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第8章 ノルキア帝国戦争
第80話 武闘大会1
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『さて、本日より始まりました武闘大会。キノノサト国、魔国、ミシュロム共和国、三ヵ国の協賛による大きな大会となっております。その開会式は、先ほど中央広場で行なわれ……』
「ねえ、ウィッチア。今の声、あの箱から聞こえてきたようだけど魔道具かしら」
「そうですよ、ヒアリス様。前に妖精族の町に行った時、見かけたことがあります」
ここは魔国の殲滅の平原に作られた武闘会場。平原は何万もの兵が戦闘を繰り広げたと言うだけあって、すごく広い。
その中央広場で、さっきリビティナが大会開始の宣言をしていたわね。
「リビティナったら、またキャラ作りして偉そうにしゃべっていたわね。面白いったらありゃしないわ」
「そんな事言ってはダメですよ。あれもお仕事なのですから」
他国に出ることのない巫女様だけど、今回の武闘大会の発案者でもあり、どうしても行きたいと言われたのでお忍びで来ている。
「そういえば、ヒアリス様。宮廷のお仕事は大丈夫なんですか」
「ええ、サイエラ達に任せてきましたから。ちょうど祭事もありませんし、今は暇ですから心配いりませんよ」
春の降臨祭も終わったところだし、忙しくはないようね。本来の仕事である神様のお言葉は何十年も聞くことができていないらしいから、他の巫女に任せても大丈夫なんでしょうね。
こうやってヒアリス様と外を出歩くなんて子供の頃以来だわ。ヒアリス様は初めての国外。いつもの落ち着いた雰囲気とは違って、はしゃぐようにキョロキョロと周りを見ながら歩く。
そんな国の重要人物であるヒアリス様の警護はワタシを含めて万全。気付かれないように周囲を覆面警護員が取り巻く。
当然、ヒアリス様も巫女服ではなく変装をしてもらっている。
袴にも似た膝下まである黒いゆとりのあるスカートに上品な革のブーツ。白い絹のジャケットとくれない色の上着。細い腰に巻いた赤いリボンも素敵だわ。
そして四本角を隠すための、ベージュ色で大きめの丸い帽子を目深にかぶってもらっている。
とはいえ、こんな機会はめったにないんだから楽しまないと損だわ。
『本日の予選会は、中央広場と東西の会場で行なわれています。北広場では各国の武器や防具などを展示しております。お子様の遊具もございますので、皆さんお立ち寄りください』
場内を案内するアナウンスが流れる。
広い会場には剣や魔術などの部門に分かれた闘技場だけでなく、子供が遊べる遊技場まであるらしい。近くには観光地の魔王城跡もあって、はるばるこの地まで来た外国の人々を飽きさせないような工夫が施されているのね。
「ヒアリス様。武闘会の予選会場でも行ってみましょうか」
「そうね、それよりも向こうで何か食べ物を売っているみたいよ。そちらに行ってみましょうか」
露店が並ぶ一角、大勢の人が行き交い食べ物を手にしている。目の前を通った妖精族のカップルも、お菓子のような物を食べながら歩いていた。
「珍しいものが多いわね。あの果物が乗ったお菓子は何かしら」
「ミシュロム共和国のお菓子ですね。これなんか美味しそうですよ」
お菓子といえば、ミシュロム共和国産が一番ね。屋根と柱だけの建物の中にテーブルがたくさん置いてあって、ゆっくりと座って食べる事ができる。
共和国に行った時に食べた甘いお菓子があったから、それを買ってきた。同じ物を注文して、まずはワタシが食べて毒見をする。もう一方をヒアリス様に渡して食べてもらう。
「すごく甘いわね。果物の酸味ともよく合うわ」
初めて食べるお菓子に、ヒアリス様は夢中になって、あっという間に食べてしまった。他にも珍しい物は無いかと屋台を探して歩く。
「あら、こっちのフワフワの白いお菓子はすごく安いわね」
クマ族の女性店主がいる露店。多分魔国のお店ね。でもこんな丸いお菓子は見たことがないわ。
「これはポップコーンといってトウモロコシのお菓子だよ。一つどうだい」
塩味のお菓子だそうだけど、四角い紙袋に沢山詰められている。確かに安いわね。一袋と飲み物も一緒に買って、ヒアリス様と一緒にベンチに座って食べる。
「あら、これも美味しいわね。手が止まらなくなるわ」
普段宮廷から出る事のないヒアリス様。食べ物や見る物全てに興味があるようね。ここには武闘大会に参加している三ヵ国の屋台が並ぶ。
見に来ている人達も種族はバラバラ。武闘会だけでなく踊りや大道芸のイベントもあって、大人から子供まで楽しめて多くの人々が集まる。
「前の武闘大会は、大名お抱えの戦士達ばかりで、覇権争いみたいになって廃れてしまったの。こういう雰囲気はすごくいいわね」
今回の発案はヒアリス様だけど、リビティナがアレンジして運営している。すごく楽しい大会になっているとヒアリス様も顔をほころばせる。
次は北の広場に行こうと、途中の予選会場を所々見ながら歩いて行く。
「ウィッチアは武闘会に参加しないのね」
「はい、ワタシは最終日のエキジビションにだけ参加するんです」
ここに参加するようなザコを相手にしても面白くないもの。ワタシは魔国の宮廷魔導士クラスの奴と対戦するのが楽しみで、ここに来ているんですからね。
「あ、ほら、あそこみたいよ」
丸太で作った建物や、石造りの大きな建物がいくつかある北の広場。その一つ、石垣の上に木の壁がある少し頑丈そうな建物に、『各国の武具、防具の展示会場』と書かれた看板が掲げられている。
ヒアリス様は闘技会よりも、このような所に興味があるみたい。
料金を払って中に入ると、ガラスケースに納められているマダガスカル鋼の盾が展示してあった。大勢の人が集まるその左右には警備兵が配置されていて、厳重に守られている。
「すげ~な、あの盾全部がマダガスカル鋼でできているんだと。一体いくらするんだ」
「あの黒く輝いている金属、すごく綺麗ね。あれを盾として使うなんてもったいないわね」
武人達は伝説の盾に目を輝かせて、家族連れや女性はその輝きに目を奪われている。大将軍に献上された国宝の盾。それを一般人に見せるなんてキノノサト国では考えられない事だわ。
その他にも、各国特有の武器や、古来より使われてきた歴史的な武器などが木台に立て掛けられて展示されている。槍の形が時代によって変わっていくのを、ヒアリス様は興味深げに見ていた。
「素晴らしい展示物ですわね。でもウィッチアの羽の魔道具が無かったわ」
ヒアリス様が言うように、順路を歩き最後まで見たけど、展示されていなかった。武具でいえば最新となる飛行ユニット。ヒアリス様はここに展示されていると期待していたようだわ。
おかしいわね。リビティナに貸してほしいと言われて、二機の飛行ユニットを渡してあったのに……。
「ねえ、ウィッチア。今の声、あの箱から聞こえてきたようだけど魔道具かしら」
「そうですよ、ヒアリス様。前に妖精族の町に行った時、見かけたことがあります」
ここは魔国の殲滅の平原に作られた武闘会場。平原は何万もの兵が戦闘を繰り広げたと言うだけあって、すごく広い。
その中央広場で、さっきリビティナが大会開始の宣言をしていたわね。
「リビティナったら、またキャラ作りして偉そうにしゃべっていたわね。面白いったらありゃしないわ」
「そんな事言ってはダメですよ。あれもお仕事なのですから」
他国に出ることのない巫女様だけど、今回の武闘大会の発案者でもあり、どうしても行きたいと言われたのでお忍びで来ている。
「そういえば、ヒアリス様。宮廷のお仕事は大丈夫なんですか」
「ええ、サイエラ達に任せてきましたから。ちょうど祭事もありませんし、今は暇ですから心配いりませんよ」
春の降臨祭も終わったところだし、忙しくはないようね。本来の仕事である神様のお言葉は何十年も聞くことができていないらしいから、他の巫女に任せても大丈夫なんでしょうね。
こうやってヒアリス様と外を出歩くなんて子供の頃以来だわ。ヒアリス様は初めての国外。いつもの落ち着いた雰囲気とは違って、はしゃぐようにキョロキョロと周りを見ながら歩く。
そんな国の重要人物であるヒアリス様の警護はワタシを含めて万全。気付かれないように周囲を覆面警護員が取り巻く。
当然、ヒアリス様も巫女服ではなく変装をしてもらっている。
袴にも似た膝下まである黒いゆとりのあるスカートに上品な革のブーツ。白い絹のジャケットとくれない色の上着。細い腰に巻いた赤いリボンも素敵だわ。
そして四本角を隠すための、ベージュ色で大きめの丸い帽子を目深にかぶってもらっている。
とはいえ、こんな機会はめったにないんだから楽しまないと損だわ。
『本日の予選会は、中央広場と東西の会場で行なわれています。北広場では各国の武器や防具などを展示しております。お子様の遊具もございますので、皆さんお立ち寄りください』
場内を案内するアナウンスが流れる。
広い会場には剣や魔術などの部門に分かれた闘技場だけでなく、子供が遊べる遊技場まであるらしい。近くには観光地の魔王城跡もあって、はるばるこの地まで来た外国の人々を飽きさせないような工夫が施されているのね。
「ヒアリス様。武闘会の予選会場でも行ってみましょうか」
「そうね、それよりも向こうで何か食べ物を売っているみたいよ。そちらに行ってみましょうか」
露店が並ぶ一角、大勢の人が行き交い食べ物を手にしている。目の前を通った妖精族のカップルも、お菓子のような物を食べながら歩いていた。
「珍しいものが多いわね。あの果物が乗ったお菓子は何かしら」
「ミシュロム共和国のお菓子ですね。これなんか美味しそうですよ」
お菓子といえば、ミシュロム共和国産が一番ね。屋根と柱だけの建物の中にテーブルがたくさん置いてあって、ゆっくりと座って食べる事ができる。
共和国に行った時に食べた甘いお菓子があったから、それを買ってきた。同じ物を注文して、まずはワタシが食べて毒見をする。もう一方をヒアリス様に渡して食べてもらう。
「すごく甘いわね。果物の酸味ともよく合うわ」
初めて食べるお菓子に、ヒアリス様は夢中になって、あっという間に食べてしまった。他にも珍しい物は無いかと屋台を探して歩く。
「あら、こっちのフワフワの白いお菓子はすごく安いわね」
クマ族の女性店主がいる露店。多分魔国のお店ね。でもこんな丸いお菓子は見たことがないわ。
「これはポップコーンといってトウモロコシのお菓子だよ。一つどうだい」
塩味のお菓子だそうだけど、四角い紙袋に沢山詰められている。確かに安いわね。一袋と飲み物も一緒に買って、ヒアリス様と一緒にベンチに座って食べる。
「あら、これも美味しいわね。手が止まらなくなるわ」
普段宮廷から出る事のないヒアリス様。食べ物や見る物全てに興味があるようね。ここには武闘大会に参加している三ヵ国の屋台が並ぶ。
見に来ている人達も種族はバラバラ。武闘会だけでなく踊りや大道芸のイベントもあって、大人から子供まで楽しめて多くの人々が集まる。
「前の武闘大会は、大名お抱えの戦士達ばかりで、覇権争いみたいになって廃れてしまったの。こういう雰囲気はすごくいいわね」
今回の発案はヒアリス様だけど、リビティナがアレンジして運営している。すごく楽しい大会になっているとヒアリス様も顔をほころばせる。
次は北の広場に行こうと、途中の予選会場を所々見ながら歩いて行く。
「ウィッチアは武闘会に参加しないのね」
「はい、ワタシは最終日のエキジビションにだけ参加するんです」
ここに参加するようなザコを相手にしても面白くないもの。ワタシは魔国の宮廷魔導士クラスの奴と対戦するのが楽しみで、ここに来ているんですからね。
「あ、ほら、あそこみたいよ」
丸太で作った建物や、石造りの大きな建物がいくつかある北の広場。その一つ、石垣の上に木の壁がある少し頑丈そうな建物に、『各国の武具、防具の展示会場』と書かれた看板が掲げられている。
ヒアリス様は闘技会よりも、このような所に興味があるみたい。
料金を払って中に入ると、ガラスケースに納められているマダガスカル鋼の盾が展示してあった。大勢の人が集まるその左右には警備兵が配置されていて、厳重に守られている。
「すげ~な、あの盾全部がマダガスカル鋼でできているんだと。一体いくらするんだ」
「あの黒く輝いている金属、すごく綺麗ね。あれを盾として使うなんてもったいないわね」
武人達は伝説の盾に目を輝かせて、家族連れや女性はその輝きに目を奪われている。大将軍に献上された国宝の盾。それを一般人に見せるなんてキノノサト国では考えられない事だわ。
その他にも、各国特有の武器や、古来より使われてきた歴史的な武器などが木台に立て掛けられて展示されている。槍の形が時代によって変わっていくのを、ヒアリス様は興味深げに見ていた。
「素晴らしい展示物ですわね。でもウィッチアの羽の魔道具が無かったわ」
ヒアリス様が言うように、順路を歩き最後まで見たけど、展示されていなかった。武具でいえば最新となる飛行ユニット。ヒアリス様はここに展示されていると期待していたようだわ。
おかしいわね。リビティナに貸してほしいと言われて、二機の飛行ユニットを渡してあったのに……。
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