なんとかごまかさないと……。

「この町の城門は陽が落ちると閉まってしまう。東門にもあったと思うが、陽が落ちた後はこちら側の扉に来てくれ。中の兵士に声を掛けてくれたら門の中に入れるからね。できればその前に帰って来てくれるかな」
「は、はい、分かりました」

 親切に門の入り方を説明してくれた。この町は山猫やらチーター、トラ族と言った猫科の獣人が多いようでみんな親切だ。それがこの国なのか、この町だけの事なのか知らないけど、初めての町がここで良かったよ。
 頑張って依頼を達成しようと、元気いっぱいで森へと向かう。

 城門の先には馬車がすれ違えるくらいの広い道と、その両脇は草原になっている。空から見た光景だと、この道はずっと西へと続いていて、多分別の町へと向かう街道だろう。

 目的の森へ行くには街道を外れて、草原の先へ行かないといけない。街道沿いには人が多くて飛ぶこともできず歩いて行くことになる。
 そして森の奥へ。ここなら人の目はないようだし、ヴァンパイアの力を使っても大丈夫そうだ。常人ではありえない速度で、木々の間を縫うように走って狼の魔獣を探していく。
 この森にも大型の鹿や、サーベルタイガーがいるようだね。でも今日は君達じゃないんだ。リビティナは目的の狼を探し走り回る。

「あっ、いた、いた」

 いつも見かける、銀色のたてがみの狼。風魔法で攻撃して俊敏な動きをする魔獣だ。狼はリビティナを見つけるなり目に見えない風魔法を二発放ってきた。でもリビティナには僅かに震える空気の流れと音で風のやいばがどこから飛んでくるのか分かる。それを避けつつ狼に急接近する。
 それを見た狼は驚いたように横に素早く移動しながら、続けざまに風魔法を撃って来た。

「甘いね。風魔法はこうして使うんだよ」

 狼の風魔法を避けながらリビティナが使った風魔法は、尋常ではないスピードで狼魔獣の首をはねた。驚きのあまり見開かれた目をそのままに、首がスローモーションのように傾き地面に落ちていく。

「よし、まずは一匹!」

 その後、もう一匹の狼を倒したところで、陽が傾いてきた。

「目標の三匹は倒せなかったけど、今日はこれだけで許してくれるかな」

 依頼には五日以内で三匹と書いてあったから、先にこの獲物をギルドに持って行けばいいだろう。門が閉まる前に帰らないとダメだし、今日はこれで切り上げよう。

 狼二匹を肩に担ぎ、首を手に持って森の端まで来て少し悩む。このまま重い魔獣を二匹も肩に担いで帰るのは不自然だ。普通の人にそんな事はできない。でも獣人なら力持ちだから大丈夫? ……いや、いや。不審がられて正体がばれたら困ってしまう。

 ――街道で誰かの荷車にでも乗せてもらおうかな。

 街道近くで待っていると、町へ向かう行商人の荷馬車が通りかかった。

「すみませ~ん。この魔獣を冒険者ギルドまで運んでもらいたいんですけど」

 冒険者カードを見せながら、行商人の山猫族の人に頼み込んだ。この人は町の住人で隣町に行商に行った帰りだそうだ。荷台の空いた場所に魔獣を乗せてあげると言ってくれた。

「しかし、立派な狼だね。これを巡礼者のあんたが倒したのかい」
「はい、何とか倒すことができて良かったです。これぐらいの大きさなら、今までにも倒したことあるんですよ」

 今はお金が無いから、運搬費は報酬をもらった後に支払うと言うと、すぐ近くなんだからお金は要らないと言われた。この人も親切な人だ~。
 その後も色々とごまかしながら話を合わせたけど、この人はリビティナの住んでいる山の事を知っているみたいだ。

「ああ、あの高い山かい。晴れた日には、いつもよく見えるね」
「あの山にヴァ……誰かが眷属になりたい人を待っているって、聞いた事はありますか」
「眷属? そんな話は聞いたことが無いね。山の周りは深い森に囲まれているって言うから、あの山まで行こうと言うのは冒険者ぐらいだろうね」

 眷属の事はあまり知られてないようだね。がっかりだよ。

 荷台に乗せてもらったまま、城門を越えて冒険者ギルドまで送ってもらう。こういう獣の搬入はギルドの横にある馬車の停車場近くの入り口を使うらしい。この行商の人も時々ギルドで取引すると言っていた。

「教会本部まではまだ距離があるからね。巡礼頑張るんだよ」
「はい、ありがとうございました」

 狼の胴体は外に置いて、首だけを持って横の入り口から中に入る。そこは今朝来た大きな引き取りカウンターの前。その奥にいる優しいトラ族の人に、依頼票と狩って来た狼の首を見せる。

「すみません。まだ二匹しか倒せてないんですけど、引き取ってもらえますか?」
「何だこれは、しかも二匹だと!」
「ご、ごめんなさい。もう一匹は明日必ず持ってきますから……」

 今朝は優しかったトラ族の人が、持ってきた首を見るなり目を吊り上げて怒ったように言ってきた。

「今日一日、お前一人でこれを狩って来たのか! こいつはこの依頼票の狼じゃない。魔獣の銀色狼なんだぞ」
「ご、ごめんなさい。間違ってましたか」
「馬鹿野郎、これはCランクの魔獣だ。こいつは単独で行動するから、二、三日森を探さないと見つけられない奴だ。それを今朝登録したばかりのお前が狩って来ただと!」

 どうも依頼票に書いてあるのは、魔法を使わない普通の狼で、群れを作って行動するから、EかDランク冒険者がパーティーを組んで攻撃すれば三、四匹はすぐに倒せる獲物だそうだ。

「こんな鋭い切り口で、しかも一撃で倒してるじゃないか。剣、いや魔法か……」

 外に置いておいた狼の胴体を見ながら、トラ族の人が唸っている。

「こんな綺麗な死体は見たことが無い。体内の魔石どころか毛皮や肉も上等なものが取れるぞ」
「あの……買い取ってもらえますか」
「当たり前だ。こんな一級品、逃すわけにはいかんからな」

 リビティナが受けた狼の依頼は評価に影響がないようにキャンセルしてくれるらしい。今回の獲物もCランクだから、規定により評価には繋がらないけど、買い取りは通常以上のお金がもらえる事になった。二匹で金貨一枚と銀貨二十枚だそうだ。

 これで今晩は宿には泊まれそうだと、ほくほくしながらリビティナは冒険者ギルドの受付窓口でお金を受け取った。
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