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第8章 ノルキア帝国戦争

第79話 帝国戦争終結

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「エリーシア、よくやってくれたね。終戦のめどが立ったんだ」
「はい、ミシュロム共和国の女王様とキノノサト国の大将軍様が仲介に当たってくれています」

 大将軍は当初、乗り気でなかったそうだけど、女王の口添えで動いてくれた。
 とりわけ女王は終戦に熱心だったそうだ。戦争をしている間、ミシュロム共和国との貿易は停滞し、その再開を望む商人達の声が大きくなったようだね。
 帝国に肩入れしているキノノサト国も、これ以上戦争が長引けば派遣している自国の兵士が損耗する。それを嫌い、兵の引き上げを決定したようだ。

 女王は終戦協議のため、大将軍の所へ行く前に魔国に立ち寄り、最終調整を行なう予定になっている。

「魔王殿。魔国製のシャンプーや化粧品が底をついておりまして、この停戦の間に州都のアルスヘルムへ商品を卸してはくれないでしょうか」

 終戦協議の場に現れたヴェルデ女王に、困り顔でそんな事を言われてしまったよ。女王も魔国の化粧品を愛用しているそうで、御婦人方にとっては死活問題のようだね。

 それはさておき、お城の会議室で終戦協定案の詰めの作業をする。女王と文官達のいる手前、魔王然としてしゃべらないといけない。

「要はどこに国境線を引くかというのが問題なのだろう」
「そうですわね。魔国軍は帝都近くまで進軍しています。だからといって帝都の目と鼻の先を国境にすると言えば、帝国が難色を示すでしょう」

 帝国が出してきた三つの部隊全てが敗走し、帝都に逃げ込んでいる。今は皇帝の直轄領深くの位置で、帝都防衛部隊と睨み合っているから、そこが均衡点であると言えるんだけど……。

「ならば、この森と川のある辺りで良かろう」

 リビティナが地図を指し示す。この場所なら、今後帝国軍が簡単に攻め込むこともできないだろうからね。

「こんなに後退させてよろしいのですか。魔王殿は欲がありませんわね」

 終戦協定が早く締結されるなら、少々占領地が狭くなっても仕方ないさ。土地の広さではなく産業として発展できる町があればそれでいいからね。無傷で占領した貴族の領地と、帝国との間に緩衝地帯となる森があれば充分だよ。

 女王もエリーシアもこれであれば、帝国は納得するだろうと言っている。この後、女王一行はキノノサト国の大将軍の元に行き、調停案を作成して帝国との仲介をしてくれる。
 女王が出発する日、リビティナは賢者として見送る。

「ヴェルデ女王。お礼と言っては何だけど、シャンプーや化粧品を渡しておくよ」
「あら、ありがとうございます。やはり魔国製は香りがいいですわね」

 ここまで来てくれた調停団の皆の分を含めて、補充物資を馬車に積み込んだ。
 ミシュロム共和国との貿易も終戦に先んじて再開すると言うと、すごく喜んでくれたよ。これで州都だけでなく共和国全土に商品が行き渡り、商人の不満も和らぐだろう。終戦になれば観光事業も再開される。やっぱり平和が一番だよ。


 その後、女王の苦労のかいあって終戦協定が結ばれる運びとなった。調印式は第三国である、キノノサト国の首都で行なわれる。

「それでは、双方ともこの和平条約に異存はないな」

 お城の三階にある広間。テーブルを挟んだ双方の間に座るダグスエル大将軍の言葉に賛同の意を表し、条約の調印を行なう。

 初めて目にするノルキア帝国の皇帝、ビヨルト・エバンジエ二世。クマ族ではあるけど、ひょろっとした体躯に覇気のない目をしていた。
 なんの苦労もせずに育ってきた貴族といった感じで、豪華な衣装を身に纏っているけど、その中身は何もない人形のようだ。

「建国以来、キノノサト国を後ろ盾として、やっと独立を確保している国ですからな」
「他国の言いなりになり、自国独自の産業もない……」

 囁く文官達の声が耳に入る。リビティナも見知った帝国の国民は貧しい者ばかりだった。この皇帝の下で苦労しているのだろう。

 今回もリビティナは椅子にふんぞり返って座っているだけだ。ネイトスも条約の調印を淡々と熟し、相手と握手もせず会釈もしない。敵国同士の条約。戦争を終わらせるための調印式であれば、それも仕方ない。

 形式ばった調印式が終わった後、キノノサト国の役人が近づいて来て膝を折り、正座の姿勢で伝言を伝えてきた。

「魔王殿。巫女様がお越しになっております。懇談を希望されておりますゆえ、ご足労願えないでしょうか」

 巫女様が宮殿を離れて、このお城に来るのは珍しい事。わざわざ会いに来てくれたなんて嬉しいよ。このお城に来て、ずっと窮屈な思いをしていたからね。巫女様は魔王ではなくリビティナとして接してくれるから、気が休まるよ。

 役人に連れられて行った先は、前と同じ城の敷地内にあるお屋敷。今回はネイトスとエリーシアも一緒にお邪魔する。

「リビティナ様、お久しゅうございます」
「巫女様も元気にしてたかい」

 かしこまって、正座の姿勢で両手を床に突いていたエリーシアが、巫女様のざっくばらんな物言いに驚いている。

「あ、あの。巫女様はリビティナ様が魔王である事をご存じなのですか」
「ええ、この前の会見の折に。エリーシア様も気を楽にされてよろしいですわよ」

 ニコリと笑顔を向けると、エリーシアの緊張も解けたように頭を上げる。「ご子息のミノエル君はお元気ですか」と声を掛けられ、エリーシアも柔らかく微笑む。

「リビティナ様。此度はウィッチアがご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

 巫女様の後ろには先輩巫女の二人と、その奥にはウィッチアが座っていた。
 やっぱり巫女様に無断で戦場に出て来ていたんだね。奥のウィッチアに目をやると、巫女様に怒られたのか、シュンとして小さくなっている。

「だって、こいつにリベンジしたくて……」

 だからといって、戦争に参加しちゃダメなんだからね。

「戦争以外でなら、勝負してあげるからさ」
「あのSS級魔術を使った奴もか」
「SS級? ああ、フィフィロ君の事だね。人が死ぬようなこと以外でなら協力してくれるよ」

 ウィッチアも力が有り余って仕方ないんだろう。まだお子様だしね。
 それを聞いていた巫女様か提案してきた。

「それであれば武闘大会を開きましょうか。長く行なわれていませんでしたし」

 武闘大会か~、それはいいね。キノノサト国だけじゃなくて妖精族のミシュロム共和国も一緒に三ヵ国で開催しようと相談する。

 うん、うん。こういう平和的な催しなら大歓迎だよ。
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